第49話 ジュジュの変化
次の日の朝。
「ぎゅっぷい! じゅじゅじゅ! じゅっぷい!」
俺は元気にはしゃぐジュジュに起こされた。
ジュジュは俺の顔に乗っている。
「ジュジュ、元気だなあ。お腹が空いたのか」
「じゅ~」
ジュジュは俺が起きたことに満足したようだ。
「ん? どうした?」
だが、ジュジュは顔からどこうとしない。
それに、いつものように、尻尾を元気に振っているわけでもない。
いつもならば、尻尾をびゅんびゅん振って喜びを表現するのだがそれもない。
「じゅ」
ジュジュは、声を潜めて顔を自分の尻尾の方へと向ける。
「もぎゅ……もぎゅ」
そこにはジュジュの尻尾を咥えているシェイドがいた。
「……シェイド、お前」
シェイドはジュジュの尻尾を口に入れて、ちゅぱちゅぱ吸っていた。
お腹を天井に向けているのも相変わらずである。
「じゅぅ~」
ジュジュはシェイドを起こさないようにするためか、声を落としている。
だが、先ほど俺を起こすとき、かなり騒いでいた。
あれで、起きないなら、少々騒いでも起きないと思う。
「じゃあ、ジュジュとシェイドはベッドで待っていてくれ。ご飯作ってくるよ」
「じゅ!」
俺は自分の上からジュジュをそっと下ろして立ち上がる。
ジュジュは自分の尻尾を咥えているシェイドのことを撫でてあげていた。
赤ちゃんだというのに、ジュジュは面倒見が良い性格のかも知れない。
「む?」
「じ?」
立ち上がって離れたことで、ジュジュの全身が見えた。
昨日寝る前と様子が違う。
「もしかしてジュジュ、手足伸びたか? それだけじゃなく、尻尾も長くなってないか?」
「じゅ?」
ジュジュには自覚はないらしい。
「ちょっと見せてみなさい」
「じゅうぅ~」
ジュジュは、そんなことよりお腹が空いたと言っている。
昨夜はお腹も空いたと夜泣きもせずに、ぐっすり眠っていた。
だから、いつもとは違い、夜にご飯を食べていないのだ。
お腹が空くのも当然である。
「ちょっとだけだからな」
「じゅ」
俺はジュジュの手足を調べる。
昨日より明らかに太くて長くなっていた。
それに、背中の羽らしき小さな突起も明らかに大きくなっている。
小さな突起だったものが、今は小さな羽にみえる。
シェイドが咥えている尻尾も見る。
確かに太く長くなっていた。
「ふむ。おそらく良い兆候だよな」
呪いのせいで体が変なことになっていたのだ。
解呪されたのだから、これから徐々に健康体になっていくに違いない。
「詳しいことは……」
精霊王たちに聞こうと思ったが、
「もにゅ、……もにゅ」
闇の精霊王は寝ぼけたままジュジュの尻尾をしゃぶっていた。
「……詳しいことはオンディーヌに聞いてみるか」
「じゅっじゅっ!」
「ああ、すまない。すぐにご飯の用意をしよう」
俺は果物を切って、卵を茹でる。
窓から外を見ると、太陽は昇り始めたばかりだ。
「……夜明けからそんなに時間がたってなかったんだな」
まだ学院のほとんど、いや王都のほとんどが眠りについている時間帯だ。
シェイドが熟睡しているのも当然かも知れない。
「昨日夜泣きしなかったから、お腹が空いて起きたのかもな」
ゆで卵ができるまで少しかかるので、切った果物をもってジュジュの元に戻る。
「ジュジュご飯だよー」
「じゅ~」
ジュジュは果物をパクパクと食べる。
いつもより食べっぷりがいい。
夜泣きをしなかったからだけでなく、手足が伸びて成長したから、お腹が空いているのかも知れない。
「じゅ!」
「追加もすぐ持ってくるよ」
いつもの一食分を食べても、ジュジュはまだお腹が空いているらしい。
俺が新しい果物を切っていると、小屋の扉が開かれた。
「あ、起きてた。おはよう」
「おはよう。オンディーヌ。ジュジュがお腹が空いたみたいなんだ」
「じゅ!」
「うん。ジュジュのご飯も持ってきた」
「じゅ~ぅ」
ジュジュはオンディーヌのくれるご飯が大好きなのだ。
嬉しそうに尻尾を勢いよく振った。
「ぶぼっぶぼっ、はっ! 朝か」
尻尾を口に咥えていたシェイドもそれによって目を覚ます。
「シェイド」
「な、なんだ?」
「ジュジュの尻尾を咥えて、眠りこけるなど。なんという醜態。緊張感を持て」
「す、すまぬ」
シェイドはしょんぼりしている。
「まあまあ、シェイドも疲れていたんだろうし。それよりオンディーヌ、ジュジュの手足と尻尾が伸びたと思わないか?」
俺はゆで卵の皮をむきながら、シェイドがこれ以上叱られないように話を変える。
「うん、伸びて太くなった。いいこと」
そういいながら、オンディーヌはバスケットからジュジュのご飯を取り出す。
チーズや蜂蜜、パンの入ったミルクがゆだ。
「じゅー」
早く食べたいらしいジュジュは、よだれを垂らしていた。
「うむうむ。本来のジュジュさまの姿に戻りつつあるのだな」
「ジュジュの本来の姿って、今のシェイドを小さくした感じなのか?」
「いや、そうではないぞ。この状態で羽が大きくなって手足がもう少し大きくなったのが本来の姿だな」
「竜なのに、いわゆる一般的な竜のような姿ではないのか」
「ジュジュさまは、長じれば、本当に美しく神々しい姿になるが、幼少の間は今のような愛らしい姿なのだ」
そう言ったシェイドはどこか自慢げだった。
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