第二章
第48話 おや……ジュジュの様子が……
闇の精霊王シェイドにかかっていた呪いを解いた日の夜。
俺はジュジュと一緒に、自分の小屋のベッドで横になっていた。
「じゅ……ゅ……」
ジュジュはすやすやと寝息を立てている。
呪いが解けたおかげか、ジュジュはこれまでになく安らかだ。
「お疲れさま」
俺は眠るジュジュの背中を撫でる。
赤ちゃんだというのに呪われて、今まで散々痛くて苦しい目にあったのだ。
ジュジュはもっと幸せになるべきである。
「じゅみゅ」
眠ったまま口をもぐもぐさせている。何かを食べる夢でも見ているのかもしれない。
ジュジュの眠る場所は、いつものように俺のお腹の上である。
呪いが解けたおかげで俺から離れても良くなった。
それでも、赤ちゃんだから甘えたいのだろう。
「すぴー」
そして、闇の精霊王シェイドは大型犬ぐらいの大きさの黒い竜の姿になって、俺の足元で眠っていた。
シェイドは姿を消すことができる。
姿を消していた方がなにかと便利だと思うのだが、なるべく実体化していたいらしい。
「……精霊王とは思えぬ寝姿だな」
俺の足元で仰向けになり、へそを天井に向ける体勢で、よだれを垂らしていた。
もっとも、竜であるシェイドにはへそなどないのだが。
そんなことを考えていると、シェイドは俺の足を口に咥えた。
「にゅむ……」
「やめなさい」
足を舐められるとくすぐったいのでやめて欲しい。
シェイドはお腹でも空いているのだろうか。
俺はシェイドから、足を少し離すと眠りについた。
………………
…………
……
「おや?」
俺は違和感を覚えて目を覚ました。
「じ、じ、じ、じ、じゅ――じゅ、じ、じ、じ――」
ジュジュが小さな声で鳴きながら、ぷるぷる震えている。
「だ、大丈夫か?」
「じ、じ、じ、じゅぅ」
声を掛けてみたが、ジュジュは眠ったままだ。
ぷるぷる震えているから驚いたが、声も表情も別に苦しそうじゃない。
マッサージされているかのような感じだ。
「……どうしたのだ?」
俺の声で、シェイドも目を覚ましたようだ。
お腹を天井に向けたまま、俺の方に顔だけ向ける。
「ジュジュの様子がおかしくてな。なんかプルプルしているんだ」
「ふむ?」
シェイドは体を起こして、こちらにくるとジュジュの様子をみてくれる。
「苦しそうでもないし問題は無いと思うが……」
「じゃあ、なんでプルプルしているんだ?」
「わからぬ。……いや、少し魔力が不足しているかもしれん。だが魔力不足でプルプルすることはないが」
シェイドにもわからないらしい。
「魔力不足というのもおかしな話だな。寝る前にオンディーヌが魔力を分けてくれただろう?」
俺、ジュジュ、シェイドの呪いが解けたお祝いを兼ねて、みんなで美味しい夜ご飯を食べたのだ。
ヴィリが用意した学園のシェフに作って貰った料理は、とても美味しかった。
ジュジュも上機嫌でパクパク食べていたのだ。
そして、夕食会がお開きになり、帰る前にオンディーヌが魔力を分けてくれたのだった。
「ふむう。普通はこんな短期間に不足することはないのであるが……。ジュジュさまは精霊の上王。何かあるのかも知れぬが……」
「まずくはないのか?」
「まずくはないだろう。苦しみ始めたらやばいが……」
「じ、じ、じ――」
ジュジュは相変わらず眠ったまま、気持ちよさそうにプルプルしていた。
「念のために我からもジュジュさまに魔力を与えておこう」
「おお、頼む」
「うむ」
どや顔で尻尾を揺らすと、シェイドは寝ているジュジュに魔力を分ける。
シェイドは頼りなさそうにみえるが、オンディーヌたちと同じ精霊王。
魔力は無尽蔵にあるのだ。
赤ちゃんだから魔力が少ないジュジュも成長すれば、オンディーヌたちより強くなるに違いない。
「では行くのである」
シェイドはぷるぷるしているジュジュに手を触れると、魔力を流し始める。
すると、ジュジュに魔力が流れこみ、そして俺にも流れ込んできた。
しばらくシェイドが魔力を与えると、
「じ、じ、じ、じ……」
ジュジュのプルプルが治まっていく。
「これでよいであろう」
「魔力不足になるとプルプルするのか?」
「そんなことは聞いたことがないが……精霊の上王であるからな。並の精霊とは違ってもおかしくないのである」
「そんなものか」
「じゅぅ~ぴ」
ジュジュはよだれを垂らしながら、気持ちよさそうに熟睡していた。
大丈夫そうなので良かった。
「いつもなら、お腹が空いたと泣き始める頃なんだが」
ジュジュは赤ちゃんなので、夜に数回お腹が空いたと鳴くのだ。
「ジュジュさまの今日の眠りが深いのだなぁ。お疲れなのやもしれぬな」
そういいながら、シェイドは眠そうにあくびをした。
シェイドのいうとおり、昨日は色々あった。
疲れているのは当たり前である。
「そうだな。お腹が空いたら起きるだろうし」
わざわざ起こしてご飯をあげることもない。
横を見るとシェイドはもう眠っていた。
シェイドも疲れていたのだろう。
お腹を天井に向ける、少し間の抜けた姿なのは相変わらずだが。
そんなシェイドのことも少し撫でて、俺は再び眠りについたのだった。
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