第68話 ネコのトイレ

 王女に男の子の恰好をさせて、優秀な騎士を護衛に付けたら、公園ぐらいなら大丈夫という判断だったのかもしれない。


「王には王子が三人いる。だけど女の子はやっと生まれた。年取ってから生まれた初めての女の子だから、王は王女に甘い」

「それでも、王城の外に出すのは危険じゃないか?」

「王位継承争いにからんでいるわけでもない。貴族が政治的目的で王女を暗殺する理由はない」


 まともな貴族や豪商にとって、王女誘拐はリスクが高すぎる。

 襲撃してくるならば、営利目的の誘拐になる。

 その程度の襲撃者からならば、優秀な騎士で充分守れると判断したのだろう。


「王としても、可愛い王女を殺されかけて怒り心頭だから。敵を許さないという意識は高い」

「それなら、心強いな」

「そ」

「……あのひょっとして、お菓子のお礼とか、きちんとした手紙でだしたほうがいいのか?」

「それは気にしなくていい。あれは送ってくれたシェイドに対するお駄賃みたいなもの」

「そっか。それならよかったよ」

「うん」


 それからしばらく話をして、オンディーヌは帰っていった。

 オンディーヌも色々と忙しいのだろう。


「まだ、夕方まで時間はあるが……、まあいいか」


 せっかくなので、俺もベッドで横になることにした。

 ベッドの真ん中で仰向けになっているシェイドを横にずらす。

 そうしてから、ジュジュとネコを抱っこして横になる。

 ジュジュとネコは俺の枕より上の方に寝かせておく。

 俺が寝返りを打ったときに踏まないようにだ。

 シェイドの方は俺の寝返りぐらいなら、どうと言うことはないだろう。


 …………

 ……


「んじゅじゅ」

「にぃにぃ」


 俺はジュジュとネコの声で目を覚ました。

 部屋の中は暗くなっている。


「……夜か。二時間ぐらい寝ていたか?」


 夕方前から夜まで一眠りしていたようだ。

 ジュジュとネコの鳴き声は少し離れた場所から聞こえていた。

 ジュジュとネコは俺より早く起きて、部屋の中で遊んでいたらしい。


「シェイドは……いつもの通りか」

「ぐぴー」


 シェイドはベッドの上で、まだ気持ちよさそうに眠っている。

 もしかしたら、シェイドは眠りが深いたちなのかもしれない。

 俺は仰向けでねるシェイドのお腹を軽くトントンと叩いた。

 

「ぐぴっ……すぴぃ」


 ちょっとの刺激ではシェイドは起きないようだ。

 少し寝返りを打って、寝続ける。


 俺はシェイドを撫でてから、ベッドから出て部屋用の魔法ランプをつけた。


「おや?」


 俺の枕の上が黄色く濡れていた。結構な量を出したようだ。


「やってしまったか」


 人間でも子供のうちはおねしょするものだ。

 仕方の無いことである。


「じゅんじゅ」

「にぃ~」


 俺はジュジュたちの声がする方へ向かう。


「ジュジュたちはトイレか?」


 基本的に使用していないときは、いつもトイレの扉を開けている。

 ジュジュがしたくなったらいつでもは入れるようにである。


「じゅ!」「に」


 俺がトイレを覗くと、ジュジュがトイレをしていた。

 どうやら、それをネコにトイレの場所を教えてあげているようだ。

 ネコも真面目にジュジュのトイレをじっと見ている。


 ジュジュはトイレをし終わると、「じゅ!」と鳴く。

 すると、ネコもジュジュのまねをして、トイレをしはじめる。


「賢いな。偉いぞ~」

「じゅ~」


 俺はちゃんとトイレをしたネコを撫でまくる。

 ジュジュも俺と一緒に、ネコを撫でまくっていた。


「ネコ。教えて無くてすまない。トイレはここなんだ」

「にぃ」


 俺の小屋のトイレは、ここ十年で急速に普及した水洗式トイレである。

 便座の位置はさほど高くないので、ジュジュやネコでも充分届く位置にあるのだ。


「ネコが動物の子猫の大きさなら危ないところだが……。まあネコは子猫だが、動物猫換算で成猫ぐらいあるからな」


 そう簡単には落ちまい。たとえ落ちたとしても余裕で脱出できるだろう。

 むしろ体の大きさはネコと大差ないが、手足がずんぐりむっくりしている分、ジュジュのほうが不安なぐらいだ。


「まあ、落ちても汚れるだけだがな」 


 十年前に主流だった便槽にためるタイプなら、落ちたら危険だっただろう。

 今の水洗式だと、落ちたときに間違って水を流したとしても、ジュジュやネコぐらいの大きさがあれば、溺れることも流されることもない。


「大賢者さまさまだな」

「じゅ!」

「ネコ。このトイレは気に入らないかもしれないが……」


 猫は砂とかの上にトイレすることを好むと聞いたことがある。

 人間のトイレに直接するのは気に入らなくても何の不思議もない。


「にぃあ!」

 だが、ネコはトイレに特にこだわりは無いようだ。

 動物ではなく、精霊の猫だからかもしれない。


「トイレを使ってくれてありがとうな」

「にぃ」


 ネコは尻尾をゆっくりと動かした。

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