第6話 ちゃうちゃうちゃうで
「なあなあ、自分。書き終わった?」
委員会決めが終わり、ホームルームの最後に配られた『新入生アンケート』なるものに答えていると、はなえは後ろの席の長谷川誠人に声を掛けられる。
「うん、書き終わったよ」
はなえも、だいぶ誠人の『なあなあ』にも慣れてきた様子で答える。
「ほんま!? ちょっと見してくれへん?」
「別にいいけど」
アンケート用紙を渡すと、誠人は「あー」と気の抜けた声を出す。
「そっかあ、こう書いたらええんか。ありがとう」
「どういたしまして」
「それにしても、さっきの板書でも思ったけど。自分、字ぃキレイやなあ」
「そう?」
言われて、誠人のアンケート用紙を見てみるが、思ったより読みやすい字だ。
「長谷川くんの字もキレイだよ」
「えっ」
グシャッ。
誠人の両手がアンケート用紙を握りつぶす。
「いやーん。えっち、見んといてー」
「は?」
「なんか照れるわーもう」
誠人が立ち上がって、教室に響き渡る声で言う。
「はいはーい。アンケート終わった人、はしもっさんと俺んとこ持ってきてやー」
「はい」
はなえがアンケート用紙を誠人に渡そうとすると、誠人が着席しながら手のひらを顔の前で左右に振る。
「ちゃうちゃう」
「え?」
「女子と男子で用紙分けてくれ言うてたやろ? はしもっさんが女子で、俺が男子集めたらええやん。効率的やろ?」
「なるほど……ところで」
「なになにー?」
「『はしもっさん』?」
はなえの疑問に、誠人が動きを止める。誠人は天井を見て、右手をゆっくり上から下へと動かして、ビシッとはなえを指さす。
「『ハシモト』さんやんな?」
「そうだけど」
「あーよかった。また間違えたんか
「間違えてないけど……」
「はしもっさーん」
ゆるふわ茶髪女子が話しかけてきた。
「アンケート置いとくな?」
「あ、はい」
それを皮切りに女子がどんどん集まって来る。「はしもっさん」「はしもっさーん」と。はなえは、アンケート用紙を揃えながら、くすぐったそうに笑う。
その様子を見ながら誠人が後ろから声を掛けてくる。
「なあなあ、自分。中学ん時、なんて呼ばれてたん?」
「え、『橋本さん』だけど」
「普通やな!」
「……そういえば、『自分』って」
「なになにー?」
「『自分』って私のことだよね?」
「あーなんや、俺のこと言うてきたんか思た。せやで『キミ』のことやで」
「そっか……変なあだ名つけられたのかと思ってた」
「ちゃうちゃう。ちゃうって! えー。自分おもろいなー」
はなえは1週間近く引っかかっていたことが解決して安堵の表情を浮かべるが、誠人の次の言葉でまた少し顔を曇らせた。
「ちなみに、ちゃうちゃうはチャウチャウとちゃうで!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます