第14話
二人の様子がなんだか可笑しくってしばらく盗み見ていると、運ばれてきたもんじゃの種を前に能登幹が固まっているのが目に留まった。
「どうかしたの? もんじゃ焼きはお嫌い?」
対面に座る桑谷女史が不安そうな顔をしている。自分から誘った手間、もし「嫌い」などと返されたら立つ背がないのだが、これに対し、能登幹は怪訝な顔をして返すのだった。
「これ、どうやって食べるんだい?」
「あら、愛君もんじゃ焼きを食べた事ないの。だったら、私がいろはを教えてあげましょう」
女史はそう言って能登幹のボゥルを奪うと、手際良く具材を焼き、土手を作って出汁を流し、芳ばしくなってきたところで混ぜ合わせていった。遠慮も躊躇もない仕草はその道で生きる職人を思わせる業前であり思わず見惚れる程である。僕はヘラでつついている自分で作ったもんじゃと見比べたが、どことなく女史が焼いたものの方が食指をそそられるでき上がりであった。
「見事なものだね。君はよく食べにくるのかい?」
「そりゃそうよ。この辺の子はみんなもんじゃ焼きを食べて育ってるんだから」
その言葉の真偽はともかくとして、女史とその取り巻きには確かに下町情緒あふれる泥臭い空気があるにはあった。都心のハイソサエティな印象に隠れがちだが、きっと彼女の産まれは漬物屋とか煎餅屋だろうなという確信を僕は持っていたのである。これは決して蔑しているわけではないが、本人には言わない方がいい類の称賛であるため、彼女と出自の話は避けるよう心掛けた。
「さ、焼けたわよ。食べてちょうだい」
ヘラを渡された能登幹は眉間に皺を寄せながら見様見真似で焼かれたもんじゃを掬い口に運ぶと、女史が「どうかしら」「どうかしら」「どうかしら」と忙しなく3度尋ねる。物が入った状態じゃ喋れるわけがないのだが、それでも必死に何か言おうとする能登幹の間抜けさといったらなくまじと見ていると、ふいに目があってしまった。
「美味しいね」
桑谷女史ではなく、僕に対してそう述べる。
その嬉しそうな顔につい絆され、「そうだろう」と言ってしまったのだったが、隣に座る桑谷女史の溜息が聞こえると、手洗いに行くふりをして席を立った。
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