第43話 五柱目の精霊王

 オンディーヌはジュジュの正体は知らない方が良いと言っていた。

 だが、そこまで言われたら、知りたくなる。


「一体ジュジュは何者なのですか?」

「…………」


 少し考えて、竜は口を開く。


「我ら精霊王の盟主。偉大なる上王にして、至尊なる聖なる竜。それがジュジュさまだ」

「じゅ?」


 ジュジュはきょとんとしている。


「あなたは精霊王だったのですか?」

「うむ」


 敬語を使っていてよかった。


「それにジュジュは精霊王の盟主だったのですか? いや、その前に精霊王は四人ではなかったのですか?」

「オンディーヌやシルヴェストルたち、四大精霊の王が有名だがな。我が五柱目の精霊王なのは間違いない」


 どうやら、精霊王の数え方は、人ではなく柱らしい。


「あの、あなたが何の精霊の王かお聞きしても?」

「我は闇の精霊王。四大精霊王とは異なり人とは関わりは持っておらぬゆえ名前はないがな」


 頭の中を整理する。

 ジュジュは精霊の上王。そして精霊王は四柱ではなく五柱いる。

 精霊王に呪いをかけ、踏み台とすることでジュジュは呪われた。


「今回、運良く解呪が出来ましたが、解呪できず、あなたを殺していたらどうなったでしょうか?」

「ジュジュさまの呪いは緩和されたであろう。呪われし我の魔力が残留するゆえ、解呪には至らぬがな」

「精霊王がいなくなったら、世界はどうなりますか?」

「影響は少ない。新たな闇の精霊王がうまれるゆえな。数ヶ月か、数年後、数十年後かはわからぬが」


 ヴィリは「魔物」を倒せと言った。

 精霊だとも、精霊王だとも言わなかったのは、俺の剣が鈍ることを心配したからに違いない。

 それに、闇の精霊王を解呪できるかわからないのに、可能性をほのめかせば、倒そうとする剣が鈍る。

 そうなれば、ジュジュも俺も死にかねない。

 そう、ヴィリ達は判断したのだろう。


「グレンさま。まだ、知りたいことはあるか? 我に答えられることならばなんでも答えよう」

「シルヴェストルが近づいたとき、逃げたのはなぜですか? そのような呪いですか?」

「いや、あれは我が意志で距離を取ったのだ。我が呪いは、同格のものたちには感染するゆえな」

「同格といいますと、精霊王クラスですか?」

「そのとおりだ。シルヴェストルを呪わせるわけには行かぬ。そのようなことになれば、ジュジュさまといえど即座に命を落としたであろう」


 一柱から送られていた呪いが、二柱分になるのだ。単純に二倍になる。

 耐えがたい苦痛になるというのは想像に難くない。


「精霊王の契約主も我には近づけぬ。契約というのは回路を同じくするからな。契約主を通じて呪われかねぬ」

「ジュジュが、あなたに近づいても大丈夫なのですか?」

「ジュジュさまは上王。我ら如きと同格ではない」


 その上王であるジュジュは元気に尻尾を振っていた。

 リルとフェリルは、真剣な表情で大人しく話を聞いている。


「ほかに問いはないか?」

「最初の問いにまだ答えて貰っておりません。名付け無ければいけない理由です」

「おお! これはすまぬ。忘れておったぞ」


 闇の精霊王はそう言って恥ずかしそうに笑う。


「我が呪いの対象に選ばれた理由は名前がないからである。名前を与えられることで肉体を持たぬ我らの魔力回路も安定するのだ」

「なるほど……」


 正直よくわからないが、呪われにくくなると言うことなのだろう。


「二度と呪われぬよう、呪われてジュジュさまにご迷惑をおかけしないように、是非グレンさまに名前を付けていただきたいのだ」

「そういうことなら……」

「ありがたい!」


 なぜ俺が? と思わなくはない。

 もしかしたら、俺のことを恩人だと思ってくれているからかもしれない。

 恩返しの一環なのだろうか。


「…………」


 竜は期待の籠もった目で俺を見つめてくる。

 明らかに名付け待ちだ。

 あとで考えるとか言い出せない雰囲気がある。


 俺は後ろを振り返って、リルとフェリルを見た。


「がんばってくださいませ!」

「がう!」


 リルとフェリルは応援してくれた。

 応援して欲しいわけで無く、名付けのアドバイスなどを聞きたかったのだが。


「うーん。どのような名前がいいですか?」

「グレンさまの名付けられる名前ならばなんであってもよいのだ」

「そうですね」

「我の印象をそのまま名付けてくれても良いのである! 直感で構わないのだ」


 そんなことを言われると余計難しくなる。

 例えば「うーん、じゃあ、ポンポン」とか適当に名付けたら「我のどのあたりがポンポンなのだ?」と機嫌を損ねるかしれない。


「直感で良いのだ、直感で」

「楽しみですわ!」

「がう!」「じゅっじゅ!」


 リルだけでなく、フェリルとジュジュも期待しているらしい。

 

「じゃあ……シェイドで」

「我が名はシェイド!」


 シェイドがそう叫んだ瞬間、周囲を漆黒の闇が包み込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る