第36話 謎の敵
やはり魔法は偉大である。
俺がまだ察知していない敵襲を、リルは魔法で感知したのだ。
「どっちだ?」
「前方!」
やはり非常時にはリルの口調は変わるようだ。
意思伝達が素早く行えるので、なによりである。
それはそれとして、今俺たちがいるダンジョンの通路はそれほど広くない。
前方ならば、対策は難しくなかろう。
俺は敵の気配をまだ察知できていないが、後方にいるリルから漏れ出る魔力が大きくなりつつあることに気がついた。
先ほど言っていた魔導師の作戦、つまり魔法で察知して遠距離からの魔法攻撃をするつもりなのだろう。
俺は油断なく身構え、剣の柄に手を添えながら、肩に付けた魔法ランプで前方を照らす。
「あいつか」
大型犬ぐらいある鼠の魔物が三匹、こちらに向かって駆けてきていた。
あまり手強い相手ではなさそうだ。それでも油断なく身構えていると、後方から魔法が放たれる。
氷の槍が的確に鼠の頭を貫いていった。
「ふう、終わりましたわ」
「お見事」
「ありがとうございます」
やはり魔導師は頼りになる。
これなら安心してダンジョンの奥に進めるというものだ。
「フェリル。お願い」
「がう」
倒した鼠はフェリルが一瞬で燃やしてくれる。
死骸を放置するとアンデッドになることがあるので、何らかの処理は必須なのだ。
「鼠は肉も皮も使えませんから。燃やして魔石だけもらいますわ」
「手際が良いな」
「ありがとうございます」
この調子だと、俺が活躍する機会はなさそうだ。
せっかくヴィリが剣を作ってくれたというのに。
だが、楽ができるなら、それに越したことはない。
その後も大きな鼠やコウモリが襲ってきたが、素早くリルとフェリルが退治してくれた。
俺の出る幕は全くない。
ダンジョンの通路は徐々に地下へとくだっていく構造となっていた。
入り口から三十分ほど歩くと、広い部屋にでた。
そして、そこからどこにもつながっていない。行き止まりになっている。
「ここが最奥というわけでもなさそうだけど……」
なにより目的である倒すべき魔物がいない。
「自動地図製作装置には隠し通路を見つける機能はありませんわ。あくまでも通った場所を記録するだけなので」
「それはそうか」
もし隠し通路まで見つけられるなら、便利すぎる。
そんなことができるなら、自動地図製作装置より、もっとふさわしい名前をつけるべきだろう。
せっかく取りだしたので、ここまで通った場所がどう記録されているのか確認した。
距離だけでなく、道の太さまできちんと記録されていた。
今回は一本道だったが、複雑な迷路であっても、迷わずに戻ることができそうだ。
「グレンさん。魔法で探査したところ、右奥に隠された通路がありましたわ」
「そんなことまで、魔法は本当にすごいな」
俺が自動地図装置を見ている間に、リルは魔法で探査してくれていたらしい。
リルが教えてくれた場所を調べると隠し扉があり、そこを開けると更に地下へと続く道があった。
これまで通ってきた道よりも、少し広くなっている。
その道へと足を踏み入れると、それまでとは空気が変わった。
何か強い奴がいそうな気がする。
「気配が……違うな」
「気配とはなんですか?」
「がう?」
「言葉にはしにくい。なんとなく先ほどまでよりピリピリしている」
「ピリピリですか? 気温がさがったからかもしれませんわね」
「が~う」
リルとフェリルはあまりピンときていないようだ。
魔法で探査を続けているはずのリルがピンときていないなら、気のせいだろうか。
いや、警戒しすぎるということはない。
初めて訪れた未知のダンジョンでは何が起こるかわからないのだ。
「……ギュギュ」
ジュジュが目を覚まし、不機嫌そうに鳴く。
「寝てていいんだぞ」
「ギュ」
ジュジュは俺の服をぎゅっと掴んで、前方を睨み付けるようにして見つめていた。
慣れない場所で緊張しているのかもしれない。
俺はジュジュを落ち着かせるためにポンポンと背中を叩く。
そうしながら、ゆっくりと進んでいった。
「リルさん、倒すべき魔物の気配を感じたらすぐ言ってくれ」
「わかっていますわ。察知したらすぐに」
「恐らくだが……かなり強いはず」
魔物は臆病だから精霊王相手なら逃げる。
だが、リルとフェリルなら、魔物は勝てると考えるから逃げない。
そうヴィリは言っていた。
少なくとも魔物相手なら、俺の出る幕もあるかも知れない。
とはいえ、リルとフェリルは非常に強く、俺が活躍できるとも思えないのだが。
そんなことを考えながら、ゆっくりと進んでいると、何者かが近づいてくる気配を感じた。
気配。いや、これは殺気だ。
だが、リルは何も言わない。
「何か来るぞ!」
「え?」
きょとんとしたリルの真横の壁から、強烈な殺気をまとって何者かが飛び出した。
リルが身構える時間も、反応する時間も無い。
フェリルがリルをかばおうと動きかけたが、間に合わない。
何者かは鋭い攻撃をリルの頸動脈目がけて繰り出そうとしていた。
リルの首が落ちると俺にはわかった。
俺は反射的にリルの前へと跳び込んだ。
考える前に動いていたのだ。
「……お前は一体何者だ?」
俺は壁から飛び出した何者かを、ヴィリからもらった剣で受け止めた。
正確に言うと条件反射的に斬捨てようと剣を振り抜こうとしたのだが、止められたのだ。
「……ギリィ」
壁から飛び出してきた何者かは、一見ジュジュに似ていた。
だが、ジュジュとは違い、色は白っぽく動きが素早い。
そして、ジュジュより、ずっと手足が太くて長い。背中にはそれなりに大きな羽が生えていた。
「魔法障壁ですわ!」
リルが叫ぶ。
俺の剣を止めたのは、魔法による障壁らしい。
「じゅ?」
俺に抱っこされているジュジュがその何者かをみて首をかしげながら鳴く。
「ギ……」
すると、その何者かはすぅっと姿を消した。
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