第76話 大賢者からの依頼

 起きたネコと、ジュジュと一緒に、シェイドの作ってくれたゆで卵を食べていると、

「グレンいるかい?」

 ヴィリがやってきた。


「ヴィリか。よく来た。何か進展があったのか?」

「多少はあったかな」

「そうか。まあ、座れ。シェイドの作ったゆで卵がある」

「沢山あるのである! ヴィリも食べればよいのだ」

「ありがとう、いただくね」


 俺はゆで卵を食べながら、ヴィリに尋ねる。


「で、進捗は?」

「まず、敵の拠点を五カ所みつけた」

「中々の成果じゃないか」

「うん。王家も頑張ってくれているからね。だけど、成果と呼べるほどではないかも」

「どういうことだ?」

「呪われた精霊は、どこにもいなかったからね。みつけたのはただの集会所。捕まえたのは下っ端信者だよ」


 確かに、それならば進展はあったが、成果と呼べるほどではない。


「信者を捕らえたのなら、何の神かわかったんじゃないか?」

「それがね、そうでも無いんだ。神の名前を知らなかったからね」

「信者なのに?」

「いと高き方とか、そんな風に呼んでいたよ。固有名は誰も知らなかった。少なくとも捕まえた奴らはね」

「神の名前を隠す意味はあるのか?」

「神の名前を神聖な侵すべからざるものとして、みだりに口にしない宗派は珍しくはないけど……」

「信者が名前自体を知らない宗派は少ないよな」

「うん。そうなんだよね。もしかしたら、名前を知られたら対策を取ることができる神なのかも」


 そうなると、一般人レベルではともかく、神学者レベルでは有名な神なのかもしれない。


「教義から推測することはできないのか?」

「うーん、どうだろうね。神学者たちがやっているけど」


 神学者は四六時中、昔の文献や聖典を読んで分析している専門家だ。

 ほとんどの神官よりも、神について考え続けている人たちである。

 王家が依頼するレベルの神学者ならば、マイナーな文献ですら把握しているだろう。

 任せておけば、きっと敵がなんの神の信者なのか、わかるに違いない。


「ちなみにどんな教義なんだ?」

「簡単に言えば、アンチ精霊主義、いやアンチ魔法主義と言っても良いかもしれない」

「アンチ魔法主義って、なんだ? 魔法を使うなっていう主義なのか?」


 俺にはよくわからない。


「精霊と契約した人間、魔導師のことだね。その魔導師は精霊に魂を乗っ取られるっていう考え」

「よくわからんな。それが正しいとは思わないが、精霊に支配されると信じているのなら、契約しなければ良いだけだろう?」

「彼らは正義感から魔導師を救おうとしているんだよ」

「……へー」


 歪んだ正義感ほど厄介なものはない。


「さらにいうと、魔道具を使うことでも徐々に魂を乗っ取られると考えているっぽいね」

「ありえんだろ」

「そうだねぇ。そんな機能なんて、つけたくてもつけられないよ。どれだけ魔道具技術を進歩させればいいのか」


 魔道具は非常に便利で有用な道具だが、万能では無いのだ。


「つまりだ。狂信者たちは、精霊と魔法から人間を守ろうとしているのか……」

「そうだね。そんな神が果たしているのか疑問だけど」

「ヴィリでも知らないのか?」

「うん。僕は専門家じゃないからね」


 大賢者と呼ばれるヴィリでも神学は専門家ではない。

 とはいえ、博識なヴィリは、神学者ほどではないが、神学についても相当博識だ。


「ヴィリでも知らないとなると、判明には時間がかかりそうだな」

「そう、問題はそこなんだ。時間がかかりすぎる」


 ヴィリの懸念はわかる。

 時間がかかればかかるほど、呪われる精霊の数が増えることになる。

 呪われる精霊が増えれば増えるほど、敵の尻尾を掴みやすくはなるのだろう。

 だが、そのような作戦はなるべくならば採りたくはない。


「うん。ということで、グレンには独自に動いて欲しいんだ」

「わかった」

「詳しいこと聞いてから返事をしてよ」

「昨日、オンディーヌに俺を手伝わせろ的なことを言ったからな。頼ってくれて嬉しいよ」


 俺が言ったのは「敵を見つけたときに、自分たちだけでやろうとするな」というようなことだ。

 だが、基本的には俺にやれることがあるなら、頼ってくれということである。


「……お礼を言われるとは思わなかったよ」

「で、なにをすれば良い?」

「難しいことはなにもなくてね。王都の中を散歩してくれれば良いよ。ジュジュを抱っこしてね」

「じゅ?」


 自分のことが会話に出たと気づいて、ゆで卵を食べていたジュジュは首をかしげる。


「それは構わんが、ジュジュを抱っこする理由は?」

「ジュジュは精霊の上王。全ての精霊を眷属にしている。それはオンディーヌから聞いているよね」

「聞いたな。確かに」

「ジュジュならば、呪われた精霊が近くにいれば気づけるからね」

「なるほど」

「じゅ~……じゅ!」


 ジュジュは「なるほど~、任せろ!」的なことを言っている。

 やる気になったジュジュは尻尾をぶんぶんと振って、鼻息を荒くしていた。

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