第12話 食いついた

「ありがとうございましたー!」


 部活動見学の一年生が挨拶をして、グラウンドから出ていく。はなえと杏奈が鞄を持って更衣室に向かう。はなえは、グラウンドに残って何やら三年の部長渡瀬と会話している誠人の姿を見る。誠人はそれに気づいて手を振る。


「なあなあ、二人とも、俺着替えんと帰るからちょっと待っててや」


 はなえが杏奈を見てから頷くと、部長が誠人に笑いかける。


「なんやー? 誠人、クラスメイトか?」

「そうですよー」

「マネージャー希望で来てくれたん?」

「あ、せや……はしもっさーん」


 誠人がはなえを呼ぶ。手招きされて仕方なく、はなえも杏奈もグラウンドへ戻ってきた。誠人が部長に言う。


、今日のハニワが気になったみたいで」

「えっ」


 今言うのか、とはなえが驚いた声を出すと、部長が日焼けした肌に浮かぶ真っ白な歯を見せて笑う。


「おー。橋本さん、分かってくれるかあ。他の連中には止めとけ言われてんけど」

「止めろ言われたんですか?」

「せやで、ハニワの部長、大阪唯一の世界遺産のマスコットキャラやのに……認知度足らんやろって。やっぱトラのがよかったかなあ思てたけど、一人それで釣れたんやったら成功やろ!」

「成功ですよー俺めっちゃウケましたもん」

「せやんなー! 知らんくても、おもろいやんな」


 部長は誠人とひとしきり笑い合った後、はなえに向き直る。


「というわけで橋本さん、野球部にちょっとでも興味持ってくれたんやったら、待ってるから!」

「は、はい……」

「特別に俺特製のハニワ被らせてあげるから」

「はあ……」

「おい、誠人。あんまハニワに食いついてへんぞ」

「それは食いつかへんでしょ!」


 誠人のツッコミに笑い合っている二人。はなえは、笑顔を作ってお辞儀をする。


「本日はありがとうございました」

「うん! お疲れ様です!」


 部長が挨拶すると、杏奈もお辞儀をして、三人一緒にグラウンドを離れる。


「なあなあ、二人とも野球部どやった?」

「……どうって……マネージャーは暇そうやんなあ、はなちゃん」

「そうだね」


「まあ、せやなあ。暇ではないけど大変やからなあ」

「……ふうん。そうなんや」

「長谷川くんは、野球部入るの?」


「え、俺? 悩んでてんけどなあ。渡瀬先輩いるし、やっぱ野球好きやしなあ」

「……入ったらええやん」

「うん。長谷川くんが入るなら――」


 はなえが微笑む。


「私も野球部入ろうかな」


「せやったら、明日入部届もらいに行こかなあ」

 のんきに返す誠人と対照的に言葉を失っている杏奈。

「え、はなちゃん……本気?」


 頷くはなえに、杏奈は少し声が大きくなる。


「ほ、ほな! ほな、私も入ろかな!?」

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