第75話 夜ご飯と朝

 お菓子を皆で食べたあと、ジュジュとネコはうとうとし始める。


「寝て良いよ。たくさん寝なさい」

「ぅじゅ」「に……」


 ジュジュとネコを優しく撫でていると、すやすやと眠ってくれる。


「くごあ……しゅぴー」

「シェイドもよく眠っているな」

「大人の精霊王なのに。ジュジュやネコより先に眠った」


 オンディーヌはシェイドをみてぼそりと言う。

 あまり表情はかわらないが、不満げだ。


 シェイドはお菓子をバクバク食べて、砂糖たっぷりのお茶を飲んだら、すぐに俺のベッドで眠りについた。

 その寝息を聞いていた、ジュジュとネコも眠くなったという流れである。


「シェイドも疲れてたんだろう。呪い明けだし」

「むう。シェイドはジュジュとグレンを守らないといけないのに」

「シェイドは活躍してくれているよ。とても助けられている」

「それならいい」


 オンディーヌもシェイドに期待しているのだろう。


「オンディーヌ。精霊に呪いをかけている奴について情報は集まったか?」

「ヴィリが頑張っているけど、まだかかる」

「そうか。難しいんだな」


 今日、ヴィリは小屋に来ていない。

 きっと忙しく働いているのだろう。

 ヴィリとシルヴェストルでも手こずると言うことは、敵は相当うまく隠れているのだ。

 俺がなにかやったところで、役立つこともなさそうだ。


「オンディーヌ。ヴィリに伝えて欲しいことがあるんだが」

「なに?」

「敵を見つけたとき、ヴィリは自分たちだけで解決しようとするつもりじゃないか?」

「…………」


 オンディーヌは黙ってこちらをじっと見る。

 恐らく図星だ。

 ヴィリは俺よりずっと強い。契約している四大精霊王たちも強力なこと、この上ない。

 俺が手伝わなくても、事態を解決することは容易だろう。


「だが、呪いは魔法ではない。魔法の天才にして専門家であるヴィリの想定外の事が起こるかもしれない」

「…………」

「万一のこともありうる」


 得てして、想定した最悪の状況を上回る最悪な事態ことが起こったりするものだ。

 万一あるかもと思ったたことは、大抵起こる。

 そんな気がする。


「ヴィリたちは呪いを見られないし、斬れない。俺がいた方が安定するはずだ」

「うん。わかった。ヴィリに言っておく」

「頼む」


 それからオンディーヌは帰ることになった。

 帰り際、オンディーヌが言う。


「グレン」

「ん?」

「私も、ヴィリも頼りにしている」

「ありがと、がんばるよ」

「ん」


 そしてオンディーヌは帰って行き、俺はジュジュとネコを抱いて眠りについた。


 …………

 ……



 次の日の朝、目が覚めると右手の人差指をネコに吸われていた。

 前足は俺の手の平をゆっくりと揉むようにふみふみしている。


「にゅ……にゅ……ごろごろごろ」


 まるで、母乳を飲んでいるかのような仕草だ。

 喉も鳴らして甘えている。


「俺の指からは母乳は出ないが……」


 精霊には親がいない。

 だから、授乳されることもないはずだ。


「ふむう。猫の精霊には、動物の猫の本能的なものを持っているのかな」


 どちらにしろ、指を吸われても減るわけでもなし。

 それに可愛いので、吸いたいだけ吸わせてあげたいものだ


「あれ? ジュジュは? ジュジュどこだ?」

「じゅ?」


 ベッドにいないジュジュを呼ぶと、台所の方から声がした。


「じゅう」


 そして、シェイドの背に乗ったジュジュが台所からやってきた。

 そうしていると、お馬さんごっこをしているようにみえる。


「ジュジュ起きてたのか。いいこにしてたか」

「じゅ」

「シェイドも、ジュジュを見てくれてありがとう」

「当然のことである。我はジュジュさまの忠実な臣下ゆえな」


 シェイドはどこか誇らしげだ。


「じゅ~」

「ジュジュ、それは……干し肉?」

「じゅ!」


 どうやら台所から干し肉をもってきたらしい。


「じゅっじゅ!」

「えぇ、それは余り美味しくないと評判なんだが……」


 ジュジュは干し肉を煮てすりつぶして冷ました料理を食べたいという。

 俺が最初の日にジュジュに食べさせたご飯である。


「じゅう!」

「そうか……まあ食べたいのなら、作るよ」

「じゅ!」

「だが、今はネコが、俺の指を吸っているからちょっと待ってくれ」

「じゅ~?」

「にゅ……にゅ……」


 そろそろ、飽きてもいいと思うのだが、まだ吸っている。

 もしかして、ネコは寝ぼけているのだろうか。

 寝ているにしろ起きているにしろ、しばらくそのまま吸わせておけば良いだろう。


「じゅ……じゅう」


 ジュジュはシェイドの背中からベッドに移る。

 そして、俺の左手をベロベロなめ始めた。

 ネコのまねをしているのかもしれない。


「ふむふむ。ジュジュさまは、甘えたい年頃なのだなぁ」

「赤ちゃんだからな」

「うむ。我は適当に食事の準備をしておくのである」

「ありがとう」

「とりあえず、ゆで卵を沢山茹でておくのだ」


 しばらくすると、ネコが起きて大きく伸びをした。


「にぃぃあ」


 やはり、寝ぼけて指を吸っていたようだ。

 そして、その頃にはシェイドが沢山のゆで卵を持ってきてくれたのだった。

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