第39話 十二月二十四日 「この世で一番愛してる」
冬休みに入って、十二月の二十四日の、クリスマスイブの朝。
ふたりの家のテーブルには、朝っぱらから豪華な食事が並んでいた。
「ローストチキンにブッシュドノエル……。とても朝六時の食事だとは思えませんね」
「今日は夜まで遊園地で遊ぶからねー」
「明日でも良かったと思いますけど、先輩がクリスマスイブに妙なこだわり持ってたみたいですからね。いただきます」
「うん。いただきます」
朝からがっつり食べたら胃もたれしそうだと思いながら、ローストチキンにかぶりつく。ジューシーで美味い。とても贅沢な気分だ。クルトンの載ったシーザーサラダも美味しい。
ブッシュドノエルに載っていた砂糖菓子は、桜子がサンタクロースを、花泥棒先輩がトナカイを食べた。桜子は頭からいただいてやったので、首無しサンタがしばし皿の上に鎮座していた。微グロである。
そんなふうに美味しく朝食をとっていると、なんとなく点けていたテレビのテロップに、見慣れた地名が表示されたのが見えた。ここからわりと近くにある女子大に通う学生が、行方不明になったらしい。
「行方不明って、怖いですね。まあ私は先輩がいつもそばにいてくれるので、そうそういなくなったりしないと思いますけど」
「とか言ってて、遊園地で迷子になってたら笑うけどね。迷子センターで、『高校一年生のさくらこちゃんが迷子になってます』ってアナウンスしてもらわなきゃ」
「えー。ひどい。自分で見つけてくださいよ。先輩の私への愛はそんなもんなんです?」
「ううん。この世で一番愛してる」
「ふへへっ、ありがとうございます!」
桜子は良い気分になって、ブッシュドノエルをぺろりと平らげた。今日はこんな、甘い一日を過ごしたい。
そして、彼に告白をするんだ。
❀ ❀ ❀
遊園地デートをするべく、ふたりはそれぞれデート服に着替える。花泥棒先輩は、今日も女装をしていた。ミルクティー色のストレートヘアのウィッグに、緑のタータンチェックのワンピースを着ている先輩は、とても美人さんだ。こんな綺麗な隣の人を歩くなんて、と気が引けてしまうくらい、彼は美しい。
桜子はと言えば、ざっくりとした編み目のゆるふわ白ニットに、
「はい、メイクできた。可愛い」
「ありがとうございます」
「髪飾り、これが良いって言ってたよね。冬っぽくないけどこれで良いの?」
「はい、これが良いんです。それに冬っぽくないなんて、いつでも桜の花びらのヘアピンをつけている先輩に言われても」
「それもそっか。……じゃあ、今日はおそろいってことだね」
「先輩のは一枚ですけどね」
桜子が今日のデートにつけていくのは、桜のヘアピンだ。先輩が外に出るときにいつもつけているのとは違って、こちらは花びらが五枚揃っているものである。
先輩に髪をハーフアップにしてもらったあと、結び目のところに、その桜のヘアピンとベルベットの白いリボンのバレッタをつけてもらった。真冬にふたりして桜の髪飾りをつけているカップルなんて、そうそういないだろう。つまり、ふたりっきりのおそろいである。そう考えると、特別感があって嬉しい。
「桜子ちゃん、可愛い」
「先輩も、可愛いですよ」
お互いに褒め合って、持ち物の確認をしっかりとしてから、七時過ぎに家を出る。開園時刻の九時前には、無事に遊園地に着いた。長い行列に先輩と喋りながら並ぶ。
時間になって門が開かれると、ふたりはまずお土産店に向かった。キャラクターのグッズやお菓子、文房具がたくさん売られている。開場後すぐに何を買うのかは、ふたりで事前に決めてあった。目的のものを見つけると、スピーディーにレジへと持っていって購入する。
「先輩、ほんとに可愛い」
「桜子ちゃんも可愛いよー」
先ほど購入したのは、この遊園地のキャラクターになりきれるカチューシャだった。桜子はうさぎ耳のカチューシャを、先輩はくま耳のカチューシャをそれぞれ頭に装着した。
SNSに投稿したりするわけではないけれど、ふたりで一緒に自撮りをしてみる。「いかにもJK」という感じのカワイイ写真が撮れた。桜子は先輩と腕を組んで歩き、彼に買ってもらったポップコーンバケツを首からぶら下げると、たいへんご機嫌になった。
アトラクションの待ち時間の間に、桜子の持つキャラメル&チーズ味のポップコーンと、先輩の持つ塩味のポップコーンを、ときどきお互いに食べさせあう。「あの百合カップル痛いわー」とかと誰かが言っているのと、そいつがバシリと叩かれている音が聞こえたような気がするが、まあそんなことはどうでもいい。
ようやく順番が回ってきて、ふたりでコーヒーカップに乗る。先輩はニコニコと笑いながら、めちゃくちゃハンドルを早く回してきた。コーヒーカップが、ぐるんぐるんと勢いよく回る。桜子は笑いとともに悲鳴を上げた。うるさかったかもしれないが、桜子は楽しかったので良しとする。
美味しいものもいっぱい食べて楽しんだあと、暗くなってきた頃にはキラキラのイルミネーションを見た。大きくてカラフルなクリスマスツリーがあったり、木々が青と白の電飾で幻想的に輝いていたりして、まるで別世界へ来てしまったような心地だった。
ロマンチックな雰囲気だから、今なら告白に良いタイミングかも。そう思って口を開こうとすると、先輩と繋いでいた手が、ふいに持ち上げられた。花泥棒先輩が、桜子の指先にキスをする。
「!」
「イルミネーション見たら、観覧車乗ろう」
「……はいっ」
観覧車に乗るなら、そのときに告白することにしよう。桜子は先輩に寄りかかって、イルミネーションを満喫した。
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