01-5
そうして訪れた、運命の時。
朝のチャイムが鳴ってから少しの間を置いて、杉田が教室にやってきた。
「よーし全員いるなー? お待ちかねのラストワンがきたぞー!」
教室内の緊張感はマックス。騒ぐ生徒など一人もいないというのにえらくはりきって声を張っている。
そしてちらりと清良を見た後、「入ってこい」と廊下に向かって手招きをした。
――この時のことを、清良は一生忘れないだろう。
「黒板に名前を書いて。それから簡単に自己紹介を頼む」
「はい」
呼ばれて入ってきたのは、少し小柄な少年だった。
きちんと着こなした制服は成長を見越してかオーバーサイズ気味だが、手足は細く、長い。
黒板に書かれた文字は止め、はね、はらいまで丁寧だ。
だがそんなことは、どうでもよくて。
「中尾圭です。怪我で入院をしてしまい、皆より一ヶ月も遅れてしまいました」
正面、黒板のまん前ど真ん中でハキハキとしゃべりだしたその少年は、驚く程に美しい顔立ちをしていた。
「……キレイ」
誰かがぼそりと呟く声が聞こえる。
綺麗。中学一年生の教室で耳にするには少々重い表現だが、それ以外の言葉はどう探しても見当たらない。
とにかくそう。綺麗なのだ。
髪は一目で天然ものとわかるきらきら、さらさらのミルクティブラウン。肌は白くすべらかで、一点の汚れもない。
顔の造作がいい生徒ならクラス内にも何人かいる。清良だって世間的には「イケメン」にカテゴライズされるのだが、彼の場合はその枠には納まらない。性別の枠をぶち抜いた、ただただ、美しい生き物としてそこに在る。
「小学生時代は丸々、国外でした。なのでこちらの学校のことは全然わからないし、日本での生活自体が久しぶりで緊張しています。手助けをしていただけたら、嬉しいです。よろしくお願いします」
ここはせめて拍手や、返事や、最悪冷やかしの言葉でもあるべき場面だろうが、誰一人リアクションを返せた人間はいない。
一ヶ月もこなかった、訳アリのクラスメイト。
その肩書きからは到底想像でできないその見目に、全員言葉を失っていたのだ。
(……うっそでしょ)
そしてそれは清良とて例外ではなく。
勝手にスピードを上げる脈拍を自覚しつつ、ぽかんと口をあけたままその顔を見つめることしかできなかった。
「……あー……ええと。えっと。完璧な自己紹介をありがとう。とにかく、仲良くするように!」
全員のノーリアクションぶりに慌てたのは杉田だ。
「席は今のところ、出席番号順になっている。お前の席は……藤井清良! 挙手!」
「は、はい! 藤井! 藤井ここです!」
唐突に名まえを呼ばれ、意識が強制的に現実に戻される。
勢い余って立ち上がった清良に杉田は一瞬苦い顔をしたが、「あれの前ね」と目の前の小さな背中を押した。
トン、と叩かれた勢いのまま前にでて、美しい生き物がこちらに向かって歩いてくる。
「よろしく」
ふんわり。
笑顔のお手本はこれです! といわんばかりにやわらかく笑って見せた彼に、清良は余計に身を堅くした。
挨拶をされたのだから、挨拶を返さなければ。
動揺しつつもしっかりと、目と目を合わせて無理矢理に微笑む。
そして口を開きかけたその瞬間――気付いてしまった。
(――目、きれい、金色……? いや、ええと、これは)
その目が、美しい琥珀色をしていることに。
「――目が宝石みたいだ」
その目に呑まれ。見惚れ。つい、思ったままの言葉が漏れた。
よろしく、の返答としては相応しくない。ついでに、同級生男子に使う言葉としては大間違いである。
「……いや、何いきなり口説いてんのあんた」
近くの席の旭から、思わずといった様子の突っ込みがはいる。
「え?! あ!!! 違う! 間違えた!!」
慌てて否定する清良に、教室内がドッと沸いた。
ようやく空気が緩んだのは何よりだけれど、清良の受けたダメージは大きい。
「あははは!」
救いなのは、彼も笑ってくれたこと。
失言を真に受けることなく、笑って受け流してくれたのは清良にとっては何よりもありがたかった。
「面と向かってそういう褒められ方するのは初めてだよ。えーっと……ありがとう?」
せっかくのファインプレーを無駄にするわけにはいかない。
けれど至近でも見る彼の笑顔はあまりにも強くて。
(――可愛い)
こみ上げてくる熱は顔に出ていないだろうか。
声に出さなかったことは、存分に褒められたいところだ。
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