第86話 呪われし廃屋

 俺はリルとフェリルに、一層近づいて、より小声で話しかける。


「リル、フェリル。呪いだ」

「……!」「ぅ!」


 リルとフェリルも驚いているようだ。


(これは気づかないのである)

(精霊王であるシェイドでも見つけにくいのか。他の精霊に比べたら呪いを見分けるのは得意だろう?)

(もちろんである。だが、この呪いは……悪意がないのである)

(あー、確かに。嫌な感じはしないもんな)

(悪意のある呪いの方が気づきやすいのだ)


 確かに呪いも魔法も殺気がこもっているほうが、気づきやすいものだ。

 殺気は、強烈な悪意と言い換えても、あながち間違いではないだろう。


(シルヴェストル対策のための呪いかもな)


 何も隠さずに王都で悪だくみしたら目立つ。

 今回は王家が動いているのだ。優秀な人員が沢山探している。

 隠し通すのは難しい。


 だが、魔法で隠したら、風の精霊王シルヴェストルなら即座に気付くだろう。

 上空を風に乗って周回するだけで簡単に見つけられる。

 魔法による隠ぺい工作など、逆に「ここに怪しいものがあります」とシルヴェストルに大声で教えているようなものだ。


(だから呪いか。呪いって魔法なみに何でもできるのか?)

(魔法ではできないことすらできるのである。なにせ神の御業ゆえな)


 魔法では肉体の回復することはできないが呪いならば可能だ。

 回復魔法は、魔法と名付けられているが呪いなのだ。

 教会は回復魔法の力を祝福と呼んでいるが、両方神の御業、奇跡であることは変わりない。


(だが使い手は圧倒的に少ないのである。それにみんな未熟すぎる)

(そうだな。教会のお偉いさんの行使する治癒魔法の威力も大したことないしな)


 教会の聖職者の使う呪い、いわゆる「祝福」が弱いからと言って、呪い自体が弱いわけではない。 

 そもそも、神の御業が弱いわけがないのだ。

 使い手がいないだけ。


(呪いの使い手に、ヴィリみたいな天才が現れていないだけなのか)

(我はそもそも地上で神の御業を行使すること自体が難しく、強力に行使することが不可能なのではないかと思わなくはないのである)

(神は精霊と違って受肉しないものな)

(我らと神はそもそも次元が違うのである)

(じゅ~)


 恐らく、神は精霊より上位の存在なのだろう。

 人間が神の力を行使するのが難しいのは自然なことだ。


(シェイド。敵のことがわからんが、このまま何もしないことはあり得ないだろう)

(そうであるな。とりあえず調べるのだ、何もなければ謝ればいいのである)

(そうだな)


 間違ったときに謝ればすむように、ヴィリは精霊保護官の役職を用意してくれたのだ。

 せっかくなので、使わない手はない。

 それに、呪い関連の法律には詳しくはないが、廃屋全体に呪いを施している時点で恐らく違法だ。


 王都においては建物ごと覆うなどの大規模な魔法は許可を取らなければならないのだ。

 呪いも魔法に準じた扱いをされるはずである。


 俺は廃屋に押し入る覚悟を固めて、歩いていく。

 そうしながら、近くにいるリルとフェリルに囁く。


「俺が先頭で突っ込む。何が起こるかわからない。臨機応変に頼む」

「……」「……」


 リルとフェリルはこくりと頷いた。

 廃屋は一般的な家屋にしては大きめだ。

 とはいえ、室内で戦うとなると、フェリルはその大きな身体を生かせない。

 外で待機することになりそうだ。

 逃げ出した奴や応援を食い止めるというのが仕事になるだろう。


(我から行くのだ。グレンさまはジュジュさまを抱っこしているゆえな)


 ジュジュの安全と言われたら、確かにシェイドが先頭の方がいいかもしれない。


(そうか、確かにその方がいいかもしれない。だが、大丈夫か?)

(もちろんである。我は肉体的損傷が致命傷になりえぬ精霊ゆえな。加えて魔法耐性も人間の比ではないのだ)

(それはそうだが、呪いは大丈夫か?)


 俺たちと出会ったとき、シェイドは呪われていたのだ。


(それも大丈夫である。グレンさまと契約し、ジュジュさまと強き絆を手に入れたゆえな!)


 オンディーヌたちが言うには、ジュジュは呪いに非常に強い存在らしい。

 そのジュジュとつながりを持ち、シェイド自身の呪い耐性も上がっているのだろう。


(我に呪いをかけられるぐらい強いならば、学院に攻め込んでヴィリたちに呪いをかけまくればいいだけであるぞ?)

(そうなったら、この国は終わりだな)

(うむ。それゆえ、敵はそうしないのではなく、できないのだ)


 悪い奴の立場で考えれば、シェイドの言いたいことはよくわかる。

 なにか悪いことをしたいなら、ヴィリたちを無効化してからゆっくりやればいいはずだ。

 隠れる必要すらなくなるだろう。

 そうしないということは、そもそも、それが不可能だと考えられる。


(ならば、シェイド頼む)

(うむ!)


 張り切ったシェイドが廃屋の扉に手をかけようとして、空中で止まる。

 まるで見えない壁に遮られているかのようだ。


(は、入れぬ。どういうことであるか?)

(シェイドが入れないなら、確実に呪いによって侵入を阻まれているのだろう)


 魔法ならシェイドが気付かないはずがない。

 そもそもシェイドの侵入を、魔法で防ぐことは非常に困難だ。


(シェイド。俺に任せろ)


 俺は、剣を抜くと同時に振りぬき、廃屋の扉、その前の空間を斬り裂いた。

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