第46話 帰路

 オンディーヌと合流した後、俺たちは学院への帰路についた。

 ジュジュに忠誠を誓ったシェイドもしっかり付いてくる。


 ダンジョンから外に出ると、時刻は昼過ぎになっていた。


「じゅっじゅ!」

「あっ、ご飯か。みんな、少し休憩したい」

「かしこまりましたわ! 私たちも昼食をとりたいと思っていましたから」

「がう」

「食べ物はウイングロードのところに用意してある。飛竜はこっち」


 オンディーヌがウイングロードの元へと案内してくれる。

 シェイドの呪いが解けたことを察したオンディーヌが近くまで連れてきてくれていたらしい。

 少し歩いたところに、ウイングロードがいた。


「がぉがぉ!」


 ウイングロードはジュジュとオンディーヌを見て、嬉しそうに鳴いていた。


 それから、オンディーヌが用意してくれたご飯をみんなで食べる。


「シェイドも一緒にどうだ?」

「いいのか?」


 普段のサラマンディルやシルヴェストルのように姿を隠していたシェイドが姿を見せる。

 先ほど大型犬ぐらいになったというのに、今回はウイングロードより大きい。

 ウイングロードに張り合っているのかもしれない。


「ガオ!」


 大きな竜の出現にウイングロードがびっくりしてて飛びはねた。


「ウイングロード。安心していい。悪い奴じゃない」


 緊張したウイングロードを。オンディーヌがなだめ、改めてシェイドも挨拶する。


「ウイングロードというのだな。我はジュジュさまの従僕シェイドである。以後よろしく頼む」

「が、がお」


 挨拶が終わった後、シェイドもオンディーヌからリンゴをもらって食べていた。

 巨体に比べたら、リンゴはとても小さい。

 お腹が膨れるとは思えないが、精霊は本質的には物理的な存在ではないので構わないらしい。

 じっくりと舐めるようにリンゴを味わっている。


「シェイド、眷属は?」


 ダンジョンから出る途中、シェイドから敬語はやめてくれと懇願されたので、俺は口調を変えた。


「安心するのである。眷属たちは姿を消して、みな休んでおるのだ」

「治療とかは?」


 シェイドが呪われていたせいで、その眷族も呪われてしまっていた。

 かなり衰弱しているに違いないのだ。


「今は元気であるぞ。眷属と我の魔力回路は深くつながっておる故な」


 元気になったシェイドの魔力が眷属にも流れることで元気になったようだ。


「それならいいが……」


 俺はジュジュを見る。

 ジュジュは元気に、俺の切ったリンゴをパクパク食べていた。


 シェイドと眷族は呪いが解けた。

 だが、オンディーヌが言うには、ジュジュの解呪は万全ではないらしい。

 元気になったように見えるが、シェイドのように姿が変わったわけでもない。


「じゅ?」


 ジュジュが俺を見る。

 そして、俺がリンゴを食べたがっていると思ったのか、食べていたリンゴを俺に差し出してくれる。

 俺はジュジュの手からリンゴを食べた。


「ありがとう。ジュジュ。おいしいよ」

「じゅ~」


 ジュジュは嬉しそうに尻尾を振っている。


「オンディーヌ。ジュジュの解呪は万全ではないと言う話だったが、完全に解くにはどうしたらいいんだ?」

「時間がかかるだけで、呪いは解けたと言っていい。これ以上何かをする必要はない」

「そうか。それならいいんだが」

「それに、グレンの呪いも解けた」

「どういう理屈で?」

「ジュジュに呪いをかけたやつと、グレンに呪いをかけたやつが同族。だから呪いの構造が似ている」

「ジュジュさまの呪いが解けたときに、ついでにとけたのであろうな! 我と我の眷族に似た作用なのである」

「そんなものか、よくわからんが」


 俺はジュジュの頭を撫でる。

 呪いが解けたならば、時間をかけてジュジュの姿も元通りになるのだろう。


 この姿も可愛らしいが、あくまでも呪われた姿。

 本来の姿になったほうがいいに決まっているのだ


 昼食が終わると、シェイドが尻尾を振りながら言う。


「ジュジュさま! それにグレンさまも、帰りは我の背中に乗って欲しいのである」

「ダメ。シェイドは間抜けだから、グレンとジュジュを落としかねない」


 オンディーヌが真面目な顔で言う。


「そ、そんなことしないぞ。仮にも精霊王である我が、そんな間抜けなことをするわけないじゃないか」

「普通はそう。だけど、制御せずに魔力を垂れ流すなんてことも、精霊王がするわけがない」

「返す言葉がないが、今度は大丈夫である」


 そういって、シェイドは俺を期待のこもった目で見つめてくる。

 ここで断ったらシェイドが可愛そうだ。


「じゃあ、折角だしシェイドに乗せてもらおうかな」

「さすがグレンさまである! 話が分かる!」

「いざとなったら、私が助けるけど、気を付けて」

「うん。頼りにしているよオンディーヌ」


 それから俺はジュジュを抱っこしたまま、シェイドの背に乗った。

 オンディーヌとリルはウイングロードの背に乗る。

 そして、フェリルは行きと同様、地上を走るのだ。


「シェイド。ウイングロードについてこい。フェリルが付いてきやすい道をそれなりの速度で飛ぶ」

「わかった。任せるがよい!」


 オンディーヌはウイングロードを上手に操縦して飛んでいく。

 シェイドも比較的おとなしくついて行った。

 はしゃぐジュジュの声を聞いて、サービスしようと宙返りした時は少しだけ焦った。

 俺が、しっかりとしがみついていたので、大事はなかったが、油断していたら落ちかねなかった。

 やはり、シェイドは調子に乗りやすい性格のようだ。

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