第88話 呪いの鎖
精霊は黒い繭に覆われた人の影に隠れるようにして転がっていた。
形は呪われていた時のネコに似ている。四つ足で尻尾があった。
色は灰色である。
そして、呪いの気配が漂っている。
「大丈夫か?」
俺は優しく声をかけて精霊に駆け寄る。
「ぐぎゃ……」
呪われた精霊は苦しそうにうめく。
この精霊を支配下に置いているのは恐らく黒い繭に包まれた三人の中の一人だろう。
ネコのときと同じならば、呪われた精霊は命令がない限り動かない。
(シェイド。三人の誰が支配者かわからんが、命令を出せないように気をつけてくれ)
(わかったのだ)
そして、俺は解呪するために精霊をじっと観察する。
解呪のためには、呪いを見て斬らなければならない。
だが、呪いを見るのは非常に難しい。
「じゅ! じゅ! じゅ!」
俺が頼むより早く、ジュジュが鳴き始める。
ネコのときと同じ周期だ。
「ぎゅあ……ぎゅあ……ぎゅあ」
呪われし精霊も、ジュジュに共鳴し始めた。
共鳴に反応して呪いが揺れ始めたら、俺でも見ることができるはずだ。
そうなれば、斬ることができるだろう。
「ガアアア!」
直後、廃屋の外から、フェリルの声が聞こえた。
続いて激しい炸裂音が響く。
外で戦闘が開始されたようだ。
この廃屋は敵の重要拠点だったらしい。
俺たちの襲撃を探知して、奪われまいと駆けつけてリルとフェリルと戦闘になったようだ。
(シェイド!)
(任せるのだ! グレンさまとジュジュさまは解呪に専念して欲しいのである)
シェイドは名前を呼ぶだけで、俺の意図を汲んで「任せるのだ」と言ってくれる。
だから、俺とジュジュも
(任せろ)
(じゅ!)
とだけ答えた。
返事を待たずにシェイドは外に向かって駆け出している。
非常に頼りになる相棒だ。
強大な敵だろうと、シェイドが加勢すれば、負けることはあるまい。
ジュジュが周期的に声で鳴くのと、念話で(じゅ)と別々に鳴けることに内心驚きつつ、俺は呪われた精霊をじっと見る。
「じゅ! じゅ!」
「ぎゅあ……ぎゅあ……」
(呪いが見えてきたぞ。その調子で頼む)
(じゅ~)
俺には声に出す会話と同時に、違うことを念話で話すのは難しい。
それを、赤ちゃんなのにできるジュジュは本当に天才だ。
呪われた精霊を観察し、共鳴が進む間も外から激しい戦闘音が響いてくる。
シェイドが駆けつけたのに戦闘がすぐに終わらないということは敵はよほど強いのだろう。
だが、シェイドに外のことは任せろと言われて、俺もシェイドから解呪を任されたのだ。
だから、俺は精霊の解呪を優先する。
「よし」
共鳴が進み、呪いがみえてくる。
予想通り、精霊の呪いは近くにいる人間につながっていた。
そして、予想外のことに、精霊の呪いは祭壇にもつながっていた。
「祭壇?」
呪いが祭壇につながっていることに、どんな意味があるのだろう。
頭に疑問が浮かんだが、とりあえず呪いを斬って解呪を済ませてから考えればいいことだ。
俺は剣を構え、精霊の周りにある呪いのどこを斬ればよいのかを見極める。
そのとき、廃屋の外から響いていた戦闘音が一瞬消えた。
(おや? シェイドたちが制圧したのか?)
その問いへの答えが帰ってくる前に、凄まじい音とともに廃屋の屋根が吹き飛んだ。
同時に上空から無数の鎖が、倒れている精霊目がけて伸びてくる。
シェイドを助けたときに見た鎖に似ている。
呪いの鎖だろう。
「させるか!」
俺はその鎖を斬り落とす。
数十本の鎖が、上空から廃屋内部目がけて高速で伸びてくるのだ。
鎖が目指しているのは、大まかに言うと、倒れている精霊である。
数が多いからか、全ての鎖を精密に撃ち込めるわけではないらしい。
「厄介だな」
狙いがぶれると斬り落とすのが、とても面倒になる。
だから、俺は精霊に届きそうな鎖だけ斬り落す。
外れた鎖は周囲の壁や床に突き刺さっていった。
数十秒間、斬り続けて、やっと上空から鎖が伸びてくることが無くなった。
「…………これで終わりか?」
「ジュ!」
「わかってる。怪しい気配がするな」
周囲の呪いの密度が高まった気がする。
特に祭壇周辺の呪いの密度が尋常ではなく高くなった。
あれでは、祭壇を壊そうにも、魔法も通じないし、俺の剣も容易には通じまい。
とはいえ、今すべきことは精霊を助けることだ。
「難しいことは後回しだ。まずは精霊を助けなければな。ジュジュ頼む」
「じゅ! じゅ! じゅ!」
「…………」
ジュジュが先ほどと同じように鳴いてくれる。
だが、精霊は黙ったまま、共鳴しない。
かわりに、精霊と人間、それに祭壇の間の呪いのつながりが揺れた。
「どういう状況だ?」
しかも、先ほどより呪いのつながりが太くなっている気がする。
さらに呪いのつながりは太くなっていく。
これは良くないことだ。直感的にそう思った。
「はああ」
俺はその呪いのつながり目がけて剣を振り下ろす。
だが、まるで水を斬ったときのように、まるで手応えがない。
「ぐぎああああギアアアア!」
「ぐぎあああギアアアア!」
精霊と、精霊とつながっていた人間が同時に咆哮した。
同時に、シェイドの作った人間を覆っていた繭が弾けると、人間と精霊が溶け合うように一体化した。
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