第60話 解呪された精霊
俺はシェイドの呪いを斬ったのだから、白い精霊の呪いを斬れるかもしれないではないか。
シェイドも、そう考えて、俺に呪いのことを教えてくれれば良いのにと、一瞬だけ思った。
だが、シェイドの呪いは、特別だった。
シェイドの呪いはジュジュとつながっていたのだ。
そして、そのジュジュの呪いと俺の呪いもつながっていた。
だからこそ、俺は呪いが見ることができただけである。
「まあ、普通は見ることができるとは思わないよな」
周囲には人が居る。
子供やその護衛ならともかく、誰が見ているかわからない。
だから、俺が呪いを斬っていると知られないよう、シェイドとは「呪い」という言葉は出さないで会話をする。
「そうなのである! 我はいま心底驚いているのだ」
見ることができなければ、当然斬ることは不可能なのだ。
シェイドと会話しながら、俺は呪いの鎖を切断し続ける。
シェイドのときと違い、呪いの鎖の数は少なく、伸びてくる速さも遅かった。
だから、余裕を持って斬り続けることができる。
その間も、ジュジュと白い精霊は共鳴するかのように、周期を揃えて鳴いていた。
「……やはりこの共鳴のおかげか?」
「じゅ~じゅ~じゅ~」
「ぎあ~ぐぃあ~ぎぃあ~」
共鳴をし始めてから急に呪いを見ることができるようになった。
相変わらず仕組みはわからない。
あとで、ヴィリやオンディーヌにも聞いてみよう。
そんなことを考えながら、斬り続けていると、呪いの鎖が伸びてこなくなった。
「じゅ……」
「ぎぁ……」
ジュジュと白い精霊の共鳴するかのような鳴き声も収まった。
そして、白い精霊はゆっくりと姿を変えていく。
生の豚の脂身のようだった体表全体が溶けるようにドロドロになっていった。
「シェイド! これは大丈夫なのか?」
「だ――」
「大丈夫。元の姿に戻っているだけ」
シェイドの言葉を途中で遮り、オンディーヌが教えてくれる。
しゃがんでいる俺の真後ろで実体化したらしい。
オンディーヌは俺の背中に胸を押しつける形で、ぺたりとくっつく。
そして、俺の肩越しに白い精霊を見ていた。
「オンディーヌ。みたいなら正面に回ってくれ」
「重い? じゃま?」
「重くはないがな。まあ邪魔と言えば邪魔かもしれん。動きにくいからな」
「そ」
その間にも精霊はゆっくりと姿を変えていく。
いや、ゆっくりと元の姿に戻っていく。
俺はその精霊を抱き上げる。
温かかった。心臓の拍動が手に伝わってくる。
弱いが呼吸もしていた。
「じゅー」
元の姿に戻りつつある精霊を、ジュジュが優しく撫でる。
「グレン。ひとまず保護してあげて。お願い」
「わかった。だが、契約がされたままだとおもうが、大丈夫か?」
どういう手段かわからないが、元生徒はこの精霊と契約をしているのだ。
その精霊を連れ帰って、何か問題は起きないだろうか、心配になったのだ。
「魔力回路とかいうのが、そこの元生徒つながっているんだろう?」
契約すると魔力回路とかいうのが、同一になるらしい。
他人の契約精霊を連れ帰って、なにか不都合はないか心配になったのだ。
「それは大丈夫。……契約はなされていない」
「ん? まさか」
「そう。そのまさか」
周囲に人が居るので、オンディーヌもはっきりとは言わない。
だが、さすがの俺もわかる。
契約ではなく、呪いで精霊を支配していたのだろう。
呪われたジュジュと呪われた俺の魔力回路がつながったように呪いの作用を使ってどうにかしたに違いない。
「なら、そちらの元生徒は任せる」
オンディーヌならば、魔法を使って尋問することもできるだろう。
「うん。任された」
オンディーヌは気絶している元生徒の顔面に魔法で作った水をかける。
顔に水を掛けられ、目を覚ました元生徒をオンディーヌは睨み付けた。
「ヴィリの温情を無にしたな。精霊にこんなことをして、ただで済むと思うな」
「黙れ!」
そう叫びながら、オンディーヌ目がけて魔法を放とうとするが、発動すらしなかった。
呪いを解いたことで、魔力回路が精霊に接続されていない状態になっているからだろう。
「くそが!」
「クソはお前」
喚いている元生徒に俺は尋ねる。
「この子の名前は何だ?」
元生徒は精霊の名を呼んでいない。
名前ではなく、ゴミクズと呼んでいたのだ。
精霊の名前を変えるにしても、元の名前は聞いておきたい。
「名前? 聞いてなかったのか? 耳が悪いんだな、おっさん」
「お前は名前を呼んでいなかったはずだが」
「バカか? そいつの名前はゴミクズだよ」
「……精霊につける名前じゃないな」
俺も名付けのセンスはないが、こいつほどではない。
「ふん! 精霊は人間の奴隷なんだ。名前なんてゴミクズで充分なんだよ!」
「……見下げ果てた奴だな。子供だというのに、どうしてそこまで性根を曲げることができるんだ?」
恵まれた貴族として生まれ、苦労したわけでもない。
そして、王立魔導学院に入れるほどには、才能があったのだ。
どうしてここまでねじ曲がったのか理解できない。
「生まれつきの性格。処置なし」
「だまれ! お前らは――……」
喚きかけた元生徒だが、すぐに気を失った。
「魔法」
オンディーヌがぽつりと言う。恐らく眠らせる魔法だ。
眠りについた生徒を、オンディーヌは肩に担いだ。
「じゃあ、あとで」
そういって歩き出したオンディーヌだったが、
「オンディーヌさま!」
シェイドが保護していた子供に呼び止められた。
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