第37話 精霊の殺気
姿が消えると同時に気配も消えている。
こんな魔物は見たことがない。
「あれは一体なんなんだ?」
「……あの魔法障壁、強力すぎます」
俺の問いにリルは答えなかった。
「私の魔法では傷一つ付けられないと思いますわ。そして、それはフェリルも同じ」
「がぅ」
フェリルもリルに同意するかのように鳴く。
「グレンさんに頼るしかありません」
「ふむ。魔導師キラーか。とはいえ、俺の剣も通じていなかったけどな」
咄嗟にリルを守るために振るったからこそ、本気の剣だった。
それが軽く弾かれたのだ。
ヴィリの作った剣でなければ、折れていただろう。
「で、リルさん。あれはなんだ?」
改めて尋ねる。
先ほど尋ねたとき、リルに答えをはぐらかされたように感じたのだ。
もし、何かあるなら、聞いておくべきだろう。
「えっと……」
「ジュジュに、どこか似ていたが、精霊か?」
「じゅ?」
ジュジュも首をかしげつつ、リルを見ている。
「壁から出てくるということは、物理的な肉体を持っていないということだし……」
そこまで言うと、リルは観念したように頷いた。
「はい。グレンさんの推測の通りだと私も思いますわ」
「これまで、ダンジョン探索中に精霊に襲われたことは」
「私はありません」
「ということは、珍しいのか。あの精霊は呪われているのか?」
「そこまでは、わかりませんわ」
リルはジュジュが呪われていることを見抜いてはいなかった。
ジュジュが呪われていると俺に教えてくれたのはオンディーヌだ。
精霊王ぐらいじゃないと、呪いを見抜くのは難しいのかもしれない。
「あの強度の魔法障壁を展開するのは、魔物や魔導師には、とても無理です」
「……なるほど」
「私には倒し方がわかりませんわ」
「ヴィリの言う倒すべき魔物は精霊だったか」
「きっと、精霊と告げれば、グレンさんの剣が鈍ると思われたのでしょう」
そうかもしれない。
俺は魔物は倒したことはあっても、精霊を倒したことはないのだ。
だが、ジュジュのためだ。倒さねばならぬのだろう。
「……ふむ」
「じゅ?」
考え込んだ俺の顔をジュジュがじっと見る。
「あ、あの! グレンさん、助けてくださって、ありがとうございました」
リルが明るい声でそういって頭を下げた。
空気を変えようとしているのだろう。
「パーティーメンバー同士助け合いは当然だ。礼には及ばない」
「はい! それにしてもグレンさんの、動きは凄かったですわ」
「そうだろうか?」
身体強化を使える魔導師ならば、俺より速く動くだろう。
「いえ! グレンさんほど速く動く人を見たのは初めてですわ。魔導師を含めて!」
「ががう」
リルもフェリルも褒めてくれる。
きっと、俺に自信を付けさせようとしてくれているに違いない。
もしかしたらヴィリが何か言った可能性もある。
自分より若い子に気を使わせるのはとても心苦しい。
「ありがとう。なんか自信がでてきたよ」
そういってお礼を言っておく。
そして、俺たちは再び奥に向かって歩いて行く。
「そういえば、オンディーヌが倒さなくてもいいと言っていたな」
「おっしゃってましたね」
正確に言うと「呪いを解くためには、必ずしも魔物を殺す必要は無い」だ。
精霊だと気づいたとき、俺の剣が鈍らないするためにそう言ってくれたのかも知れない。
「倒さずに、解呪する方法があれば良いのだが……、リルさんは何か知らないか?」
「私は魔導師ですから、呪いには詳しくないのです。……お役に立てなくて申し訳ないですわ」
「いや、謝らなくていいさ。気にしないでくれ」
念のために聞いただけなのだ。
俺もリルが知っているとは思っていない。
もしも、殺さずに解呪する方法を知っているなら、ヴィリやオンディーヌが教えてくれたはずだ。
その後は、俺を先頭に静かに歩いて行く。
敵も出てこない。
ジュジュは起きているが、じっと前を見つめている。
十五分ぐらい歩き、休憩することにした。
休憩と言っても、警戒を続けながらだ。
いくらダンジョン攻略中でも、お腹は減るのである。
大人である俺たちは我慢できるが、ジュジュは赤ちゃん。
お腹が減ったら食べなければならない。
「ぎゅむぎゅむ」
緊張しているのかジュジュはいつもより食べるペースが速い。
「ゆっくりでいいんだよ」
なるべく早く済ませて欲しいという思いがないといえば嘘になる。
だが、早食いは身体に悪い。
優しくゆっくりとした声を掛けながら、食べさせていった。
「あの、グレンさん」
フェリルに水とお菓子をあげながら、自分も飲んで食べていたリルに声を掛けられた。
「ん? どうした?」
「グレンさんは精霊の襲撃にどうやって気づいたんですか?」
「どうやって……か」
説明が難しい。
技術とかではなく、感覚的なものだからだ。
「ただ殺気を感じただけなんだ」
「壁の中にいる実体化していない精霊の殺気を? そんなことをできる方がいるなんて」
そう言われたらなぜ感じることができたのかわからない。
「そのグレンさんの能力があれば、もしかしたらなんとかなるかも知れませんわ」
リルがそういったとき、とても真剣な表情をしていた。
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