第79話 新たな役職

後始末を終えたあと、俺はヴィリたちの元に戻る。


「……じゅ~」


 ヴィリに抱っこされていたジュジュが寝ぼけたまま、俺に向かって手を伸ばす。

 どうやら、俺に抱っこして欲しいようだ。


「ジュジュ、おいで。良い子だね」

「じゅい」


 俺が抱っこすると、ジュジュはしがみついて寝始めた。

 そんなジュジュを見て、ヴィリは優しく微笑んだ。


「かわいいね」

「そうだな。本当に」


 こんなに可愛い精霊たちにひどいことをする奴らが今ものさばっているのだ。

 どうにかしなければならない。


「で、ヴィリ。心当たりはどこだ? 重点的に探してみるが」

「主にこのあたりだね」


 そういって、ヴィリは王都の外縁部を大きくなぞる。


「広いな」

「うん。狭かったらシルヴェストルが調べられるし」

「それはそうか。で、どうしてこの範囲が怪しいと考えたんだ? 魔法的な理由か?」


 魔法的な理由で場所を絞ったのならば、聞いても俺にはわからない。


「多少魔法的な理由もあるけど、メインの理由は物理的な要因かな」

「物理的な……つまり?」

「ある程度広い場所を確保しやすいエリアというのと、官憲の目が届きにくいところ」

「だから外縁部か」


 ジュジュを連れて、日雇いの仕事を言ったときチンピラに絡まれた場所も外縁部だった。

 あのチンピラは人を殺しているというのに捕まってすらいなかった。

 それほど、治安は悪く、行政の目の届きにくいところなのだろう。


「わかった。外縁部だな。ジュジュが起きたら早速出かけよう」


 俺たちの探索はジュジュの特殊能力次第だ。

 ジュジュが目を覚まさないと始らない。


「お願い。僕たちも僕たちの魔法的な方法で探すよ」

「頼む、こちらはこちらで頑張るよ」


 ヴィリは立ち上がろうとして、再び座る。


「忘れてた」

「どうした?」

「これを渡しておくね」


 そういって、ヴィリが差し出したのは丸い銀色のコインのようなものだった。

 コインよりは、二回りほど大きい。人の赤子の手のひらより少し小さいぐらいである。

 細かな装飾が彫られていて、一カ所に紐を通せそうな留め具が付いていた。

 銀色ではあるが、銀の輝きではない。


「白金か?」

「白金にオリハルコンとミスリルを混ぜて、輝きをそのままに、錆につよく強度を増してある」

「それは、随分と高そうだな」


 白金自体が高い。

 そして、オリハルコンとミスリルは白金よりも高い。

 手に取ってみると、ずしりと重たかった。白金よりも密度は高そうだ。


「実際高いよ。素材だけで金貨百枚分ぐらいかな?」

「おお。慎ましやかになら、十年ぐらい暮らせそうだな」

「王に言ってグレンを精霊保護官という役職に任命してもらったんだけど、これは、その身分を証明するメダルだよ」


 精霊保護官という役職は聞いたことがない。

 恐らく、ヴィリが新しく作らせた役職だろう。


「その精霊保護官というのはどういう役職なんだ?」

「役割はその名の通り。精霊を保護するのが仕事。身分は親任官」

「え? 親任官だと?」


 親任官は王が直接任命する官吏の最高位の階級で、敬称は閣下なのだ。

 他の親任官とされる役職には、宰相や財務大臣、大審院長官などがある。

 騎士団長は近衛騎士団長だけが親任官だ。


「……親父より偉くなることがあるとは思わなかったよ」


 父の拝命していた国王の剣術指南役という役職はは勅任官。

 それも最高級に近い官吏で、閣下と呼ばれ、王に任命されるのも同じだ。

 だが、親任官はそのさらに上の階級なのだ。


「精霊保護官は、僕直属……それも国家最高顧問直属だね」

「ほう。なるほど。だが、偉すぎないか?」


 国家最高顧問はヴィリの持っている称号のなかでも、国政の中枢に近いものだ。


「精霊保護官は偉くないと困るんだ。貴族の屋敷でも押し入れるぐらいにはね」

「……なるほど。そういうことか」

「僕たちは、敵が一般の平民ばかりだとは思ってないんだ。豪商か、貴族、いや上級貴族が敵の中にいることはあり得ると思っているよ」


 召喚場所を確保するのにも、召喚に使う高価な触媒準備するのも金がかかる。

 一般の平民では難しい。


「中途半端な役職だと、貴族、それも上級貴族相手だと押し入るのは難しいからね」

「そうだな。助かるよ」

「まあ、強引に押し入っても、あとで僕がなんとかするけどさ。そうするぐらいなら、最初から精霊保護官と言う役職に色々権限を与えた方がトラブル解決も楽だからね」

「ちなみに、精霊保護官の権限も教えてくれ」

「精霊の保護のためならば、ほとんどの場所に立ち入ることができて、精霊を虐待している者がいれば拘束できる」

「ほとんどの場所に含まれないのは?」

「王の寝所とか、謁見の間とか、王の宝物庫かな」

「……なるほど」

「騎士団の詰め所や団長室、外務長官の屋敷や外務省の建物になら、どこでも押し入っても大丈夫だよ」

「軍事機密と外交機密は?」

「もちろん、そこで知ったことは秘密にしないとだめだけどね」

「それは、もちろん、秘密にするが……」


 俺が想定していたより精霊保護官の権限は大きかったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る