第17話 ボスとの戦い

 グルルルル……。

 低いうなり声を上げてリュウジを威嚇するロボ。リュウジはそれに相対する。逃げても足の速さで勝てず、そして戦っても勝つ保証はない。

 逃げて後ろから襲われるよりも、マシだと言う状況なのである。


「そんなに怒るなよ……」


 リュウジはバゼラードを水平に構えてそうロボに話しかけた。仲間の9頭を酷い目に合わせたリュウジが言う台詞ではないだろう。

 しかし、グレイウルフに人間の言葉が分かろうはずがないが、そういう態度がグレイウルフへの牽制につながる。 

 下手に恐怖を感じた態度を取れば、すぐにでも襲い掛かかってくるだろう。

 リュウジはロボをにらみつけ、右手のナイフで威嚇しつつ、左手でウェストポーチのボタンを外す。


(これを使うしかないか……)

「リュウジ、奥の手だね……だけど、それを使うのは危険にゃ」

「分かっている。超接近戦でしか使えないものだ」


 左手に金属の冷たい感触が伝わる。それは金属製の器。中にはこの状況を打開できるかもしれないアイテムが入っている。

 ロボはリュウジの動きを注意深く観察している。左手で何かを探しているような素振りで、それが自分に対して危険な行為であることを感じたようだ。

 となれば、それが整わないうちに攻撃を開始する。

 速攻である。


「リュウジ、来るにゃ。左手狙い!」

「全く、賢い動物だな!」


 ロボは左にフェイントをかけると、リュウジの左腕めがけて襲い掛かった。左手で何かをさせない手段に出たのだ。

 リュウジは右へ体を流し、左腕を噛みちぎられないように避けた。辛うじて、ロボの鋭い牙からは逃れられたが、巨大な体の体当たりを左肩に受ける。その衝撃で、跳ね飛ばされて転倒した。


「くっ……」


 飛ばされたためにウェストポーチから金属のケースが地面に落ちた。ロボはすぐに切り返し、転倒したリュウジにのしかかる。


「リュウジ、ヤバいにゃ」

「クソったれめ!」」

 

 グアーッ!

 大口を開けてリュウジの喉笛を噛みちぎろうと試みる。

 それに対してリュウジは必死に右手の短剣で抵抗する。ロボの前足で体を抑えられており、その怪力に体は動かせない。

 リュウジは短剣でロボの攻撃をかわしつつ、自分の左に右目の視線を動かす。そこには、ウェストポーチから飛び出した金属ケースがあり、衝撃で蓋が開いて中身が飛び出していた。


(届くか……)


 リュウジは左手を伸ばす。指先に触れる。中指で少しずつ手繰り寄せる。その間も右手の短剣を振り回す。ロボもここが勝負とばかりに、凄まじい勢いで噛みつく。


 ガチッ!


 ついには、短剣にがっちりと噛みつき、それを奪い取ると後方へ放った。もはや、リュウジの身を守るものはない。


 グアアアアッ!


 勝ち誇ったように吠えると、最後のとどめだとばかりに噛みつこうとする。その時だ。リュウジは左手にもったものを握りしめ、ロボの鼻先めがけてそれを突き刺した。


 ギャオオオオオオオッ……。


 ロボはのけぞった。そして体を痙攣させる。

 体が自由になったリュウジは、すぐに立ち上がり、転げまわって痙攣しているロボを尻目に落ちていた短剣を拾い上げた。


「ボツリヌス毒素入りの注射だ……しばらくは苦しめ」


 左手に持ったものを地面に落とす。それは注射器。中身はボツリヌス菌が作り出す強力な麻痺毒である。

 運動神経を麻痺させて、しばらく動けなくする効果がある。

 ロボは体が大きく、持続効果はそれほどないと思われたが、逃げる時間を稼ぐには十分であった。


「リュウジ、危機一髪だったにゃ」

「はあ、はあ……寧音は気楽でいいな……」

「リュウジが食われれば、うちも死ぬにゃ。何しろ、うちはリュウジの心の友だからにゃ」

「心の友って……変なことを言うな」


 息を荒げながら、リュウジはグレイウルフの襲撃現場から離れる。同じような攻撃を受けたと思われるレンジャーは無残にも食い殺されることになった。

 彼とは違い、リュウジは難を逃れたのは、用意周到な脱出プランがあってこそ。そのために仕掛けたトラップがなければ、100%同じ運命であっただろう。


「だが、時として予想外のことも起こる……」

「今日はついてないにゃ……リュウジ、厄日だにゃ」


 グレイウルフから逃れて1分もしないうちに、リュウジの目の前にさらなる障害が立ちふさがった。

 それはかなり遠くにあったが、その存在は絶望を感じさせるに十分なものであった。

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