第77話 不法な召喚

 ジュジュが、やる気ならば呪われた精霊を探しながら散歩してもいい。

 だが、本当にジュジュはわかるのだろうか。


 わからなくとも、恐らく敵はジュジュを亡き者にしようと動くかもしれない。

 ジュジュは精霊の上王。

 アンチ精霊、アンチ魔法の狂信者にとっては絶対に仕留めたい相手だろう。


「ジュジュ。本当に呪われた精霊がいたらわかるの?」


 ジュジュが呪われた精霊のことを察知できたとしても、至近距離まで近づかなければならないなら意味がない。

 それだと、ただの散歩になってしまう。

 ただの散歩になるならば、いたずらにジュジュを危険にさらすことになる。

 その場合、ジュジュをおとりにするのも同義だ。


「うーむ。ジュジュ。本当にわかるの?」


 精霊の上王とはいえ、ジュジュは赤ちゃんなのだ。


「じゅ!」

「そりゃ、ジュジュさまならば、わかるであろうなぁ。もちろん距離と関係によるがな」


 ジュジュは自信があるらしい。

 そして、シェイドも、ゆで卵を食べながら、そんなことを言う。


「関係っていうのは、いわゆる魔法的な関係ってやつか?」

「その通りである」


 関係については昨日シェイドから聞いている。


「実際に呪われた精霊の場所がわかるのならば、ジュジュを連れて散歩しよう」

「ありがとう。助かるよ」

「ヴィリは、呪われた精霊が王都にいると推測しているのか?」

「そうだね。魔導師が召喚した精霊の数より、召喚された精霊の数が多いんだ」

「そんなことがわかるのか?」

「大体はわかる。特に四大属性の精霊ならば、確実にわかるかな」


 恐らくヴィリと契約している精霊王であるオンディーヌたちの力だろう。

 水、炎、土、風の精霊は、契約精霊としてもメジャーな存在だ。


「精霊と契約した前と後には、届け出が必要なんだ。だから魔導師がどの精霊と契約しているかについては正確に把握できているんだ」

「ふむ。そんなもんか」

「ちなみにジュジュを召喚したバカも、召喚前の届けは出していたよ」

「意外だな」

「届け出なしで召喚したら、かなりの重罪だからね。高額の罰金刑が科せられるし、キャリアに大きな傷が付く」

「なるほどな。ちなみに、ジュジュはなんの精霊を召喚すると届けられていたんだ?」

「動物系精霊かな」


 属性でもなく、犬や猫といった種族名でもない。


「随分と、漠然としているんだな」

「意図しない精霊が召喚されることもあるし。そもそも召喚失敗もあるし。召喚前の届け出は希望ぐらいの意味しかないからね」

「召喚後の報告で、どの精霊を呼び出したのかを把握するわけか」

「そう。あくまでも召喚前の届け出は、いつごろ召喚しますよという報告だから」


 召喚時期を把握するための召喚前報告。

 どの精霊が召喚されたかを把握するための召喚後の報告と言うことだろう。


「召喚失敗報告とかも?」

「そうだね。当然しないといけない。契約の有無も事後報告で把握しているね。精霊に契約拒否されることも珍しくないし」

「なるほどなぁ」

「あのバカですら、届け出するぐらい魔導師にとっては大事なことなんだ」


 通常の魔導師にとって、契約は一生に一度のことだ。

 それに、大きな問題を起こさない限り、魔導師は一生涯高給が保証される。

 それだけでなく、社会的地位と名誉も充分に高い。

 そして、届け出は煩雑でもないし、費用もほとんどかからない。


 しかし、届け出を出さない召喚は、大きな問題、前科となりうるのだ。

 これからエリートである魔導師になろうとしている者にとって、出さないという選択肢はない。


「随分と厳密に管理しているんだな」

「召喚を野放しにすると、ひどい目にあう精霊が増えるからね」


 そういって、ヴィリはジュジュを見る。


「じゅ?」

「これだけ厳密に管理しても、被害精霊はゼロにはならないんだよね。悲しいことに」

「そうだな」


 俺は被害精霊となったジュジュとネコのことを優しく撫でた。


 精霊を虐待したり、戦闘時以外で殺したりすることは、完全に違法だ。

 だが、契約を断られて精霊は消えたと報告して、密かに殺す奴がいると俺も噂に聞いたことがある。


「あのバカも『そんなもんどうとでもなる』というようなことを言っていたからな」


 ジュジュを殺そうとし、それを止めようとした俺に攻撃魔法を放つときに、元生徒たちが言っていたことだ。

 違法だが、貴族の力があればどうとでもなる。

 そう、あのバカたちが考えていたのは間違いがない。


「それはバカだから、僕たちのことを舐めていたんだよ」

「そうなのか? どうとでもなるってわけでもないのか?」

「本当はね。よほどうまくやらない限り、すぐばれるよ」

「そうなのか?」

「うん。魔法革命の後、そういう魔導師が増えてね。みんなで協力して色々作ったからね。魔術的なあれこれを」

「ふむ?」


 ヴィリの言うみんなというのは、オンディーヌたち四大精霊王たちのことだろう。


「まず八年前に王都以外では召喚できないようにしたんだ。これは精霊召喚技術の根幹である魔導師の魔力回路と自然界にある魔力の流体としての次元の臨界面が…………。あ、ごめん」


 語りはじめたが、俺がついて行けていないことに気づいてヴィリは止まった。


「ん。いいさ。工夫して、王都以外では召喚できないようにしたってことだろう?」

「そういうこと」

「じゅ~」


 ジュジュは頭が良さそうなヴィリに尊敬の念を抱いたようだ。

 目を輝かせてヴィリを見ていた。

 もしかしたら、ジュジュが学問に目覚めて、将来的に学者になるかもしれない。

 そんな予感がした。

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