第52話 学院の風呂

 俺はヴィリとオンディーヌ、ジュジュ、シェイドと一緒にお昼ご飯を食べた。

 ヴィリが持ってきたお昼ご飯は学院のシェフが作ったものだ。

 俺たち向けには美味しいビーフシチューや温かいパンが用意されていた。

 ジュジュに用意されたのはミルクがゆとゆで卵、それに果物の盛り合わせである。

 ちなみにシェイドは俺たちと同じものを食べるようだ。


「付いてこなくていいっていったのに」

「そうはいっても、ジュジュの様子も気になるしさ」


 オンディーヌは少し不満げだが、ヴィリは全く気にしていないようだ。


 ご飯を食べ終わると、ヴィリが言う。


「さて、ゆっくりする日だからね。ゆっくりしに行こうか」

「それはいいが、どこに行くんだ?」

「学院の風呂だよ」


 そういって、ヴィリはどや顔をしていた。


 学院の風呂とは初耳である。

 いや、当然のように、学院にも風呂はあるだろう。


 ヴィリの起こした魔法革命による技術水準の向上で、風呂は一気に普及したのだ。

 十年前には貴族の屋敷ぐらいにしか無かった風呂も、今では俺の小屋にもあるぐらいである。

 ヴィリの部屋にはそれはもう立派な風呂があるのだろう。


「学院の風呂って、ヴィリの部屋の風呂か?」

「そうじゃないよ。まあ、見てくれた方が早いかな。付いてきて」

「まあ、わかった。オンディーヌ、ジュジュは風呂に入れて大丈夫か?」

「大丈夫。でも、その前に魔力をあげる」


 オンディーヌが大丈夫と言うなら、ジュジュは風呂に入っても大丈夫なのだろう。

 魔力を貰っている間、ジュジュは俺に抱っこされたまま気持ち良さそうにしていた。

 そして、ジュジュを通じて俺にも魔力が流れてくる。


「あれ? そういえば、呪いは解けたのに、俺にも魔力が流れ込んでくるんだな」


 呪いの何かによって、魔力的につながっているとか、そんなことを聞いた気がする。


「そういうもの」

「そうか、そういうものだったのか」


 よくわからないが、そういうことらしい。


 ジュジュがオンディーヌから魔力を貰い終わると、ヴィリの案内で風呂へと向かう。

 どうやら「学院の風呂」とやらは、学院の端、俺の小屋からそう遠くない場所にあるようだった。

 遠くないとはいえ、歩けるようになったばかりのジュジュを歩かせるには遠い。

 だから俺が抱っこして向かう。


「はい、到着。これからはグレンもいつでも来て良いよ」

「この建物は知っていたが、ここに風呂があるのか?」

「そうだよ」

「へー」


 俺も学院の全ての建物の中に入ったことがあるわけでは無いのだ。

 その建物のドアを開けると、あたたかい湿気が流れてきた。


「ほほう?」

「まあ、じっくり見てみてよ。ちゃんとした浴場になっているから」


 ヴィリに促されて中に入る。

 脱衣所があって、更に進んで浴場にはいると俺の小屋ぐらい広い湯船と、洗い場になっている。


「立派なお風呂だな。ここは何のための施設なんだ?」

「私たちの遊び場」

「私たちって、オンディーヌたちか?」

「そう。あとサラマンディルとシルヴェストル。それにグノームも」


 サラマンディルは炎の、シルヴェストルは風の、そしてグノームは地の精霊王である。

 その四大精霊の王たちは、四柱ともヴィリの契約精霊なのだ。


「私が水をだして、サラマンディルが温めた」

「シルヴェストルとグノームは?」

「風を吹かせたりする。今日はやってないけどグノームはお湯のあるところを土でいっぱいにしたりする」

「へー」

「精霊王が魔力を発散するのは危険。だからこういう場所がいる」


 そういうとオンディーヌは、シェイドをじろりと見た。

 昨日、シェイドは魔力を垂れ流したのだ。

 オンディーヌに睨まれたシェイドはそっと目をそらしていた。


「この風呂場というか、施設は壁も天井も床も、魔力的に頑強なんだよ」


 そういいながら、ヴィリは右手を掲げて、指先から小さな魔力の玉を壁に向かって飛ばした。


 ――ドォォォン


 小さな魔力の玉が壁に当たった瞬間、大きな音が響き、空気が震えた。

 小さいというのに、密度が尋常ではない。

 それに射出速度も異常だ。音の速度を超えていた。


「ね?」

「ぎゅっぎゅ!」


 ジュジュは大喜びで


「いや、ね? じゃないだろ。大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。みて」


 ヴィリは魔力の玉が当たった場所まで移動して、指さす。


「傷一つ無いな」

「僕の軽い攻撃ぐらいで傷ついてたら、精霊王の遊び場にはならないからね」


 とても軽い攻撃には見えなかった。


「大変なんだなぁ。精霊王は魔力を発散しないと、体に良くないのか?」

「そんなことはない。だけど、楽しい」

「なるほど」


 精霊は、精神的な存在なので、ストレスの発散も大切に違いない。


「こっちの湯船は泥のお湯。肌に良い」

「ほほう。泥のお湯か。珍しいな」

「ジュジュが入ると聞いて、グノームが張り切った」

「グノームが? ありがとうと伝えてくれ」

「気にしなくて良い」


 お湯の中から声がした。

 泥のお湯が盛り上がり、人の形を取る。

 まるで、泥人間だ。

 当然、魔物などではなく、土の精霊王、グノームである。

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