ウナギ味のビワ

 スーパーで買い物をしていたら、奇妙なものが売られていた。

 商品を示す札は「ウシビワ」と示している。

 形はビワそのものなんだけど、色合いがウナギのかば焼きにかけるタレにそっくりだった。

 しかも見つめていたら、香ばしいにおいが鼻の奥まで伝わってくる。

 

 その嗅覚はウナギのかば焼きそのものだった。

 僕はにおいに操られるがままに、カゴにウシビワをひとつだけ入れた。


「ねえ、何それ」

 食卓で向かいに座る妹の美沙は、あやしむような表情でウシビワの乗った皿を見つめた。

 僕はウシビワひとつを輪切りにして、レンジで温めたのだ。

 するとうなぎのかば焼きが醸すような香ばしさが、優しく僕の鼻に寄り添った。


「いただきます」

 僕はそう言うと、早速お箸で一切れのウシビワをつまみ、口に運んだ。

 ウシビワは実に柔らかく、締まった身とタレのバランスが整った感じに近い味わいだった。

「うまい」

 僕は思わずそうつぶやいた。


「それ、私にも食べさせてよ」

「いいよ」

 僕は誇らしげにウシビワの皿を美沙の目の前に運んだ。美沙も興味津々に一切れを味わってみる。


「本当にウナギのかば焼きっぽくておいしいね」

 美沙の喜ぶ姿を見て、僕も機嫌を良くした。


 しかし同時に、自分は何をやっているのだろうという、不可思議な気分にもなった。


---


「いただきます」

 ちょうど1週間後。

 このときの夕食はうな丼だった。


 妹と向かい合いながら、お互いに本物のうなぎを食す。

 そして僕はこうつぶやいた。


「やっぱりウナギの旨味はウナギから味わうのがいいな」

 妹もそれが当然であるかのようにうなずいた。

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