第47話 呪いの神と精霊の守護者
学院についてから、しばらくオンディーヌはシェイドに説教していた。
宙返りしたことがまずかったとシェイドも思っているので、大人しく説教されている。
「この短時間で二回。精霊王とも思えぬ思慮の浅はかさ」
「す、すまぬ」
シェイドは本当に反省しているようだ。
「まあまあ、シェイドも反省しているようだし、そのぐらいで」
「グレンさま!」
シェイドは救いを求める目でこっちを見ていた。
「グレンは甘い。こいつはまたやる。二度あることは三度ある」
「気を付けるのである」
「じゅっじゅ~」
ジュジュは凄く機嫌がいい。
興奮気味に尻尾をぶんぶん振っている。
「まあ、宙返り自体は危険だが、結果的にジュジュが喜んでいるからな」
「じゅっじゅ!」
ジュジュはオンディーヌに、シェイドを許してあげてと言っているようだ。
「ジュジュさま……! 許していただけるとは、なんというお優しさ……」
シェイドはジュジュを感動した様子で見つめている。
そんなシェイドとジュジュを見て、オンディーヌはため息をついた。
「ジュジュがそういうなら……。だが、三度目はないと思え」
「わ、わかっておるのだ」
説教が終わると、オンディーヌはシェイドのことを飛竜の厩務員長に紹介する。
普段、シェイドは姿を消して、ジュジュの傍に控えるようだ。
だが、姿を現して本来の大きさで寛ぐならば、飛竜の竜舎が最適だ。
「厩務員長、よろしく頼む」
シェイドに頭を下げられて、厩務員長は困惑していた。
気持ちはわかる。シェイドはこれでも偉大な精霊王なのだ。
「精霊王さまのお世話などしたことがなく」
「飛竜と同じでいい。餌も同じでいい」
オンディーヌにそう言われても、厩務員長としては気を遣うのだろう。
「うむ。オンディーヌのいうとおりであるぞ。気を遣わないで欲しいのだ」
「わかりました。そういうことでしたら……」
その後、シェイドは飛竜たちに挨拶してから姿を消した。
実体化せずについて来るつもりらしい。
そして、俺たちは俺の小屋へと戻る。
オンディーヌは当然と言った様子で、リルも「学院長は恐らくグレンさんの家にいらっしゃると思いますわ!」と言ってついて来た。
体の大きいフェリルを外に待たせて、小屋の中に入ると、当たり前のようにヴィリがいた。
「みんな、おかえり。まさか闇の精霊王の呪いを解けるなんてね!」
どうやら、ヴィリは何が起こったのか知っているらしい。
風の精霊王である、シルヴェストルから報告を聞いたのだろう。
「ただいま。報告の手間が省けて助かるよ。シルヴェストルもありがとう」
お礼の返事の風が吹く。
それから一応起こったことを説明する。
呪いを斬れたことを話しても、特にヴィリは驚いてはいなかった。
そして、シェイドに大型犬ぐらいの大きさで出現してもらって、ヴィリたちに挨拶してもらった。
挨拶が終わると、シェイドはまた姿を消そうとする。
「外なら目立つけど、小屋の中なら別に実体化していてもいいと思うが」
「まことか?」
「ああ、そのほうがジュジュも喜ぶだろうし」
「じゅ!」
「お言葉に甘えるのである」
シェイドは嬉しそうに尻尾を揺らしている。
「じゅ!」
「ん? シェイドに乗りたいのか?」
「じゅ~」
「いつでも乗って欲しいのである!」
どうやら、ジュジュはシェイドの背中に乗るのを気に入ったらしい。
きっと宙返りが楽しかったのだろう。
呪われていた時は、俺とずっと密着している必要があった。
だが、いまは一応解呪されているので、離れても大丈夫なのだ。
俺はジュジュをシェイドの背中に乗せた。
「はしゃぐな」
それをみてオンディーヌがくぎを刺す。
「わかっておる!」
「じゅっじゅ!」
シェイドはジュジュを背中に乗せて、狭い小屋の中をゆっくりと歩いていた。
それを見ながら、ヴィリがいう。
「大体はオンディーヌとシェイドさんから聞いていると思うけど……」
「そうだな」
ダンジョンの中に、呪われている精霊王がいることはヴィリたちは知っていたようだった。
「グレンの足を呪ったやつと、シェイドを呪ったやつは同族だって聞いたよね?」
「それもオンディーヌから聞いたかな」
「呪いは神の奇跡というのも知っているよね?」
「ああ、そうだな。治癒魔法と同種なんだったな」
「だから同族というより、同じ神の信者と言った方が正確かもしれない。精霊を駆逐しようとする神がいるんだよね」
そんな神がいるとは知らなかった。
聞いたこともない。
「人にはほとんど知られていない。神といっても何の神かもわかっていない」
だが、呪いを振りまいているらしい。
その神が悪神なのか、善神なのかもわからない。
「だが、ジュジュを殺そうとしたのは間違いないよな」
「そうだね」
「ならば敵だな」
「そう言ってくれると思っていたよ。そこでグレンに頼みがある」
「なんだ?」
「呪いをうけて苦しんでいる精霊は他にもいるんだ。その精霊たちを救ってほしい」
「わかった。引き受けよう」
俺がそういうとヴィリは嬉しそうに微笑んだ。
「リルさんとフェリルさんにも、グレンのお手伝いをお願いしたいんだ」
「はい、喜んで手伝わせていただきますわ!」
「がおぅ」
小屋の外から、フェリルの鳴き声が小さく聞こえた。
ありがたいことに、フェリルも手伝ってくれるようだ。
「心強いかぎりだよ」
「じゅぅ!」
ふと、部屋の端を見ると、シェイドに乗ったジュジュがご機嫌に鳴いていたのだった。
※ここで一章が終わりです
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