第74話 精霊の上王と精霊

 シェイドやジュジュ、ネコと念話が出来たことを喜んでいると、台所からオンディーヌが言う。

「シェイドは、精霊王なんだから、早くグレンに念話を送れるようになれ」

「わ、わかっているのだ。早速練習してみるのだ!」


 真剣な表情になったシェイドは目をつぶる。

 すると(……な…………い)かすかに言葉が聞こえてきた。

 だが、意味は読み取れない。


 きっと、少し前の俺の念話もこんな感じで聞こえていたのだろう。


「少し聞こえるが、意味はわからない」

「そうであるか、頑張るのである」

「無理はしなくていいよ」


 すると、オンディーヌがぼそっと言った。


「精霊王なのに、それは問題」

「わかっておるのだ、コツをつかめば我もすぐに……」

「無理はしなくていいんだからな」


 俺は改めて無理をするなと再び言った。

 人にも精霊にも得意不得意はあるものだ。

 不得意なことは、ゆっくり練習すれば良い。


(じゅっじゅ!)

(お、ジュジュも念話を使えるようになったのか。天才だな)

(じゅ~)


 精霊の上王というのは伊達ではないらしい。

 まさに天才である。


「にぃ……」

「ネコは赤ちゃんだから、できなくてもいいんだよ」

「にい」

「赤ちゃんではない精霊王。早くしろ」

「わかっているのである! オンディーヌ、我は不慣れなのであって」

「苦手なことはあるし。こういうものは慣れとかもあるし」

「さすがグレンさまなのだ! そのとおりである!」


 そこにオンディーヌがお茶とクッキーを持ってきてくれた。


「ありがとう、オンディーヌ」

「ん。シェイドものめばいい。砂糖を沢山入れておいた」

「かたじけないのだぁ」

「じゅっじゅ」「にいい」


 クッキーを見て、俺に抱っこされたジュジュとネコが騒ぎ出す。


「ジュジュとネコも食べなさい」


 俺はクッキーをジュジュとネコに順番にあげていく。

 ジュジュもネコも、本当に美味しそうにぱくぱく食べる。

 呪い明けで体力が落ちているはずなので、沢山食べてくれると俺としても安心だ。


 シェイドも砂糖をふんだんに入れたお茶を飲む。


(あまい!)

「お? シェイドの念話が聞こえたぞ」

「え? 今聞こえたのであるか?」

「ああ、聞こえた」


 シェイドは無意識に念話を使ったらしい。


「シェイドは力のある精霊王だし、気楽にやればできて当然だったのかもな」

(へへへ。そうかもしれないのである)


 口で話してもいいのに、あえてシェイドは念話を使った。

 とても嬉しいのだろう。尻尾も元気に揺れていた。


 俺もシェイドも念話を使えるようになった。

 それどころかジュジュまで使えるようになったのだ。

 充分な成果といえるだろう。

 

「これで、何かあったとしても安心だな」

「そうなのである! これでグレンさまとの連携がとりやすくなるのだ」


 戦闘時も、戦闘時じゃないときも、色々便利になった。

 それにしても、なぜオンディーヌと俺たちとの間でも念話が使えたのだろうか。


「ところで、オンディーヌとも念話で意思疎通ができたのはどういう理屈なんだ?」

「グレンと私の相性が良いから」


 オンディーヌは「ふふん」と鼻息を荒くしてこちらを見ている。

 だが、お茶を飲んでクッキーをバクバク食べていたシェイドが言う。


「それは精霊の上王たるジュジュさまの力であるな」

「じゅ?」

「我は闇の精霊王だから、闇の精霊は一応全て眷属なのだ」

「一応ってどういう?」

「眷属にも関係の濃い薄いはあるのである。人もそうであろう?」

「親兄弟みたいな近い一族と、遠い親戚みたいな?」

「そう、それなのだ」


 なんとなくわかった。

 シェイドの言う関係の濃さとは、血の濃さではなく魔力的、魔法的な関係の濃さのことだ。


「ん? 待てよ?」

「どうしたのである?」


 ということは、シェイドは沢山いる闇の精霊の眷属とも念話で意思の疎通をしてこなかったということだろう。

 どうやら、友達が少ないだけでなく、親戚づきあいも希薄らしい。

 なんとなく闇の精霊は暗がりが好きなイメージがあるし、あまりわいわい楽しくしているイメージもない。

 きっと、社交的な闇の精霊は少ないのだろう。

 だが、シェイドは明るいし、おしゃべり好きだ。


「苦労したのだなぁ」

「なにがであるか?」

「なんでもない」


 友達が少ないとか仲の良い親戚もいないとか指摘するのは失礼である。

 シェイドは一瞬首をかしげて、話を続ける。


「ともかくである。精霊の上王たるジュジュさまは、全ての精霊を眷属にしているといえなくもないのだなぁ」

「それはすごいな」

「精霊王は、全ての精霊の中でも、ジュジュさまとの関係が濃い方なのである」


 精霊王たるシェイドを踏み台にして、ジュジュは呪いをかけられていた。

 魔法的な関係が濃いからこそ、シェイドは呪いの踏み台たりえたのだろう。


「俺とジュジュが契約したことで、俺とジュジュの魔術回路がつながったからか」


 だから俺はオンディーヌは念話を使えたのだろう。


 その理屈でいくと、オンディーヌだけでなく、他の精霊王シルヴェストルたちとも念話ができそうだ。

 ひょっとしたら、オンディーヌと契約しているヴィリとも念話が使えるかもしれない。


「精霊の上王は、我ら精霊王よりずっと特別な存在なのである。ネコも最初から眷属みたいなものでもあったのだ。関係は薄かったがな」

「にぃ?」

「保護を受けた今では、関係はかなり濃いのである。安心するが良い」

「に」


 ご機嫌になったネコは俺の手からクッキーをパクリと食べる。

 ジュジュが呪われたネコと共鳴したのも、眷属だからできたのかもしれない。


「上王って大変だな」

「じゅ~?」

「いっぱい食べるんだぞ」


 俺がジュジュにクッキーを食べさせていると、オンディーヌがぼそっと言った。


「私とグレンの相性が良いのは本当」

「そうだな。それは疑ってないぞ」

「ふひひ」


 オンディーヌは嬉しそうに変な声で笑ったあと、お茶を飲んだ。

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