第64話 お菓子パーティ

 シェイドはどや顔で尻尾を振りながら言う。


「精霊にも好みはあるが、食べさせたら危険なものは、人間の食べ物にはないのだ」

「そうか。猫は甘い物が好みっぽいな」


 猫はジュジュと並んで、目を輝かせてお菓子を見つめていた。

 早く食べたいという気持ちが伝わってくる。


 精霊には、一般的な動物の常識は通用しないらしい。

 あげてはいけない食べ物が少ないのは、気楽で良い。


 どのお菓子が好みかわからないので、とりあえず大きめの皿を持ってきてお土産のお菓子を並べていく。

 更に並べている途中で、猫はお菓子を食べようとした。

 だが、そのときも「じゅ!」とジュジュに制止されて、食べるのを止めた。

 まるで、ジュジュが弟妹の面倒を見ているかのようだ。


「ジュジュも猫も偉いな」

「じゅ~」「に」


 ジュジュも猫もお菓子に口を付けることなく大人しく待っている。


「じゃあ、ジュジュ、猫。どれが食べたい?」

「じゅ!」「にー」


 ジュジュと猫が、それぞれ前足でお菓子を指す。

 ジュジュはクッキーで、猫は生クリームが沢山はいったパンのようなお菓子だ。


 小さい皿にそれぞれの希望するお菓子を載せていく。


「食べて良いよ」

「にー」


 猫は大喜びで生クリームにかぶりつく。

 パン部分より生クリーム部分が好みらしい。


「じゅ!」

 そして、ジュジュはこちらをじっと見る。


「どうした?」

「じゅ~じゅ」


 クッキーと俺を交互に見た。

 どうやら、食べさせて欲しいらしい。


「ほい。食べなさい」

「じゅむじゅむ」


 俺がクッキーを掴んで口元に持っていくと、ジュジュは嬉しそうに食べる。


「好きなだけ食べるんだぞ。沢山あるからね」

「じゅ~」「にぃ」


 シェイドが貰ってきたお菓子の箱は大きい。

 そこにお菓子が沢山詰まっているのだ。


「シェイドも食べるんだよ」

「いいのか?」

「もちろん。沢山あるし」


 俺がそう言うとシェイドは尻尾を振って口を開けた。


「ん? ああ、すまん」


 俺はシェイドの口にクッキーを入れた。


「うまいのである!」


 自分の手で取って食べれば良いのにと思うが、そういう気分なのだろう。

 ジュジュが俺に食べさせて貰っているのを見てうらやましく思ったらしい。


「もっと食べたいのだ!」

「ほいほい」


 ジュジュとシェイドにお菓子を食べさせながら、自分も食べた。


「これは美味いな。これほど美味い菓子は初めて食べたかもしれない」

「さすがは王城の菓子職人の作ったお菓子なのである! むぎゅむぎゅ」


 シェイドは機嫌良く俺の手からクッキーを食べながら、そんなことを言う。


「ん? 王城?」

「そうであるぞ。もぎゅもぎゅ。あ、光栄なのである、ジュジュさま!」

「じゅ~」


 ジュジュが自分の食べていたクッキーをシェイドの口に押しつけていた。

 シェイドが美味しそうに食べるので、自分の分も食べさせてあげようと思ったのだろう。

 ジュジュはとても心優しい。


「王城。……家が王城で、騎士が護衛。…………あの子は王族か?」

「たぶんそうであるぞ。詳しくは聞いてないがな!」


 シェイドは精霊だから、人の王族とかそういう身分には基本的に興味がないのだろう。


「じゅい」

「にーぃ」


 ジュジュは机の上を歩き、クッキーを手に猫のところへ向かう。

 猫もジュジュから差し出されたクッキーをパクパクと美味しそうに食べていた。


「クッキーとパンの他にもケーキもあるからなー」

「じゅ!」「に」

「あまったら全部食べるのであるぞ! 腐ったら困るゆえな!」


 精霊たちは甘い物が大好きらしい。


「グレンさまもどんどん食べるのだ!」

「そうだな。沢山あるしな」


 俺は苺が沢山のったケーキを食べる。

 すると、よだれを垂らしてシェイドがこちらを見つめていた。


「シェイド。一口食べるか?」

「よ、よいのか? あーん」


 シェイドが待ってましたとばかりに口を開けるので、その中に、ケーキをひとかけら入れてやった。


「うまいか?」

「うまいのだ!」

「じゅ」

「ジュジュにもあげようね」


 そうして、ジュジュの口の中にケーキを入れてあげていると、

「に」

 驚いたことに猫までやってきて俺をじっと見つめる。


「猫もほら、あーん」

「に」


 なんと猫まで俺の手からケーキを食べてくれた。

 みんなでお菓子を食べることで、心を開いてくれたのかも知れない。

 元生徒にひどい目に遭わされたというのに、人間全体を嫌いにならないでくれたようだ。


「猫は良い子だね」

「にぃ」


 猫はジュジュと同様に、とても人懐こい性格なのだろう。

 そんな精霊に呪いをかけて、無理矢理使役するなど、とてもではないが許されることではない。


 そんなことを考えつつも、笑顔で、ジュジュや猫、シェイドと一緒にお菓子をパクパク食べていると、小屋の扉がノックされる。


「開いているぞ」

「ん。おいしそう」


 小屋に入ってきたオンディーヌは沢山のお菓子を見てぼそっと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る