夢ゴマ

 ごはんにゴマ塩をかけてみると、てっぺんにわずかな金色のきらめきが見えた。

 たった一つの金色のゴマ粒だが、僕の目にも、その光彩は明らかだった。

 それは宇宙に輝く一番星のようである。


 僕は思わず、ゴマ塩のビンに貼られたラベルを確認した。

 商品名は「夢ゴマ」。説明欄にはこう書いてあるので、読んでみる。

「この瓶の中には、一粒の金のゴマがあります。それを食べた人には、壮大な幸運が訪れるでしょう」

 しかし最後の一文には、「ただし横取りすると、困ったことになりますよ」とも添えられていた。


 僕は迷わず一口目に金のゴマを含む形で、ご飯を食べた。

 妹の沙雪(さゆき)が不思議そうな顔で僕を見ている。

「金のゴマって何?」

「いや、なんでもないよ」

 僕はとっさにはぐらかした。


 その翌日、朝起きてみると、枕の横には青いリボンで包まれたプレゼント箱があった。

 驚いてすぐに開けてみると、中身を見て驚いた。

「このタブレット、超ほしかったんだよ!」

 僕はずっと前からタブレットが欲しかったので、超絶に嬉しくなった。


---

 それから1カ月後。

 前の夢ゴマを切らしたので、新たに買ってきた同じものを、この日の夕食に使っていた。

 すると、あの日と同じように、ごはんにかけたなかに金色の一粒が交ざっていた。


「すげえ、今日もいいことあるかな」


 そうつぶやいていると、他のところからいきなり手が伸び、金色のゴマをかすめとった。

「あっ、沙雪!」

 沙雪はただでさえ小さな金色のゴマを丁寧にかじりながら、僕にドヤ顔で微笑んでいた。


 翌朝になると、プレゼントはない。

 沙雪に金のゴマをかすめ取られたので、もともと期待していなかった。


「もうイヤッ!」

 近くの沙雪の部屋から叫びが聞こえたので、思わず彼女の部屋に駆け寄ってみる。

 彼女はベッドの上で天を仰ぎ、目をうるませていた。

「私のスマートフォンがない……」

 僕は不思議に思った。彼女は毎晩、スマートフォンを充電コードにつなぎ、勉強机に置いている。


 しかしこのとき、机の上にスマホはない。放り出されたコードのかたわらに、一枚の見覚えなきメッセージカードがあった。


「金ゴマを横取りしたな。これから1カ月間スマホ没収だから。アナログ生活楽しんでチョ♡ 夢ゴマの使者より」

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