✿第二幕【誰が彼女を殺したか?】✿
第51話 どこにでもいる女子高生 −前−
もう四回も、大好きな子を死なせている。
一回目と二回目は自殺。
三回目と四回目は他殺。
五回目の今回が、桜子ちゃんと俺が一緒に生きられる最後の世界。今度こそ何も間違えないようにしないといけない。
もう恋人にはなれなくていい。
嫌われて軽蔑されてしまっても構わない。
桜子ちゃんを助けるためなら、俺はなんだってできるから。
✿ ✿ ✿
本当の初対面―― 一回目の出会いは、二〇一七年の四月の放課後の図書室だった。その日は新学年になって初めての委員会が開かれて、みんなで自己紹介をしていた。
隣の席に座った、小柄な女子生徒が立ち上がる。特になんてことない、平凡な少女だと思っていた。雰囲気的に、スクールカーストは下のほう。周りに流されるままに愛想笑いを浮かべて生きていそうな、どこにでもいる女子高生。良く言えば品行方正、悪く言えば地味。
自分の来世を投げ売ってまで救いたいと思う相手にしては、第一印象はそこまで良くはなかった。
「一年F組の、紫月 桜子です。一年間よろしくお願いします」
やや高めの、爽やかで柔らかな声が耳に入る。想像よりも綺麗な声をしていた。たぶんこの委員会メンバーのなかで、一番俺の心に残る声だったと思う。
しづき、さくらこ。
その名前を、心のなかで舌の上に載せる。
形式的な拍手をパチパチとしながら、手元にある名簿に視線を落とした。「紫月 桜子」という名前を見つける。
紫の月、桜の子。
覚えやすい名前だな、と思った。
彼女が席に着いたあと、今度はこちらが立ち上がる。ちなみにこのときの俺は、まだ黒髪のままだった。
「二年A組、花咲 薫です。よろしくお願いします」
口元に微笑をたたえ、軽く頭を下げる。先程よりも大きめな拍手の音のなか、
誰かに惚れられるのには、もう慣れっこだ。物心ついた頃には、自分が女性に好かれやすい性質をしているのだと理解していた。俺はまた誰かに恋をされても、自分がその人を想っていない限り、きっと男女交際は断り続けるんだろう。変にロマンチストなところのある俺は、はじめての彼女も性行為も、好きな人とがいいだなんて夢を見ていた。
ちらりと隣の紫月 桜子を見やれば、頬は染めていないが、ぽんやりとこちらを見つめている。目が合ってしまった気がして愛想笑いを浮かべると、彼女もほんの少し口角を上げた。
そんなふうな、なんてことない、ただ委員会が一緒だっただけの後輩。
その後の当番決めのくじ引きで、偶然同じ火曜日の担当になっただけの、はずだった。
✿ ✿ ✿
毎週火曜日の昼休みと放課後に、彼女と図書室で会う。返却や貸出のカウンター業務を、彼女と協力してやっている。他にも同じ曜日担当の先輩がひとりいるのだが、彼はいつもサボっていて来なかった。
本棚の整理の仕事はその当番の曜日ではない日の放課後にたまに回ってきて、その日はたしか木曜日だったと思う。
背が低めな彼女は、上のほうの棚を背伸びして整理しようとしていた。ほっそりとした指先が、届きそうで届かない。おまけにそこそこ分厚い本も並んでいるから、もし届いたとしても、うまく取れなくて足や頭に落としてしまったら危ないだろう。
「高いとこは俺がやるよ、紫月さん」
「あっ、ありがとうございます」
自分が整理していた棚を一段落つけたあと、彼女がいるほうへと近づいていく。そのとき俺は、彼女の左手首をなんの気なしに見てしまった。そして愚かにも、驚きを隠せなかった声を上げた。
「あ」
「なんですか、先輩」
思っていたよりも近くにいた俺に驚いたらしい彼女が、目を丸くしてこちらを見る。俺の視線の先を追い、さらに目を見開いた。
「あ、これは……っ」
一瞬で顔を引きつらせた彼女が後ずさり、クラっと足首が変な方向に曲がる。倒れそうな彼女を慌てて抱きとめたのが、彼女にするはじめてのハグだった。ふわりと、ほのかなシャンプーの香りがする。
「大丈夫? 紫月さん」
「だいじょばないです。左足やりました」
眉間に皺を寄せる彼女は、今にも泣きそうな声で答えた。黒い瞳が潤んで、なにかを恐れるようにこちらを見る。
左手首にあった無数の傷痕について、なにか言ってもいいのかわからなかった。
「保健室行ったほうが良いよね。支えれば歩けるかな?」
「たぶん、歩けます」
「じゃ、行こっか。腕掴まって」
「はい。ご迷惑おかけしてすみません」
保健室に行く旨を司書の先生に伝えてから、図書室を出る。彼女はうつむいていて、保健室に着くまでの間ずっと無言だった。
保健室の先生によると、どうやら軽い
彼女の鞄を持って隣を歩く。彼女は小さな背を丸めて、今にも消えてしまいたいと言うような様子をしていた。
「……先輩」
「なに、紫月さん」
「見ました、よね? ……リスカ痕」
「……うん、まあ」
嘘をつくことも誤魔化すこともできずに、歯切れ悪く肯定する。なんとも言えない気まずい空気がふたりの間を流れた。
「すみません、先輩」
「ん?」
長袖の白いブラウスの上から、彼女はぎゅっと左腕を握る。化粧っ気のない顔に自嘲的な笑みを浮かべ、彼女がこちらに視線をやった。
「見苦しいものをお見せして、すみません。なんでもないですので、どうかお気になさらず」
「……そっか」
「はい。ただの……ただの、メンヘラ女の日課、なので」
「なんかあったんなら、話聞くよ?」
今度の彼女はぱちりと瞬きをした後、嬉しそうな笑みを見せた。この
地味で暗い雰囲気に呑まれて平凡に見えていたが、よくよく見るとけっこう整った顔立ちをしているかもしれない。胸の奥のほうが、変にそわそわとくすぐられるような感じがした。
「ありがとうございます、先輩。……こんな私に、優しくして、くれて」
声をだんだんと震わせてそう言った彼女は、最後にすんと
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