第57話 嫌な再会

 しばらく撫でた後、子供は去っていく。


「あいあとー! じゅじゅちゃん、またねー」

「じゅぅ~」


 手を振る子供に、ジュジュも小さな手を振りかえしていた。


「ジュジュ。怖い人ばかりじゃないんだよ」

「じゅ」


 ジュジュは、召喚されてからの短期間に悪い人に会いすぎた。

 そんな人ばかりじゃないと知って欲しかった。


「……とはいえ、まあ、怖い人も悪い人もいるから気をつけないといけないが」

「じゅ」

「それはもう、ジュジュは知っているよな」

「じゅぅ~」


 ジュジュはうんうんと頷いていた。


 しばらく公園を歩き回った後、ベンチに座って果物をジュジュに食べさせる。

 朝ご飯をしっかり食べたのに、ジュジュは果物をしっかり食べてくれた。

 沢山食べてくれるのはとても良い傾向だと思う。


「じゅ」

「ん? くれるのか」

「じゅう!」


 朝ご飯をしっかり食べたので、俺はあまりお腹は空いていない。

 だが、ジュジュは一緒に食べたいらしく、俺にも果物を食べさせようとしてくれる。


「ありがとう、おいしいよ」

「じゅっじゅ!」


 俺が食べると、ジュジュはとても嬉しそうにするのだった。


「何かお菓子でも買って帰ろうか」

「じゅ~」


 おやつを食べたばかりだが、お菓子と聞いてジュジュは尻尾を振った。


「お茶にあうお菓子が良いな」

「じゅ」


 今日はゆっくりする日なのだ。

 帰ったら、お茶を飲んでお菓子を食べてのんびりしたい。

 小屋の中ならば、シェイドも一緒にお菓子を食べることができるだろう。


「ジュジュはどんなのが食べたい?」

「じゅ~?」

「そっか、甘いのが好きなのか」

「じゅ?」

「俺も甘いのは好きだよ。そうだなぁ。日持ちするお菓子がいいよな」


 どんなお菓子を買うかジュジュと相談しながら歩いていると、突然殺気を感じた。

 同時に、シェイドの気配が濃くなった。

 少し遅れて魔力が膨れ上がる気配を察知する。


 咄嗟に、俺は後ろに飛び退く。

 今いた場所に氷の槍が突き刺さった。

 シェイドは気配を濃くすることで、俺に危機を教えてくれたらしい。


「危ないな。平和な公園だというのに。……しなくていい」


 シェイドが実体化しようとするので、止めておく。

 敵はシェイドがいることを知らないはずだ。

 ならば、それは俺たちにとって大きな優位な点である。

 だから敵にばれないように、シェイドという名は出さなかった。

 それでも、シェイドは俺の意図を察してくれたようで、顕現するのをやめてくれた。


 シェイドには敵が逃亡しようとしたときに、襲いかかって捕まえほしい。

 もしくは、俺とジュジュがピンチになったときに、敵に奇襲を仕掛けてほしい。

 だが、そこまで俺の意図を汲むのは難しかろう。


 とりあえずは、俺の力で敵と対峙するしかない。

 俺は、敵の気配を感じたところにむかって、声を掛ける。


「そろそろ姿を見せろ。奇襲は失敗したんだ。隠れている意味もないだろう?」


 奇襲を成功させる最大の好機は、敵に気づかれていない一番最初である。

 それが失敗した以上、逃亡するか、奇襲を諦めて攻撃を開始するのが正解だ。

 いや、正面から戦えば、反撃を食らう可能性があると考えるから奇襲を仕掛けるのだ。

 最初の奇襲に失敗した以上、逃亡が唯一の正解かも知れない。


「良く避けたなぁ。おっさん。運が良すぎるだろ」


 だが、敵は姿を現した。

 距離は五十歩ほど離れている。一足飛びで斬りかかるには少し遠すぎる。


 敵は、どういう仕組みかわからないが、魔法を使って姿を消していたらしい。

 姿を消す魔法について、あとでヴィリに聞いてみよう。


「ジュ!」

「お前か。随分と魔法が上手くなったな」


 それは、ジュジュを召喚し、いじめた生徒だった。

 三人の生徒の中でも、ジュジュの召喚主、つまり主犯の生徒である。


 ジュジュは少し怯えたように顔を俺の胸にくっつける。

 そんなジュジュを落ち着かせるために頭を撫でた。


「お前、どうやって精霊と契約したんだ?」


 先ほどの魔法は、威力は極めて高く、尋常ではなく速かった。

 未契約魔導師の扱う魔法の域ではない。

 明らかに精霊と契約している。


 オンディーヌからは、元生徒たちを精霊と契約出来ない体にしたと聞いている。

 オンディーヌやヴィリが失敗したとも考えにくい。

 だが、実際に元生徒は契約している。


「どうやって? お前のようなバカには思いつかない方法で、だよ!」


 声変わり前の、女の子のような声で元生徒は言う。

 どうやら勝ちを確信しているようだ。

 俺とジュジュを殺せると信じ切っているらしい。


「おい! 出てこい、ゴミクズ」

「……ぎぁ」


 元生徒が呼びかけると、その足元に白い精霊が現われる。

 サラマンディルたちのように、姿を隠していたわけではない。

 物陰に隠れていただけだ。


 大きさは、中型犬程度。小屋の中にいるときのシェイドよりは小さい。


 契約精霊をゴミクズと呼ぶとは、元生徒は相変わらずカスらしい。

 ヴィリの温情のある裁定は無駄だったようだ。


「その子がお前の契約精霊か」


 四つ足の動物らしいが、なんの動物かはわからない。

 犬のようにも、猫のようにも、猿のようにすらみえる。


 そして、姿は違うのに、呪われていたときのシェイドの眷属に雰囲気が似ていると感じた。

 理由はわからない。どこが似ているのか、問われても答えられない。

 だが、雰囲気が似ていると感じたのだ。


 同時に、シェイドの眷属ではないということも、はっきりと確信できた。

 確信できた理由は、きっと俺とシェイドの間に契約がなされているからだろう。

 理屈はわからないが、きっとそうに違いない。

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