第65話 お菓子パーティ2

「オンディーヌ、適当に座ってお菓子を食べていてくれ。お茶を淹れる」

「じゅ~」

「ん、ジュジュありがとう」


 ジュジュは特に気に入ったお菓子をオンディーヌにあげていた。


 俺はお茶を用意しながら、尋ねる。


「オンディーヌ、あの元生徒はどうなるんだ?」

「いくら子供とはいえ、今回はかなりの厳罰になるとおもう」


 しかるべき矯正施設に、それなりに長い間、収容されることになるのだろう。


「呪いに関しては? 元生徒に教えた奴がいるんだろう?」

「そのはず。そいつが黒幕」


 魔導師にとって呪いは専門外だ。

 ただの生徒であった魔導師見習いが扱えるようなものではない。


「黒幕の正体は? 尋問で何かわかったんじゃないか?」

「正直者になる魔法をかけたけど、肝心なことは覚えていなかった」

「魔法で記憶を消されたのか?」

「違う。呪いで記憶をこわされていた。こわされたら読み取ることも復元することもできない」


 情報をこちらに渡さないために、記憶を壊したのだろう。

 黒幕は元生徒が捕まることも予想していたのかも知れない。


「元生徒は、あまりにも極悪非道な振る舞いをしていたが、それも操られていたゆえか?」

「それは違う。呪いは記憶だけを壊していた。別に行動には作用していない。行動は全てあのバカの自由意志によるもの」


 それならば、自由意志ならば、あの劣悪な性根も本人のものなのだろう。


 俺はティーポットとカップ、それに砂糖を持って、机に持っていく。

 オンディーヌの前にカップを置いて、お茶を注いだ。


「ありがとう」

「気にするな。砂糖は入れるか?」

「スプーン半分ぐらい。グレンは?」

「俺はいいかな」


 砂糖を入れたお茶も美味いが、今は甘いお菓子が沢山あるのだ。

 それをお茶うけにするならば、砂糖は入れない方が好みである。


 お茶を飲みながら、オンディーヌに尋ねる。


「元生徒のこわされた記憶って具体的には何だ?」

「こわされた記憶は呪いを教えた者についてと呪いそのものについてだけ」


 そういってオンディーヌはお茶を飲む。

 元生徒も何者かに利用されていたのは間違いない。


「矯正施設行き、十年ぐらいか?」

「ん? そんなに軽いわけない」

「やったことは凶悪で下劣極まりないが、子供だし……」


 本当に不本意だが、そのぐらいの量刑になりそうな気がする。

 ひどいことをしたが、人も精霊も、誰も死んではいないのだ。


「王族に攻撃魔法を放った。つまり王族の暗殺未遂。一族郎党皆殺しでもおかしくはない」

「そうか、そういえば、あの子供は王族だったな」


 ならば量刑的に極刑がふさわしい気がする。

 それを聞いても、あまり同情する気にはなれなかった。


「安心して。処刑されるにしてもあのバカだけ。ヴィリが口を利くから、一族はきつく叱られるだけで済む」


 元生徒の一族は、一族郎党皆殺しとなる事態から救われることになるのだ。

 ヴィリに感謝することになるのだろう。


「お茶。おいしい」

「それならよかった。ヴィリのくれた茶葉がいいんだろう」

「ちがう。グレンの淹れ方がいい」

「にー」

「猫もお茶が飲みたいのか? だが、猫舌っていうぐらいだし……。水をさして少し冷ますか」

「まかせて」


 オンディーヌが新しいカップにお茶を注ぎ、すぐに冷ました。


「おお、すごい」

「液体の温度調節は得意」


 オンディーヌは、水の精霊王なので液体を沸騰させたり、凍らせたりするのは思いのままなのだ。


「ネコ。さましたからのんで」

「にぃに……ぃ」


 冷めたお茶を猫が舌でペロりとなめた。

 美味しく感じているわけではなさそうな雰囲気だ。


「じゅ~!」

 ジュジュもお茶を一口舐めて、美味しくないという。


「子供の口にお茶は合わないんじゃないか?」


 精霊でなくても、人の子供でもお茶は余り好まない。

 砂糖を沢山入れれば別だろうが、砂糖を沢山入れるぐらいなら甘いジュースを飲めばいい。


「あー、お茶はそうであるな! 子供の舌には、この複雑なおいしさはわからぬであろうなぁ。どれ我が飲んでやるのだ」

「じゅ!」「にぃ」


 お茶を飲めなくて困っているジュジュと猫の替わりに、シェイドが猫のカップを手に取って飲み始めた。


「……うむ」


 一口飲んだシェイドは砂糖をドバドバと入れる。

 お茶に砂糖を入れると言うより、砂糖にお茶を入れたといった方が良さそうなぐらい大量に入れた。

 あれでは、お茶の風味もなにもあったものではない。


 砂糖漬けにしたお茶をシェイドは改めて一口飲む。


「うまい。やはり複雑な、……そう大人の味がするのだ」

「……そうか。シェイドは大人だな」

「そうなのだ。ふふん」


 シェイドは自慢げに尻尾を揺らしている。


「じゅ~」「にぃ~」

 そんなシェイドをジュジュと猫は尊敬のまなざしで見つめていた。


 ジュジュと猫を交互に撫でながら、オンディーヌはクッキーをかじる。


「グレン。どうやら悪い奴が本格的に動き出したみたい」

「俺やジュジュ、シェイドに呪いをかけた奴のお仲間か?」

「そう」


 呪いは神の御業。呪いを操るのは神官の類いと考えて間違いない。


「今、ヴィリとシルヴェストルが黒幕を探しているところ」


 呪いを扱っている奴は、呪いで精霊を支配する技術を手に入れたのだ。

 放置すれば被害が拡大しかねない。

 できる限り早くなんとかしたい。


「俺にできることはないのか?」

「待つしかない。そもそもグレンもジュジュも、そしてネコも呪いあけだしまだ休むべき」


 お菓子を食べながらオンディーヌはそう言った。

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