第89話 呪われし融合体

 人間だったものは巨大化している。

 身長も横幅も一般的な人間の二倍ぐらいは優にある。

 そして胸から、精霊らしきものが生えていた。


「融合したのか? そんなことがありうるのか?」

「祭壇とのつながりを斬って」


 全く気配の無かったというのに、突然、俺の耳元で聞いたことのない声がした。

 綺麗な鈴の鳴るような声だ。


「だれだ?」

「シルヴェストル」

「お……」

「こっちはみないで」

「わかった」

「ジュジュ、共鳴させて」

「じゅ!」

「そうすれば、神殿と精霊のつながりを斬れる」


 それだけいうと、シルヴェストルの気配が消えた。


「ありがとうよ、シルヴェストル」

 返事代わりの優しい風が吹く。


「こんど機会があったら姿も見せてくれ」


 廃屋の中に突風が吹いた。

 姿を見せるのはお断りと言うことかと思ったのだが、そうではないらしい。

 シェイドの繭に包まれた二人の身体が風で浮かび上がった。


「シルヴェストル、二人のことは任せる」


 俺がそういうと、シルヴェストルは二人を外へと運んでいってくれる。

 二人は情報を吐かせるために、生かしたまま捕らえたいのだ。

 戦闘に二人が巻き込まれたら面倒なことになる。


「さて、ジュジュ」

「じゅ! じゅ! じゅ!」


 ジュジュが鳴いても精霊は返事をしない。

 だが、融合体と祭壇をつなぐ呪いがわずかに揺れる。


「その調子だ」

「じゅ! じゅ!」


 ジュジュは周期を微妙に変えながら、一生懸命鳴いている。

 恐らく呪いと共鳴しやすい周期を探ってくれているのだ。

 赤ちゃんなのに、そのようなことができるジュジュは天才と言うほかない。


「グアアアアアア!」


 融合体は大きく咆哮すると、人間部分がジュジュ目がけて火球を放った。

 そして精霊部分は雷を放つ。

 厄介極まりない。


 だが、考える前に身体が反射的に動いた。

 炎をかわし、雷を剣で斬る。


 ジュジュが鳴くのにつれて、精霊と人間の融合体から放たれる魔法攻撃は、激しさを増していく。

 その全てをかわしながら、剣で斬り落としていく。

 激しい魔法攻撃の中、俺に抱っこ紐で抱っこされているジュジュは全く怯まずに融合体を見つめて鳴いていた。


「ジュ! ジュ! ジュ! ジュ!」


 ジュジュが力強く鳴くと、それに共鳴するように融合体と祭壇とつながっている呪いの揺れが大きくなる。

 揺れが大きくなるにつれ、呪いの歪みも大きくなる。

 歪めば濃淡ができて、斬りやすいところができるのだ。


「この魔法攻撃を何とかしないと近づけないな」


 そろそろ斬れそうなほど、歪んでいる。

 だが、魔法攻撃は激しさを増し、後ろに下がらないでいるので精いっぱいだ。


「少し逸らすことができれば……」


 そのとき、廃屋の中に強い風が吹いた。

 ただの風ではない。その証拠に火球や雷が風によって逸らされていく。


「助かった、シルヴェストル!」


 融合体の魔法が逸らされたおかげで、俺と斬るべき呪いとの間に魔法のない空白ができた。

 その空白を駆け抜ける。


「ギアアアアア!」

「はあああああ!」


 融合体は、俺を目掛けて魔法を撃ってくるが、大半はシルヴェストルが防いでくれる。

 それでも火球や雷は十数発残り、俺とジュジュ目掛けて振りそそぐ。

 そのすべてを走りながら斬り落とし、融合体の背後に回り込むと、剣を振るう。


 融合体と祭壇をつないでいる呪い。

 その歪みの一番大きく、脆いところに剣を走らせた。


「「ガアアアアアアア!」」


 斬った瞬間、人間の口と精霊の口から同時に断末魔のような悲鳴が上がった。


「しつこいぞ!」


 シェイドや猫の時と同様だ。

 斬った後、再びつながろうと、呪いが伸びて来る。

 そのすべてを斬り続ける。


「ジュ!」

「わかった!」


 呪いを斬りながら、隙をみて祭壇を斬る。

 祭壇は分厚く堅固な呪いの障壁のような物で覆われていた。

 だが、今は祭壇から出ていた呪いの綱のようなものが、ジュジュと共鳴していた影響で、祭壇の呪いも揺れている。

 揺れているならば、斬ることは可能だ。


「さっさとあきらめろ!」

「ジュイ!」


 ジュジュの叫びと同時に、俺の剣が祭壇を真っ二つにする。

 同時に周囲から呪いの気配が霧散した。

 融合体を捕えようとする呪いの綱も伸びてこなくなった。


「ぎあ……」

「大丈夫か?」


 融合体はドロドロと溶けている。


「大丈夫。精霊の呪いは解けた」

「……オンディーヌか。いつ来た?」

「グレンが祭壇を斬ったところ」

「そうか、一番いいところには間に合ったな」


 外の音に耳を傾けるが、戦闘音はやんでいた。

 シェイドとリルとフェリルのことだ。心配はしていない。

 だが、念のために尋ねる。


「外は?」

「ん。大丈夫」

「それなら良かったが……」


 その時、外からシェイドとリルとフェリルがやってくる。


「全て終わったのだな!」

「みんなもお疲れさま」

「はい。数も多かったですが、シェイドさんに助けられましたわ」

「後始末は、応援部隊に任せておいたのだ! グレンさまが心配しなくて大丈夫なのであるぞ」

「そうか、それはありがとう」


 リルが比較的早い時期に応援を呼んでくれたのだろう。

 だから移動の速いシルヴェストルが駆け付けてくれて、次にオンディーヌが駆け付けてくれたのだ。

 今頃、外では王家の手の者である騎士団の連中とサラマンディル辺りが後始末をしているはずだ。


 俺は、安心して呪われていた精霊の保護に専念できるというものだ。


「じゅ~じゅ!」


 ジュジュが呪われていた精霊に触りたいと言って鳴いた。


「わかったよ」


 俺はどろどろと溶けていく融合体の傍にかがみこむ。

 ジュジュが融合体に触れられるようにだ。


「じゅ~」


 ジュジュは、ドロドロと溶けつつある融合体を優しく撫でる。

 すると、ドロドロしたものの中から、可愛らしい精霊と人間が姿を現した。


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