焼けた世界で

 ギランクスから攻撃を受けて多くの町が壊滅的な状況になった。

 旧時代の技術が蓄積されたテスジェペは光壁で防いだものの、ホルベックは跡形もなく焼けてしまった。

 テスジェペのクオンジからの連絡で住民はよその町や洞窟に隠れていた。近くのゼロラ人の隠れ里には法王のカロクら寺院で勤めていた者達が身を寄せていた。

「どうだ。維持装置の出来は」

「ここにあった予備の部品で組み立てましたが、修理用の部品があまり無いそうです」

「そうか。グノンバルに頼んでみるか」

 ダルキアが言うとカロクは腕を組んで答えた。

「法王様、私が頼みに行きます」

 そばにいたレルリが答えた。

「それでは二人に任せる。頼んだぞ」

 カロルはそう言うとゼロラ人の民家に入って行った。

「法王様、お疲れですね」

「仕方ない。いくら住民を避難させたとは言えホルベックが跡形もなく消えたからな。代々町を守ってきた法王様は心を痛めているのだろう。私達が支えないといけない。私は他の司祭が戻ってくるまでここで動けないから、レルリ殿は技師のペイジーと一緒に行ってくれないか」

「わかりました。ギラド人は同族を狙うとは考えにくいですがここも安全とは言えないですものね」

「ああ、前の襲撃もあるからテスジェペの要請より彼らを守るのが優先だ。頼んだぞ」

 翌日、レルリとペイジーはスレイサに乗ってグノンバルへ出発した。


 ギラド人や魔物に襲撃されたモスランダは厳戒態勢のまま住民達が暮らしていた。

「いつもすまないな」

 ロンデゴがゼロラ人の腕に栄養剤を注射した。

 デルツらゼロラ人は黙って立って空を見上げていた。

 そばでスレンドルとコンファが様子を見ていた。

「ホルベックの借り物でありがたいですが、何だか妙な気分です」

 コンファが言うと、

「確かにな。彼らに敵が同族という意識がないだけ幸いか。いや、感じ取っているが言えないのか。勘繰ってしまう」

 スレンドルは複雑な表情で答えた。

「ツデッパスの長老達を帰して良かったのですか。また盗賊が襲って来るかも知れません」

「娘を失い、多くの自警団も犠牲になって父親として町を治める者として辛いのだろう。住民達も同じで自分の無力さを悔やんで悲しんでいるのだ。今はそっとしておいてやろう。今ならサイポスを辿って通話が出来るから何かあったら向こうの自警団から連絡が来るだろう。定期的に連絡を取り合ってくれ」

「はい。ギランクスからすぐ帰って来るべきでした。そうすればリュゼッタ様やレンディ様の手伝いが出来たのに後悔ばかりです」

「私も多くの住民達を死なせてしまった。誰もが辛いのだ。今はこの戦いを早く終わらせる事だけを考えよう」

 二人は話しながら広場を見ていた。


「どうしてテスジェペに残らなかったんだ。設計図を渡す位ならサイポスの通信でも良かっただろう」

 ダダンが端末を見ながらフェルサに訊いた。

「戦いに役に立たない人間がいても仕方ないだろ」

「随分あっさり言うな」

「俺は俺の戦い方をする。それにはテスジェペじゃなくてここが必要なんだ。俺がいたら邪魔か?」

「いや、むしろずっといて欲しい位だ。だがお前はいつか仲間の所に行くんだろ」

「ああ、できれば次のテスジェペの作戦には行きたい。その為には新しい武器が必要だ。特にギランクスの雷を破壊するやつをな」

「それでギラド人達を殺すか。かつて人間がギランクスを攻撃した時のように」

 ダダンが作業をしながら言った。

「そう言われても……」

 フェルサは言葉に詰まった。

「わからないよ。そういう小難しい事は。レンディならきっとズバッと答えるだろうけどよ。あいつ時々長老みたいな事を言うんだよな」

「ハハハ。今じゃ抵抗軍を束ねているリーダーだからな。その位じゃなきゃ務まらないだろう」

「けど、まだ俺よりちょっとだけ年上の女だぜ」

「それでも使命を背負わなきゃいけないのが今の時代だ。俺達も負けていられないぜ」

 ダダンがフェルサの肩を叩いた。

「そうだな」

 フェルサは答えてダダンと設計図を見て話し合った。

 

 テスジェペの近くの地底湖で金の竜が休んでいた。

「シュルギマトラよ」

 脳裏によぎる声に竜はフッと微笑んだ。

「どうした。カミラガロル。お目覚めで調子が良さそうだな」

「いきなり皮肉か。人間は年を取りすぎると性格が捻くれるそうだがお前も同類か」

「よく言う。用件はなんだ」

 思念波の声に竜は微笑んだ。

「テスジェペを攻める事にした。お前を敵にするのは厄介だが」

「私は人間に手を貸すつもりはない。好きにすればいい」

「そうか。その割にはフェルサ達に鱗をくれてやったそうじゃないか」

「遊びで戦って奴らが勝ったから約束の鱗をくれてやっただけだ」

「てっきりフェルサに肩入れしているのかと思ったぞ。地の門の番人の末裔だからな」

「何だ、あいつの事を知っていたのか。戦って浴びた血を暇つぶしに解析した。確かに私を作った人間の末裔だ。しかしそんな人間は探せば他にもいる。奴だけが特別という訳ではない」

「そこまで達観できるなら安心した。てっきりお前の体に血族に手を貸すように細工されているかと思ったぞ。では予定通りテスジェペを攻撃する。その後、雷の門で世界を焼き払う。そこの洞窟には攻撃させないように部下に言っておくよ。じゃあな」

 カミラガロルの思念波は途切れた。

「ふん。律儀な魔物……いや魔人だ」

 竜は軽くにやけて湖の底で眠りについた。


 ギランクスの青白い部屋でカミラガロルは体に幾つものチューブを機械に繋げて立っていた。

「ギランクスをテスジェペに移動する」

 カミラガロルの声に反応して振動が大きくなりギランクスが移動を始めた。

「いよいよ人間を滅ぼすか。それはカミラガロルの本心か、それとも」

 自室でカリュスはグラスの酒を飲み干して呟いた。

 ギランクスから無数の魔物が飛び立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る