第26話 剣士と魔導師
「いや、俺は魔法を使えないが?」
「……じゅぅ?」
ジュジュは眠そうにしはじめたので、背中を優しくポンポンと叩く。
「狭義の、普段使われている意味では、グレンは魔導師では無いけどね。魔法は使えるよ」
「身体強化の魔法なら、ってことだな」
「そうそう。体内の魔法回路と、筋神経系の接続は、従来の魔法行使とは全く異なりその臨界面における――」
「だまれ。グレン、私が説明するね」
オンディーヌに遮られて、ヴィリは少ししょぼんとしていた。
「身体強化の魔法は魔導師の魔法行使とは、コツが違うから安心していい」
「そうはいっても、難しいんじゃないのか?」
ほとんどの魔導師たちも使いこなせていないという話しだったではないか。
それはつまり、魔導師が普段使っている魔法より、身体強化の魔法の方が、難しいということなのではないのだろうか。
「コツが違うから。それにグレンは得意」
「なぜ?」
「ジュジュを通して私の魔力を流した。その気配を感じたでしょう?」
「確かに流れた気がした」
「改めてやってみるね。今朝の分の魔力をあげるついで」
オンディーヌはうとうとしているジュジュの頭を優しく撫でると、魔力を流し始めた。
「……じじゅぅ」
ジュジュは夢見心地で、とても気持ちよさそうだ。
ゆっくりとジュジュの身体が魔力が満ちていき、そして俺の足へと魔力が流れる。
その魔力の流れに集中すると、足から徐々に全身へと魔力が流れていくのがわかった。
「これがオンディーヌの魔力か」
「そう。……ちょっと恥ずかしい」
オンディーヌは、なぜか頬を赤らめている。
よくわからないので、スルーしておく。
「昔からグレンは気配を察するのが上手だったよね」
「そうだな。剣士としての心得だ」
隙を見せぬよう、敵の奇襲にいつでも対応できるよう、周囲の気配は探っていた。
誰よりも速く気づき、対応できなければ剣聖と呼ばれる域に達することは難しい。
「僕が魔法を使って周囲を探索していたにもかかわらず、先にグレンが気づくことってよくあったでしょう?」
「あったな。随分と昔の話だ」
それこそヴィリが魔法革命を起こす前。
剣士が魔物討伐の主力だった時代の頃の話だ。
「だが、気配の察知と魔力は関係ないだろう? 気配っていうが、実際のところ、音とか振動とか殺気とか、そういうものだろう」
「僕は音や振動を完璧にとらえる魔法で周囲を警戒していたのに、先に気づいたのはグレンだった。だから僕は考えたんだ。グレンはなにを察知しているんだろうって?」
「光とか?」
「背後からの奇襲にも完全に対応していたし、それはないよ」
「じゃあ、殺気?」
「殺気って具体的に何だろうね。相手を殺そうという意思? 意思を発するだけで周囲に影響させるって、それはまさに魔法の領分だよ」
「そういわれたら、そんな気もしてくるが……」
「グレンはね、昔から魔力を察知してたんだ。気配とか殺気という形でね」
「……自覚はないが」
「結構真剣に研究したから、この結論に自信はあるよ。魔王を討伐して余裕が出来てから、五年ぐらいグレンについて研究してたからね」
天才であるヴィリがそういうならそうなのだろう。
それにしても、世界に革命と呼ばれるほどの変革をもたらしながら、俺の研究をしていたとは思わなかった。
「そもそも、精霊と契約するまえの僕に百戦百勝できたのが異常だとは思ったことがない? 当時から僕は一流ではあったんだよ」
「運が良かったとしか。それに放たれる魔法の速度も矢の速度程度だし」
「昔から僕は結構強かったよ? 人の反射神経では不可能だ。それに魔法を見ることだって難しいよ?」
「そういわれても……実際反応できたし、見えたから……」
「サラマンディルから、聞いたでしょう? 僕はグレンに勝つために魔法革命を起こしたって」
「聞いたな」
「当然、グレンに勝つために、すごく研究したよ。結果、グレンは昔から身体強化の魔法を使っていた」
「……まさか」
「正確に言うとね、剣士も凄腕の弓使いも、凄腕と呼ばれる者たちはみんな魔法を使っていたよ」
「そんなことが、ありうるのか?」
俺の常識、というかこの世界における常識に反することだ。
「よく考えてみてよ。人間が、武器として剣を手にしたのが剣士。武器として魔法を手にしたのが魔導師。なら魔導師が負けるわけがないよね。精霊と契約していなくてもさ」
「そう……なのか?」
「魔導師は、物理法則を無視して、手から炎を出したり、風の刃を繰り出したりすんだよ? 鉄の棒でなんとかできるレベルじゃないよ」
そういわれたらそんな気もしてくる。
魔獣の狼、魔狼に、ただの犬が勝てないように魔導師に剣士は勝てないのが当然な気がする。
そうだというのに、魔導師が圧倒的優位を手に入れたのは、精霊の力を借りた後だ。
「人は魔法の手助けなしに魔獣と戦うことなんてできないんだよ。でも、剣士は魔獣と戦い勝てていた」
「俺が魔法を使っていたとは……」
「一般的な、体外で魔力を作用させるという意味の狭義の魔法では無いけどね」
俺自身が魔法を使っていたとは知らなかった。
驚いて固まった俺に、ヴィリは笑顔で続ける。
「グレンの身体強化の魔法はずば抜けて凄かったからね。天才と言っていい。魔力の量も尋常ではなかったし」
ヴィリは更に驚くことを言った。
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