第59話 白い精霊

 俺はシェイドにお礼を言いながら、元生徒に接近して殴りつける。


「ぐべあぁ」

 元生徒はあっさりと倒れ気を失った。


「……ぎぁ」


 元生徒が気絶すると、白い精霊は小さく鳴いた後、動かなくなった。

 気絶することで、命令が解除されたのか、攻撃がパタリと止まったのだ。

 攻撃したかったわけではないのだろう。


 俺は白い精霊に近づき観察する。

 子供と護衛たちにはシェイドが側について、しっかり守ってくれているから安心だ。

 だから様子のおかしい白い精霊の方を優先することができるのだ。


 白い精霊の様子を見ながら、離れた場所にいる子供と護衛にも声をかける。


「大丈夫ですか?」


 護衛たちは子供を起こして怪我がないか、大急ぎでチェックしているようだった。

 三人の護衛は全員無事のようだ。子供も大きな怪我はないようにみえる。

 子供は、あれほどのことがあったのに、泣くのを我慢して、唇をぎゅっと噛んでいた。


「精霊さんのおかげで無事です。ありがとうございます」


 子供の状態を調べて怪我が無いことを確認した護衛がほっとして教えてくれる。


「それはよかった。シェイド引き続き頼む」

「わかっておるのだ」


 そういって、シェイドは子供の顔をベロベロなめていた。

 シェイドなりに元気づけようとしているのだろう。


 気絶している元生徒に注意を払うのも忘れない。

 元生徒は、顔の骨が折れ、歯が数本折れている。しばらくは動けまい。

 元生徒のことを縛りたいところではあるが、精霊の保護の方が大切だ。


 白い精霊には触れずに、優しく呼びかけた。


「大丈夫か? 痛いところはないか?」

「ぎぎ」


 俺の呼びかけは聞こえているはずだが動かない。

 だが、白い精霊はとても辛そうだ。


「じゅ~じゅ」


 ジュジュも助けてあげてと言っている。

 だが、助けるためには生徒と白い精霊の契約を解除しなければならないだろう。

 その場合、魔法的にいろいろな儀式が必要なはずだ。

 そして、俺には魔法の知識がない。


「シェイド。契約解除させることってできるか?」

「精霊と契約者の双方が望めば可能である」


 子供の顔を舐めていたシェイドは、今は子供に抱きつかれて、なで回されていた。

 先ほどびっくりして泣きそうだった子供も、今は大分元気になっている。

 今のシェイドは大型犬ぐらいの可愛い竜だ。

 そんなジェイドに抱きついた子供が元気になるのは当然かも知れない。


「精霊だけの意志では難しいか?」

「我ぐらい強い精霊なら可能ではあるのだが……」


 精霊王クラスならばともかく、一般的な精霊が一方的に契約破棄するのは難しいということだろう。

 俺との会話で子供にシェイドと言う名前がばれたようだ。

 子供は「しぇいどっていうの? はなせるんだ! えらいね!」と言いながらなで回していた。

 シェイドの特殊な精霊っぷりがばれてしまっているが、非常事態だったのだし、まあいいだろう。


「なにか方法はないのか?」

「ないことはないが、大変であるぞ? 魔法陣を描き、触媒を用意し、時間をかけて儀式を行なう必要があるのだ」

「ふーむ」


 その場合、ヴィリに頼んでなんとかして貰うしかないだろう。

 魔法陣に関しては、ヴィリほど詳しい者はいない。

 きっとヴィリの方が精霊王たちより、そういう知識は上に違いない。


「……ぎ……ぎあ」


 白い精霊はまったく動かない。

 もしかしたら、動けないのではないだろうか。


「触るぞ、危害は加えないから安心して欲しい」

「……ぎ」


 俺は白い精霊に触れてみる。

 白い精霊は俺に触れられても暴れないどころか、ピクリともしない。

 吐息のなかに、小さな声が混じる程度。

 そのぐらい、かすかなうめき声をあげるだけだ。


「ふむ……痛いところはないか?」


 白い精霊の肌は、生の豚の脂身に似た感触だった。

 怪我はないようにみえる。


 俺は白い精霊に触るために屈んでいる。

 すると、俺の胸あたりで抱っこされているジュジュも白い精霊に近づく形になる。


「じゅ~じゅ」


 心配そうなジュジュは労るような声を出しながら、白い精霊を優しく撫でる。

 ジュジュに撫でられても白い精霊は動かない。


「ぎぃぃぃぃいああぁぁぁ」


 だが、まるでジュジュに助けを求めるかのように、白い精霊は大きめの声で鳴いた。


「じゅ! じゅ! じゅ!」

「ぎあ! ぐぃあ! ぎぃあ!」


 白い精霊に励ますようにジュジュも鳴く。

 ジュジュと白い精霊は、まるで共鳴するかのように、周期を揃えて鳴きながら、声を大きくしていく。


「……む?」


 その間、俺は白い精霊の様子を観察していたのだが、嫌な気配を感じた。

 嫌な気配は、白い精霊を覆っている。

 ジュジュと白い精霊の鳴き声に合わせて、その嫌なものが蠢いているようだ。

 それは呪われていた時のシェイドを取り巻いていた鎖の気配によく似ていた。


 もしかしたら、この精霊は呪われているのではないだろうか。

 そう考えて改めて観察する。

 意識したからか、ジュジュと共鳴しているからか、白い精霊の周囲を取り巻く嫌な鎖が見えるようになった。


「少し待て」


 俺は白い精霊を地面に置くと、剣を振るってその鎖を切断した。

 シェイドの鎖よりも脆い鎖だ。あっさりと切断できた。

 そして、シェイドの時と同様に、斬った後、鎖は再び伸びてくる。

 それも斬り続ける。


「まさか、グレンさまには、それが見えているのか?」

「見えているぞ、というか、シェイドも見えてたのか?」

「うむ。我は見る、というか感じることができるのである」


 精霊王は呪いを感知することができるらしい。

 オンディーヌもジュジュが呪われていることに一目で気づいたぐらいだ。


「なら、早く教えてくれよ」

「もちろん、落ち着いたら教えるつもりだったのだ。それに今すぐ教えたところで何も出来ないとおもったのだ」


 シェイドは子供を守るために警戒するのに忙しい。

 俺自身も元生徒と周囲を警戒しながら、精霊の暴走に備えたりする必要がある。

 だから、今すぐに役立たない情報を教えても仕方ない。そう考えたらしかった。

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