第37話 三人でショッピング
十一月の終わり頃。桜子は花泥棒先輩と雪美さんと一緒に、ショッピングモールに買い物に行った。
「先輩、今日も可愛いですね」
「ん、ありがと。桜子ちゃんも可愛いよ」
花泥棒先輩は文化祭で女装をしてからその格好が気に入ってしまったのか、しょっちゅう女装をしていて、今日も例外ではなかった。
先輩は、栗色のふわふわな髪のウィッグを被って、黒のシンプルなワンピースを着ている。美人な雪美さんと一緒にいると、ふたりは素晴らしい絵となった。平々凡々な女子高生桜子が一緒にいるのが申し訳なくなるくらい、ふたりは美しい。
雪美さんに会うときと言えば、花泥棒先輩が外に用事があって桜子と一緒にいられないときばかりだったので、こうして三人が一緒に長い時間を過ごすのは、とても久しぶりな感じがする。夏の別荘でも一緒にいる時間も少しはあったけれど、あのときはカップルごとに別行動をしている時間のほうが長かったので、三人でがっつり一緒に過ごすのは、五月の花泥棒先輩の誕生日のとき以来だ。
先輩とふたりきりでラブラブするのも、雪美さんと楽しくお喋りしたりゲームをしたりするのも好きだけれど、三人で過ごすのも好きだな、と思う。
今日は、桜子と花泥棒先輩は、それぞれクリスマスデートに着ていく服を買うことを予定している。今回は何を着ていくか、お互い当日まで教えないことにしていた。当日までのお楽しみということだ。そのため桜子は雪美さんと一緒に服を選んで、その間先輩はひとりで自分の買い物をするということになった。
「桜子ちゃん、どういう系のが良いとかある?」
「先輩に可愛いと思われたいですね」
「薫は桜子ちゃんのこと大好きだから、何着てても可愛いって言いそうだけど。どうせなら、めっちゃ可愛いって思われたいよねー。あ、これとかどう?」
雪美さんがひょいっと一枚のスカートを取って、桜子の体に当ててみる。
「うーん。丈が微妙かな。わたし的にはもうちょっと短いのにタイツが良いと思うんだけど、桜子ちゃんはどう?」
「雪美さんの意見に賛成です」
「おっけー。じゃ、他の見ていくね」
桜子よりも人生経験が豊富でお洒落な雪美さんに大いに助けられながら、桜子は花泥棒先輩とのデートに着ていく服やアクセサリーを選んでいった。雪美さんはフリーランスのイラストレーターやウェブデザイナーとして働いているからか、やはりセンスが良いなと思った。
雪美さんのおかげで、とても良いコーディネートができたと思う。先輩がデート当日どう思ってくれるかを考えると、不安もあったがとても楽しみだった。
「ありがとうございました。雪美さん」
「うん。どういたしましてー。そういえばさ、桜子ちゃん」
「はい」
「桜子ちゃんは、本気で薫のことが好き?」
雪美さんが真面目な顔でこちらを見る。桜子は、なにかを試されているような気がした。やや緊張して、じんわりと手汗が出てきたのを感じたが、答えはひとつだ。ごくりと一度固唾を呑んだあと、桜子は口を開く。
「もちろん、本気で大好きです」
「あいつが他の女と――遊んでるっていうのは、わかってても?」
「はい。いろいろ思うところはありますけど……先輩のことを、私は信じていたいと思うので」
「うん。そっか。あのね、桜子ちゃん。身内の私が言うのもどうかと思うけど……薫は、本当に桜子ちゃんのことが好きだよ」
雪美さんが、ちょっとだけ切なそうに笑った。桜子は知らないけれど雪美さんは知っている、彼にまつわる事柄は、きっとたくさんあるのだろう。
「こんなこと言うの、私のわがままだけど。あいつのこと、信じてやってほしい」
「はい、雪美さん」
「……桜子ちゃんが、本当に私の
「じゃ、私が先輩の恋人になっても先輩がなかなかプロポーズしてくれなかったら、私がちゃんとプロポーズしますね」
「おっ、頼もしい」
雪美さんと喋りながら、ショッピングモールのなかを歩いていく。先輩と合流したら、三人でフードコートへと向かった。
ハンバーガーショップでは、桜子はベーコンレタストマトバーガーを、花泥棒先輩はダブルチーズバーガーを、雪見さんは照焼チキンバーガーを注文した。こうして外でファストフードを食べるのは、桜子はこれが初めてだった。ハマってしまう人がいるのもわかる、ジャンキーな味わいだ。それらを食べ終えたら、三人は、適当にぶらぶらとしたあと帰宅した。
❀ ❀ ❀
十一月が終わって、十二月になった。寒さがさらに増して、もうすぐ二学期の期末考査がある。テストが終わったら冬休みになるから、クリスマスやお正月のことを思って、なんとなくそわそわしちゃう人もいる時期だ。桜子も、どちらかと言えばそちら側に属するひとりである。
花泥棒先輩と一緒に勉強をしていた桜子は、今日、彼に話したいことがあった。いつ話そうか、いつなら邪魔にならないだろうかと考えはじめてから、かれこれ四十分は経過している。このままうだうだしていたら、ずっと言えないままかもしれない。
桜子は、一度トイレに立った先輩が戻ってきたタイミングで、彼に話を切り出した。
「あの、先輩。……ひとつお願いをしても、よろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう。桜子ちゃん」
「あのですね……」
桜子はぴんと背筋を伸ばして、ごくりと固唾を呑み込む。先輩が、真っ直ぐにこちらを見た。桜子は深呼吸をしてから、練習していた台詞を口にした。
「……お友だちと、遊びたくて」
「……お友だち?」
「はい。クラスの……紗衣ちゃんと、彩奈ちゃんって言うんですけど。期末考査終わったら、遊びたいねって、こないだ話しまして。でもほら、私が外にひとりで行くってなると、先輩が心配するでしょ? ……だから、ここで、遊ぶのはどうかなって、思ったんですけど。……許可を頂けますでしょうか」
緊張で声をときおり震わせながら、どうにか最後まで言い切った。長く息を吐いてから、もう一度先輩のほうを見る。
先輩は、今にも泣きそうな顔で笑っていた。
「うん。もちろんいいよ」
先輩に頭を撫でられて、桜子はほっと頬を緩めた。良かった。これで私も、友だちと、休みの日に遊ぶという経験ができる。本当に良かった、と心から思った。
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