第13話 捨てられた鍋

 翌朝、日の出とともに目を覚ましたリュウジは、焚火の残り火を起こして、コーヒーを入れる。これは町にいようが、冒険で野外にいようが毎朝の習慣である。


「ちっ……野外のコーヒーは香りがいまいちだな……」

「リュウジは相変わらず、贅沢だにゃ」

「寧音、お前には言われたくない」

「今は贅沢したくてもできないにゃ」

「待ってろ。まずいコーヒーを味あわせてやる」


 携帯用に豆を既にひいて粉にしているので、香りはかなり飛んでしまっている。

それでも香りを保持するために、小さな金属製のカプセルに密閉してウェストポーチに1回分ずつ入れてきたのは、朝のコーヒーにこだわっているリュウジだからこそだ。

 朝ご飯はコーヒーに、チョコレートバーを一本。腹は膨れないが、体を動かすエネルギーにはなる。

空腹は我慢できるが、栄養不足は体力を低下させる。危険な野外にいるときは、食事も欠かせない。


「さて、食事も終わった。今日は仮説にそって捜索を進める」

「そうだにゃ。まずはかまどからだにゃ」


 まずは、仮説を証明するための鍋を探す。証拠は1つ1つ積み重ね、仮説を立証していく。

 リュウジの仮説は仲間割れによる全滅。これは調査に出向く前にいくつか考えた仮説の1つだ。

 昨日につかんだ証拠から、この説にしぼっていた。

 犯人は何らかの理由で仲間を殺すことを計画。そしてそれを実行した。

 ただ、疑問は残る。いくら不意をついて襲うにしても戦闘に長けた冒険者を同時に 殺すことは難しい。

 どうにかして戦闘力を奪わなければ困難だろう。

 リュウジはその疑問を解決する証拠が、鍋にあると考えていた。その鍋はおそらく犯人が証拠を隠滅したために行方が分からなくなっていた。

 冒険者たちが鍋を持っていたということは、アオイから渡された資料でわかる。ギルドに冒険に出る前にもっていく道具の申告をする必要があり、そこに小さな鍋がリストに入っていたのだ。

 ただ、そんな小さなことなどギルドの救出部隊は気づかず、鍋を探すこともなかった。


(捨てるとしたら、かなり遠く。投げたのなら、岩の向こう側)


 リュウジはかまどが作られた右側の岩を登る。大きな岩の下は背の高い草がびっしり生えている。そしてわずかに傾斜している。

 リュウジは岩から滑り降り、草原を探索する。用心深く探し回ること1時間。それは意外と早く見つかった。


「やはりな……」


 おそらく岩の上から放り投げたと思われ、随分、離れた場所にそれはあった。中身は残っていないが鍋の底に米粒とキノコらしき破片がへばりついている。


「鍋に残った食材がそのまま残っているにゃ……。この森の中でありえないにゃ」


 寧音が指摘するとおり、時間は経っているので、通常なら森に住む様々な虫が食べてしまうのであるが、不思議と虫がたかった跡はない。

 そうなっていない理由は簡単である。


「強烈な毒にゃ」

「ああ。仮説の証明に1歩近づいた」

(これで犯人はおよそ見当がついた……おそらく犯人は……)

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