第45話 少し前の大賢者

 ◇◇◇◇◇


 グレンたちが大きな精霊と戦っていた頃。

 学院では、ヴィリが自室でお茶を飲んでいた。


「今頃グレンはダンジョンの最奥に到着して戦っている頃かな」

「……そうかもしれません」


 ヴィリの前に座るのは炎の精霊王サラマンディルである。

 姿を消していることの多いサラマンディルだが、ヴィリと二人っきりの時は人の姿を取ることも多い。

 サラマンディルはヴィリと一緒にお茶を飲む。


「……ですが。……グレンさまは大丈夫でしょうか?」

「心配?」

「……はい。相手は呪われて力が落ちているとはいえ精霊王。人の身で勝てる相手ではありません」

「確かにね。普通は無理だろうね」


 そしてヴィリはにこりと微笑む。


「でも、グレンなら大丈夫だよ」

「……ヴィリさまがそうおっしゃるのならば、そうなのでしょう」

「グレンみたいな奴のことを天才というんだよ。僕は天才に追いつこうとして、結局追いつけなかった努力家にすぎないから」

「…………」


 ヴィリの追いつけなかったという言葉に、サラマンディルは同意できなかった。

 サラマンディルの目から見ても、ヴィリは天才なのだ。


「サラマンディルにもすぐにわかるよ。グレンが天才だってことをね」

「……ですが、剣で精霊王にどうやって勝つのでしょうか?」

「グレンは、グレン自身も気づいていないけど魔力を見ている。いや、見ているというか感じているからね」

「……弱点を看破して、的確に斬り裂くということでしょうか?」

「そうだね。でも、僕はそれ以上のことをやると思う」

「…………それ以上とは?」

「解呪すら成し遂げるんじゃないかな」

「…………それはさすがに」


 サラマンディルはヴィリのことを信頼している。

 そんなヴィリの言葉とはいえ、グレンが解呪を成し遂げられるとは思えなかった。


「グレンなら呪いを見ることができる思うし」

「精霊ならばともかく、人の身で呪いを見ることなど可能なのでしょうか?」

「グレンは呪いを目で見た、いや感じたんだと思う」

「…………」

「グレンは、オンディーヌに魔力を与えられたとき足が光って見えたっていってたよね」

「…………」

「あれをグレンはオンディーヌの魔力が光ったと思ったんだろうけど……」

「……私も思いました」

「魔力なんて皆持っているよ。オンディーヌも、グレンも、ジュジュも」


 つまり、魔力が光るなら、グレンの目には常にオンディーヌは輝いていないとおかしい。

 グレン自身も輝いてみえるはずだ。


「オンディーヌの魔力が流れたことで、グレン自身の呪いが揺らいだと思うんだよね。その変化を光って見えたと表現したんだと思うよ」


 そもそも魔力も呪いも、可視光を発しているわけではない。

 目で見える物ではないないのだ。


 それを視覚で捉えたと感じたならば、錯覚である。

 視覚以外、五感以外のなにかでグレンは捉えたのだ。


「本当に天才。人の域を超えているよね」

「…………それが本当ならば、そうでしょう」

「まあ、解呪はできないかも知れない。だけどグレンなら呪われし精霊王を倒せはするはずさ。倒せたのならば……」

「……ジュジュさまとグレンさまの呪いも解けるでしょう」

「ああ。上手くいったら、グレンにも全部話さないとね」

「……はい。楽しみです。ですがオンディーヌが全部話すのでは?」

「そうかも」


 そういって、ヴィリは笑う。


「少し待っていれば、僕らが、大賢者と四大精霊王が、十年かけて達成できなかった精霊王の解呪を成し遂げたって知らせが入るよ」

「…………待ち遠しいことです」

「シルヴェストル、もし結果がわかったらすぐに教えてね」


 ヴィリがそういうと、部屋の中に優しい風が吹いた。


 ◇◇◇◇◇

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