ゾルサムの兄妹
雷の門の攻撃を受けたゾルサムは城を含む山頂の建物が破壊された。
しかし住民達は周辺の鉱山に避難し町の復興を進めながら暮らしていた。
鉱山の一画でバリンツとベリフが剣を交えていた。
「いくら竜の鱗の剣を持っているからって使わなかったら意味がないぞ」
長老のバリンツはベリフの相手をしていた。
「こんなに強いとは……」
立ち向かう度に木刀で叩かれるベリフの表情に悔しさが滲んだ。
その隣でチャミが腕立て伏せをやっていた。
「お父様、厳しすぎます」
「寝言を言うな! お前達が何も出来なかったからあちこちの町がやられたようなものだ。こうなるなら最初から厳しく鍛えておけば良かった」
「兄貴、そう力むなよ。チャミ、腕立てが終わったら相手してやるよ」
バリンツの妹のケリンが靴を脱いで蹴りの練習を始めた。
「うわあ、叔母様まで……死にそうです」
「泣き言なら後で聞いてやるから今はかかってきな!」
二人はゾルサムに帰ってから特訓の日々を送った。
最終日の夕方、鉱山の中にある作業小屋でベリフは大臣のテリに自分の仕事の引継ぎを行った。
「テリ、すまないな。お前の仕事を増やして」
「気になさらないで下さい。長老はああ見えてベリフ様とチャミ様に期待しているのです。先の戦いの結果は残念でしたが次は絶対に勝てると信じているのですよ」
「そうかな。俺は背負うものが足りない気がする。フェルサやレンディ達と違ってさ」
「あのお方達は違いますからね。フェルサ様は特に……」
「フェルサがどうしたんだ?」
書類の整理をしていたベリフがテリを見た。
「いえ、シャルマ様を殺されてさぞ辛かっただろうと」
「そうだな。だが、それだけじゃなさそうだな」
ベリフは勘繰った口調で言った。
「ハハハ、さてどうですかね。大臣は心の中にしまう仕事が多いですから」
テリは笑って答えた。
「それは長老の教えか。まあいい。フェルサか……元気にしているかな」
ベリフは天井を見た。
一方、チャミは別の小屋で靴の調整をしていた。
「やはり私も同行しましょうか?」
靴職人のメッテンが心配そうに訊いた。
「いえ、大丈夫です。壊れたら脱いででも戦います。それにこれも全然使っていないし」
チャミは脇に置いた竜の鱗で作った二本の短剣を見て答えた。
「本当に勇ましいのですね」
「シャルマを守ってあげたかった。やっとフェルサと会えたのにあんな事になって……」
チャミが泣き出した。
「そうですね。今度はチャミ様が悲しんでいるフェルサ様を守ってあげないといけませんね」
メッテンがチャミの頭を撫でた。
「そうね。そうよね。私が守らないと……頑張る……」
チャミは涙をぬぐってメッテンから靴の修理の仕方を学んだ。
そして翌日。
「レンディ達を守るのだぞ」
「こっちは私達に任せて行ってきな! 化け物に負けるなよ」
バリンツとケリンがそれぞれ二人を抱きしめて言った。
「必ず守ります。レンディもみんなも」
「お父様、叔母様、行ってきます」
ベリフとチャミは二人に一礼して小型機に乗り込んでテスジェペに出発した。
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