第29話 監督生リル
「昔からグレンは魔力を気配と読んで察知できていたし、身体強化魔法も使っていた。そして、オンディーヌから魔力をもらって、魔力を意識して認識できるようになった」
「確かになんかぼやっと光っていたな」
俺の足が光って見えたし、何か流れる感覚があったのも事実だ。
「それさえわかれば、グレンならいけるよ。そしてダンジョンの魔物も倒せるさ」
「そう願っているよ」
剣の説明が終わり、しばらく皆で果物を食べながら談笑していると、扉がノックされた。
俺は眠ったジュジュを抱っこした状態で、急いで玄関へと向かって扉を開けた。
そこにはリルと、フェリルがいた。
「おはようございます。リルさんにフェリルさん」
「おはようございます。ランズベリーさん」
「がぁう!」
「中にどうぞ」
「失礼いたします
リルは中に入るが、身体の大きなフェリルは外でお留守番だ。
「あ、学院長、オンディーヌ先生、おはようございます」
ヴィリとオンディーヌに気づいたリルが深々と頭を下げた。
「おはよ。今日はよろしくね」
「うん。おはよ」
ヴィリは椅子に座ったまま、笑顔で挨拶を返す。
オンディーヌも穏やかに挨拶している。
どうやらリルはオンディーヌのことを先生と認識しているらしかった。
リルは、今日もヴィリ相手に緊張している様子だった。
そんなリルにヴィリは優しく語りかける。
「リルさん。ダンジョン攻略は初めてじゃないだろうけど、魔導師以外と組むのは初めてだよね」
「はい。その通りです。学院長」
最近は魔導師のみでパーティーを組むのがセオリーになっている。
剣士とパーティーを組んだ経験があるのは十年前から魔導師をやっているベテランぐらいだ。
「うーん、そうだなぁ。範囲魔法を行使する際に巻き込まないよう注意すれば、大丈夫かな」
「それは魔導師同士のパーティーでも同じなのではないでしょうか?」
「もちろんそうだけど、魔導師と違って、剣士は防壁を展開できないからね」
「なるほど、理解いたしました。心して注意します」
「あとはあまり剣士の前に出ないように」
「それはなぜでしょうか?」
「剣士が敵を斬る邪魔になるからね」
「わかりました」
「うん。頑張ってね」
ヴィリに微笑まれても、まだリルは緊張をしているようだった。
「学院長。質問よろしいですか?」
「もちろん」
「私は、ランズベリーさんとジュジュのことを護衛するつもりでしたが……」
リルは俺とジュジュを護衛してダンジョンの魔物の前まで連れて行き、倒すお膳立てまでするつもりだったのだろう。
だが、ヴィリのアドバイスは前衛を剣士に任せるのを前提としている。
だから、リルは戸惑ったのだ。
「そうだね。護衛が必要になるかも知れないね」
「はい」
「でもまあ、僕は余り心配していないんだ」
「それはどういう……?」
「グレンはそんなに弱くないよ」
「買いかぶりだぞ」
俺がそういっても、ヴィリは気にした様子はない。
「それにグレンはダンジョン攻略も魔物退治の経験も豊富だからね。リルさんも色々学ぶことは多いと思うよ」
「はい。勉強させて頂きます。よろしくお願いいたします。ランズベリーさん」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
リルが丁寧に頭を下げて挨拶してきたので、俺も頭を下げた。
そして、きちんと言っておくべきだと思った。
ヴィリは十年前の、思い出の中の俺をイメージしているのだろう。
そして、思い出は美化されるものだ。
子供の頃の、俺が強かった印象なども影響を与えているかも知れない。
ヴィリは明らかに俺を過大評価しているのだ。
俺がダンジョン攻略したのは十年以上前。
ダンジョン攻略どころか、剣を持って戦ったのも十年前だ。
実力を高く見積もられすぎても、ダンジョン攻略に支障が出るだろう。
「私がダンジョン攻略したのは十年も前のことですし、あまり期待しないでください」
魔導師は基本的に剣士を高く評価しないので杞憂だとは思うが念のためだ。
「そうだったのですね。私も未熟ですが精一杯頑張らせて頂きますね」
リルは俺を侮る様子がない。
真剣で真面目な少し緊張気味の表情を浮かべていた。
その後、俺は飛竜の竜舎へと向かうことになった。
オンディーヌが俺たちについてこようとしたのだが、
「オンディーヌ。ちょっと待って」
「なに?」
ヴィリに呼び止められて、足を止めた。
「グレンたちは、先に行って準備しておいて」
「わかったよ」
そして、俺はリルとフェリルと、そしてジュジュと一緒に竜舎へと歩いたのだった。
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