第87話 廃屋急襲

 斬ったのは、廃屋を覆う呪いである。

 剣を振りぬいた瞬間、何かが割れるような音が鳴ったような気がした。

 いや、これは音ではない。

 五感ではない感覚がとらえた、何かだ。その何かを音だと俺が錯覚しただけだろう。


(じゅうううぅ!)

(ジュジュ、わかった)


 どうやら、ジュジュは可哀そうな精霊の気配を感じ取ったらしい。

 呪いで廃屋を覆うことで、精霊の存在自体が隠れていたようだ。


(そうなると、職務を正しく果たさないとな)

(じゅ!)


 覆われていた呪いを斬った瞬間、廃屋の様子が変わった。

 これまで見えていたのは、倒壊寸前の廃屋の姿だ。

 押したら折れそうなほど脆そうな腐さりそうな木で、壁や扉が作られていた。


 今も全体的にぼろぼろな廃屋なのは変わりない。

 ただ、扉が金属製で、頑丈なものになっている。

 恐らく鋼にオリハルコンやミスリルを混ぜた、特殊鋼と呼ばれるものだ。

 窓も同様の金属に変わっていた。

 この調子ならば、壁も天井も内側にも丈夫な金属が張られているに違いない。

 侵入を防ぐための小細工だ。


(金がかかってるなぁ)


 貴族か豪商のような存在が背後にいるのは確実だ。


(だが、この程度の小細工ならば……)


 剣で斬れば事足りる。

 そう考えて、剣を振るおうとしたとき、シェイドが念話で言った。


(先陣は我に任せるのだ!)


 言い終わる前にシェイドが廃屋の扉を目掛けて駆け出した。

 そのシェイドの全身には漆黒の闇がまとわりついていた。

 そしてそのまま、開いていない扉に頭から突っ込む。


 シェイドの頭が扉にふれるころには、全身が分厚い闇に包まれていた。

 もはやシェイドの姿を見ることはできない。

 巨大な黒い塊が扉に突っ込んでいき、音もなくそのまま通り抜けた。


(む? シェイド、何をやった?)


 シェイドが通り抜けた後、扉と壁は大きく円形に切りぬかれていた。

 円の直径は俺の身長よりやや大きいぐらい。

 これだけ穴が大きければ、無理をしなければフェリルも入れそうだ。


(魔法である)

(そうか、凄いな)

(じゅっじゅ!)


 ジュジュも驚いて感心している。

 魔法には詳しくないので断言できないが、恐らく全身を魔力の塊にして穴をあけたのだろう。

 魔力弾マジックバレットという、魔力を直接撃ちだして攻撃する魔法がある。

 魔導師の使う基本的な攻撃魔法の一つだ。


 通常、魔力弾には特殊鋼をくりぬくほどの威力はない。

 さすがは精霊王と言ったところだろう。

 音がしなかった理由はさっぱりわからない。

 あとで、シェイドに忘れずに聞こうと思う。


「な、何だ! これは!」

「なにが起こっている!」


 廃屋の中にいた者たちは、混乱状態だ。

 シェイドは、闇をまとったまま、室内に突っ込んだのだ。

 廃屋の中にいた者は突然闇に包まれたのである。

 慌てふためいて当然だ。


 俺はシェイドの闇の中に突っ込んだ。

 声をだした敵は二人。だからといって、敵が二人とは限らない。


(闇は邪魔であるか?)

(このままで頼む)

(わかったのだ)


 闇の中では、俺も何も見えない。

 だが、声は聞こえるし気配は感じる。


 契約精霊であるシェイドの出した闇の中だからだろう。

 まるで、闇は自分の魔力のような、自分の気配のような不思議な感じだ。

 異物の気配がよくわかる。

 廃屋は、部屋が一つしか無い単純な構造だということもわかった。

 声を出したのは二人だったが、敵は三人いることもわかる。


(これは圧倒的に有利だな!)


 敵は視覚を奪われている。

 だが、俺は敵がどこにいてなにをしているのか、手に取るようにわかるのだ。

 当然、闇を出しているシェイド自身も、敵の状況を把握しているだろう。


(一気に拘束するぞ!)

(任せるのである!)


 俺は剣を使って、ダメージを与えて制圧しようとした。

 だが、それより早く、シェイドが魔法を使って、混乱する敵を拘束していく。

 こういうとき魔法は便利だ。

 剣士は、基本的に斬ることしかできないので、非常に助かる。


(シェイド、敵の拘束は任せた)


 そして、俺は暗闇の中、精霊を探す。

 人間はすぐに見つかったのに、精霊を見つけるのには手間取った。


 数秒後、

(いた!)

(じゅ!)

 俺が精霊の存在に気づいたのと、ジュジュが鳴いて教えてくれたのはほぼ同時だった。


 精霊は廃屋の一番奥にいた人間の隣にいた。

 精霊の気配を見つけるのに手間取ったのは、濃い呪いの気配が漂っていたからだ。


(廃屋の中にいた人間は全員拘束したのだ!)

(ありがとう。助かったよ)

(闇をといてよいか?)

(頼む)


 一瞬で闇がはれた。

 闇がはれると廃屋の内部がよく見える。

 外から見えた印象と内部の印象は全く違った。

 内部は大理石で作られており、奥には祭壇らしきものがある。

 まるで神殿だ。


 そして、黒いもやのようなもので全身が覆われている三人が転がっていた。

 靄は、繭のように、頭頂から足先まで包み込んでいる。

 黒い靄の繭は、シェイドによる拘束の魔法だろう。

 繭に包まれているため、年齢性別もわからない。

 

 そして、拘束された一人と祭壇の間に小さな精霊がいた。


「ぐぎゃあ」


 精霊はジュジュを見て、小さな声で鳴いた。

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