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「ふええ」

 と、シノニムがふらつきながら戻ってきた。相当きつかっただろうことは見れば判るけれど、そのまま歩いてきて原理に抱きついてきたのには面食らった。

 軽い。

「なんかあったか、面接」

「なんにもわからないのに、次々質問されて……。わからないっていうと怒られたんだよ」

「あー……。完全に不安が的中したなあ」

「これはもらえたけど」

 指輪を右手に持っていた。IDが発行されたのは安心すべきだろう。

 原理はそんなシノニムの背を軽く叩いて、立たせる。ふと視線を義理の方に向けると、何故か呆然としていた。変な顔してるなあ、とは思ったけれど、それ以上は考えないようにしていた。

「驚いたな、まさか外国の人間に懐かれているとは」

「俺としても予想外ではあるが……」

 そんな会話にシノニムは不思議そうにしている。二人の関係がよく解らないのだろう。いくら親子といっても、原理と義理は見た目が似ていないからだ。

「ねー、ゲンリくん」

「どうした?」

「さっきの面接のときに聞いたんだけど、結婚相手を探してるの?」

「は?」

 義理との会話を聞いていたわけでもないだろうに、どうしてその話題が出てくるんだと意味がわからない。

「ゲンリくんのお父さんが相談しに来るって。その、だから、わたしのことをそういう相手だと思ったって、驚いてたみたい」

「………………………………………………………………………」

 薄い笑顔を浮かべたまま沈黙する。彼の視線はゆっくりと隣に居る義理の方に向かってスライドしていく。

 その意外そうな表情に対して拳を握り、その右手に蒼い光が灯る。


 全力でぶん殴った。


「はー、はー、はー」

 管理課のスペースの端から端まで直線軌道で飛んで行った義理の体躯が壁に減り込むのを確かめて、霊力を霧散させる。流石に息が切れるし手首が治りきっていないので痛いのだが、それでも後悔はなかった。

「行くぞ、シノ。これ以上ここには居たくない」

 目を丸くして立ち尽くしているシノニムの手を引いて、原理は踵を返した。壁の損傷に関しては義理に責任を負ってもらうことにした。

「あの、大丈夫なのかな」

「親父はあんなことで死にやしねえよ。仮にも忌方の継承者だからな」

 吐き捨てるような言葉。対してシノニムは、面白そうにくすくすと笑いだすのだった。





「ゲンリくん、そういうことには興味ないの?」

「あんまり。生きていくので手一杯だからな」

「ふうん。アンジュさんとか、ゲンリくんのことそういう風に見てたのに」


 笑えない冗談だと切り捨てるしかない。それだけのことだった。

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