第61話 精霊を洗おう
どうやら、子供とオンディーヌは面識があるらしい。
大賢者ヴィリの秘書役であるオンディーヌと面識があるとは、本当にいいとこのお子さんらしい。
富裕な商家ではなく貴族、それも相当高位の大貴族だろう。
「……久しぶり。怪我は?」
「ありません! 騎士たちとシェイドが助けてくれました!」
子供はシェイドに抱きついて、なで回している。
どうやら護衛は騎士だったらしい。
相当な大貴族だろうという俺の予想は正しかったようだ。
「ん。シェイド。よくやった」
「むふう。今日は我ながらよくやったのだ」
シェイドは自慢げに尻尾を振っていた。
そして、騎士の一人がオンディーヌに深々と頭を下げる。
「オンディーヌさま、危険は去ったのでしょうか?」
「ん。今のところ周囲には敵はいない」
それを聞いて、騎士たちはほっと胸をなで下ろしていた
そんな騎士たちの様子を見てオンディーヌはこちらを見た。
「グレン」
「わかってる。シェイド。その子をご自宅まで送って差しあげて」
「わかったのである」
シェイドが付いていれば、安心である。
オンディーヌが敵はいないと言ったのを聞いた子供が安心した様子で俺のところに駆けてくる。
「グレンさん、ありがとうございました!」
「いえ、巻き込んだみたいで、申し訳ありません」
「いえ! まもってくれてありがとうございます!」
子供は俺にも丁寧に頭を下げてくれた。
騎士たちも俺に頭を下げてくれていた。
「じゅじゅちゃんもだいじょうぶ? けがはない?」
「じゅ!」
「その子もだいじょうぶですか?」
その子というのは、呪いが解けて、元の姿に戻りつつある精霊のことだ。
まだ、意識はないがしっかりと生きている。
「はい。オンディーヌも大丈夫だと言っていますし、きっと大丈夫でしょう」
「そのこは、いたくないかな?」
「いたくないよ」
オンディーヌがそういったので、子供は安心したようだ。
「なでてもいいですか?」
「いいよ。やさしくね」
精霊の代わりにオンディーヌが答える。
「はい!」
子供は俺が両手で持っている精霊を優しく撫でる。
精霊は、少しずつ元の姿に戻りつつあるのだ。
つまり、今は変化の途中である。
呪われた異様な姿から、本来の姿、恐らく毛の生えた四つ足の動物に戻っている途中なのだ。
生の豚の脂身のような肌がじわりと溶けて、中からべったりとした毛が徐々に見え始めた。
その毛は黒く、脂身のようなものに毛が混じった様子は、どこか人の髪の毛を彷彿とさせる。
俺は昔見た腐乱死体を思い出した。
その姿を恐ろしいと感じる者もいるだろう。
子供ならば特にそうだ。
「げんきになってね」
だが、子供は嫌な顔一つしない。
手が汚れるのも気にせず、優しく丁寧に撫でている。
それから、子供は騎士たちとシェイドに守られつつ帰って行った。
「オンディーヌ。この子は小屋に連れて行く予定だが、何かしてあげてやったほうがいいことはあるか?」
「お風呂で洗ってあげて」
「ん? 大丈夫なのか?」
体力が無いのに洗ったら、風邪を引いたり体を壊さないか心配だ。
「それは大丈夫。小屋に着いたら、すぐに人肌より少しぬるいぐらいのお湯で優しく洗ってあげて」
「わかった。オンディーヌが大丈夫というなら、大丈夫なんだろうが……」
「その子の全身を覆うの白いものは、良くないもの。なるべく早くとって上げた方が良い」
その精霊は、呪われた結果として、全身を白い何かに覆われたのだ。
それが良くないものだということは俺にもわかる。
「付いたままだと、回復が遅れる。衛生的にも良くない」
「わかった。なるべく早く綺麗に洗うよ。この子のご飯は?」
「ジュジュと同じでいい。なんでも食べさせてあげて」
「わかった」
「干し肉を茹でてすりつぶしたものじゃない方がいい。ゆで卵とか果物のほうがいい。お菓子でもいい」
それからオンディーヌは、精霊の子を撫でると、生徒を肩に担いでどこかに駆けて行った。
駆け始めたオンディーヌはめちゃくちゃ速い。馬よりも速いかもしれない。
恐らく、ヴィリの元に連れて行くのだろう。
そして、俺はジュジュを抱っこ紐を使って抱っこし、精霊を手で大事に抱えて家へと歩く。
「お菓子はまた今度な」
「じゅ! じゅ~……」
ジュジュはお菓子を楽しみにしていたのに、我が儘を言わない。納得してくれた。
むしろ、シェイドががっかりしないか、心配している。
俺とジュジュは買い食いしたが、シェイドは姿を消していたので買い食いに参加できていないのだ。
「そうだね。シェイドにもお菓子を食べさせてあげたかったね」
「じゅ」
今度、本当にお菓子を買ってあげようと思う。
俺が歩いているあいだ、ジュジュはずっと優しく精霊のことを撫でていた。
小屋に帰ると、まず俺は風呂場に向かう。
呪われていた精霊を洗うためだ。
「ジュジュ。この子を洗ってあげるところを、みててね」
「じゅ~」
俺は風呂の床にジュジュを下ろす。
そして、ぬるま湯を桶にためていく。手を桶に入れて温度を測る。
「このぐらいかな」
「じゅ」
ジュジュも手を入れて温度を測ってくれている。
丁度いい温度だとジュジュも言ってくれたので、安心だ。
「そっと、入れないとびっくりしちゃうからな」
「じゅぅじゅ」
心配そうなジュジュに見守られながら、そぉっとお湯の中に精霊を浸していく。
お湯に浸かっても、まだ精霊は眠ったままだ。
「暴れられなくて楽ではあるが……よほど疲れていたんだなぁ」
「じゅぅ~」
動物をお湯で洗うと暴れたりするものだ。猫とかは特にそうである。
ジュジュとシェイドはお風呂が好きなようだが、この子がどうなのかはわからない。
「寝ている間にきれいにしちゃおう」
「じゅじゅ!」
俺はジュジュに見守られながら、優しく精霊の皮膚を撫でるようにしてこすっていく。
「頑固な汚れだな」
「じゅ」
まるで脂汚れのようだ。
その頑固な汚れを取ることができれば、精霊本来の姿がわかるだろう。
「大賢者石鹸を使うか」
「じゅ!」
俺は大賢者石鹸を使うことにした。
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