第56話 散歩

 朝ご飯の途中、オンディーヌに尋ねられた。


「グレン。今日はどうするの?」

「んー。とりあえず、体がなまらないように訓練でもするかなー」

「激しい運動はやめた方が良い。まだ呪い明け」

「そんなものか」

「そう」

「精霊王の我はもう全快で、疲れも残っていないのであるが、グレンさまは人ゆえ、しばらくゆっくりした方がよかろう!」


 そういいながら、シェイドはバクバクと、オンディーヌが持ってきてくれたパンを食べていた。


 激しい運動を止められた俺は今日ものんびり過ごすことにした。


「ジュジュ、散歩にでも出かけるか」

「じゅ?」


 ゆっくり街の様子をジュジュに見せてあげたいと思ったのだ。


「それは名案なのである! 我もついて行くのだ」

「シェイドは目立つから、姿を消して付いてきてくれ」

「わかったのである」


 俺は抱っこひもを使って、ジュジュを体の前で抱っこすると、腰に剣を差す。

 散歩の途中でお腹が空いたときのために、果物を鞄に入れておく。


 そうしてから、小屋の外へと歩いて行った。

 シェイドはすぅっと姿を消す。


「なぜかわからんが、姿を消したシェイドがどこに居るかはっきりわかるんだが、どうしてだ?」

 そう、俺がオンディーヌに尋ねた。


「シェイドがグレンの契約精霊だから」

 オンディーヌは当たり前のように言った。


「え? 契約したつもりは無いんだが」

「グレンがシェイドに名前を付けた。だから」

「名前を付けただけで? それだけで契約完了なんて聞いたこと無いんだが」


 俺は精霊と契約したことはないが、精霊契約の儀式を見たことはある。

 複雑な魔法陣を描き、呪文を唱えたりしていた。


「普通はそんなことないけど、グレンは特別。シェイドも特別」

「そうだったのか」


 そんな話をしている間、シェイドは姿を消したままだ。


「一応言っておくけど、ジュジュとの契約も済んでいる」

「え?」「じゅ?」

「そういうもの」

「そういうものなのか」「じゅ~う」

「そ」


 オンディーヌがそう言うなら、そうなのだろう。

 俺と一緒に驚いていたジュジュも納得したようだ。

 機嫌良く尻尾を振っている。


 その後、オンディーヌは、散歩に同行せずに帰っていった。

 ヴィリの右腕であるオンディーヌには、沢山の仕事があるのだろう。



 そして、シェイドは近くにはいるが、ずっと姿を消したままである。


「シェイド。俺と契約していたのか?」


 返事はない。


「別に怒ってないぞ?」

「…………そうなのか?」


 シェイドは、すっと姿を現した。

 出現したが、まだ頭辺りが闇に包まれている。

 頭隠して尻隠さずと言う言葉を思い出した。


「本当に怒ってないから、隠れなくて良いぞ」

「う、うむ」


 シェイドの頭を包んでいた闇が消える。

 やはり怒られると思って隠れていたらしい。


「説明不足は否めないが、契約が必要だったんだろう?」

「そうなのである! ジュジュさまのためにもなることであったしな!」

「そっか。改めてよろしく」

「よろしくである!」


 俺は屈んで、元気に尻尾をふるシェイドの頭を撫でた。


「じゅ!」

 ジュジュも俺のまねをして、シェイドの頭を撫でる。


「なんと、ジュジュさま。光栄なのである」

 シェイドは感動しているようだ。



 その後、シェイドは再び消えて、俺はジュジュを抱っこして街へと出かける。


「今日は治安のよいところに行こうな」

「じゅ~」


 ジュジュはキョロキョロ周囲を見回している。

 好奇心が刺激されるのだろう。


 前回、街に出かけたときはチンピラに絡まれてしまった。

 今日は、悪い人間になるべく会いたくないものだ。


 俺はまっすぐに近くの公園へと向かった。

 王都の中でも、学園のある地域は、それなりに豊かな者が住んでいる場所である。

 その近くにある公園も、基本的に治安が良い。

 それなりに広くて、遊歩道があり、貴族や富裕な商家の親子連れが遊んでいたりする。


「ジュジュ、ここは公園だよ。」

「じゅ~じゅ!」


 ジュジュは公園にいる鳥をみて、楽しそうに尻尾を振っていた。

 すると、遊んでいた五歳ぐらいの子供がジュジュに興味を示したらしく、駆け寄ってくる。

 その後ろには護衛らしき男が三人ほどぴたりと付いているので、余ほどいいところのお子さんなのだろう。


「そのこなに?」

「この子は精霊の赤ちゃんだよ」

「せいれー! すごい! おなまえはなんですか!」

「ジュジュだよ」

「じゅじゅちゃん!」


 子供は精霊と聞いて、目を輝かせている。


「……じゅう」


 ジュジュは人見知りして、俺の胸に顔をおしつけている。

 だが、怖いわけではないようだ。

 子供相手だから、あまり怖くはないのかもしれない。


「なでていーですか!」

「ジュジュ、どうかな?」

「じゅ」

「撫でていいよ」


 ジュジュが撫でられてもいいというので、俺は子供の目線までしゃがむ。

 すると、俺に抱っこされたジュジュも子供の手に届くようになる。


「じゅじゅちゃん、いいこいいこ」

「じぅ」


 ジュジュは少し緊張しつつも、大人しく撫でられていた。

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