第80話 メダルの威力

 俺は少し不安になってヴィリに尋ねる。


「だが、いいのか? 本当に騎士団とか外務省の建物とかに入って……」

「入りにくい場所だからこそ、敵に利用されやすいからね」


 もしかしたら、ヴィリは敵の中に騎士団長クラスや外務省の高級官僚、それも勅任官クラスがいると考えているのかもしれない。


「このメダルを見せれば、基本的に立ち入り調査に協力してくれるはずだよ」

「いやいや、色々理由をつけて抵抗する奴は絶対いるだろ?」


 むしろ、抵抗する奴の方が多数な気がする。

 貴族なら特にそうだろう。


「不満があっても協力するよ。王に逆らい、僕の顔に泥を塗るのと同義だし」

「つまり……それでも拒否すると言うことは王の反逆者と思われることより不味いものを隠していると言うことか」

「そういうこと」


 そうなると、呪われた精霊を隠している可能性が高くなる。

 もっとも、謀反を企てていたりする場合も拒否するだろう。

 それでも、俺が捜索するのはジュジュが可哀想な精霊の気配を感じとった場所だ。

 被害精霊がおらず、謀反だけを企てている可能性は低い気がする。

 精霊に呪いをかけるのと、謀反の企てを同時にしている可能性は、あるかもしれないが。


「……捜索で謀反の証拠を見つけたりしたら、俺の手に余るぞ?」

「そのときは僕に言って。速やかに解決するから」

「わかった、頼りにしている」

「僕の方こそ頼りにしているよ。グレンとジュジュと、そしてシェイドもね」

「我に任せるが良い。我は頼りになる精霊王ゆえなー」


 シェイドは自慢げに尻尾を振りながら、椅子に座る俺のひざに顎を乗せる。

 竜だというのに、まるで大型犬みたいだ。

 可愛いので頭を撫でる。


 眠っているネコを抱っこしたままヴィリが言う。


「ネコは……寂しがるだろうけど、置いていった方が良いかも」

「そうだな。危険だし……」


 戦闘もあり得るのだ。

 絶対について行かなければならないジュジュとは違って、ネコには戦闘での役割がない。

 そんな非戦闘員であるネコを連れていくわけには行かない。

 ネコは赤ちゃん猫に過ぎないのだ。


「ヴィリ、ネコのことを頼む」

「任せて、僕の部屋でしっかり面倒を見るよ」

「とはいえ、ヴィリもずっと在室しているわけでは無いだろう?」

「大体在室しているけどね。部屋にいながら、指揮をするのが基本だし」

「そんなもんか」

「それでも、外出しないといけないときは、信頼できる精霊シッターを用意するから安心して欲しい」

「そっか。任せる」

「うん。ネコのことは任せて」

「……すぅ……すぅ」


 ネコはヴィリに抱かれたまま気持ちよさそうに眠っている。

 そんなネコを俺は撫でた。


「ネコ。しばらくヴィリと一緒にいてくれ。なるべく早く迎えに行くからな」

「すぅ」


 寝たままのネコをヴィリに任せて置いていくのは心苦しい。

 だが、気持ちよく寝ているネコを起こすのも可哀想だ。


「この精霊保護官のメダルだけど、この鎖を通して、首にかけておくと良いよ」


 そういって、ヴィリは細い鎖を取りだした。

 鎖は鈍い銀色だ。メダルよりずっと輝きに乏しい。


「白金の鎖だと、目立ちすぎるからね」

「それもそうか。チンピラに狙われるかもしれないもんな」


 メダルは服の内側に入れておけば目立たない。

 だが、首にかける鎖は、どうしても目に入る。

 白金の鎖を首にかけていたら、金持ちだと宣伝して歩くようなものだ。


 俺はその鎖をメダルの留め具に通す。


「鎖が切れたら、メダルの重さが軽くなるから気づくかな。なくすわけにはいかないからな」


 重要なメダルだ。なくすのは避けたい。

 悪用されても困る。


「一応、その鎖は魔道具の一種だよ。そう簡単には切れないよ」

「ふむ? どのくらいの強度があるんだ?」

「馬四頭に引っ張られてもちぎれないかな」

「それはすごい」

「相当な名剣でも斬るのは難しいかな。グレンの剣なら斬れると思うけど」

「ほほう、大したもんだ」


 見た目こそ地味だが、ものすごく高性能な鎖だったようだ。

 これならば、安心である。


「あ、グレン。念のためにメダルに魔法をかけておく?」

「ん? どんな魔法だ?」

「メダルがどこにあるか、僕にわかる魔法」

「それは便利だな。頼む」

「いいの? 万一落としたときの探索用に使うつもりではあるけど……。その気になれば……」


 その気になれば、俺の居場所がヴィリに筒抜けになる。


「かまわないよ。俺の居場所はわかってた方が便利だろう? 用があればどんどん使ってくれ」

「うん。わかった。ありがとう」


 なぜかヴィリはお礼を言った。

 そして、少し嬉しそうだ。


「じゃあ、早速魔法をかけるね」

「頼む」


 ヴィリは座ったまま、ネコを左手で撫でながら、精霊保護官のメダルに右手の人差し指でそっと触れた。


「……はい、これでよし」

「速いな。しかも触れただけで?」

「指先から魔法陣を出してちょちょっとね」

「すごいもんだなぁ。無詠唱も一瞬びっくりするな」


 俺も何度も無詠唱魔法を見たことはある。

 それでも、やはり一瞬びっくりしてしまう。


 俺は魔法をかけられた精霊保護官のメダルを首にかけて、服の下に入れたのだった。

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