第50話 「動くな、バルバリシア!」「…ゆ、融合。なんて、えちえちな言葉なんだ。ダメだよ。小学生を抱える駄菓子の国で、そんな言葉…」

 大切なことは、うらやましいほどに変わっていく社会に適応できる自分自身を、磨くことだったのではないのか?たとえば、少ない小遣いの中で、買うべき駄菓子か否かの判断ができるアビリティを獲得するような努力をして!

 それとも、努力をしないで、こう言いますか?

 「僕たち私たちには、努力、いらない。判断能力、いらない。だって、誰かが、やってくれるんでしょう?僕たち私たちは、かわいそうだよね!」

 何度もいうように、努力して取りにいくものが、はつらつ便りだったはずだ。

 待っていれば何とかなるというものでも、なかったわけで…。

 が、今どきの社会では、そんな努力大切主義も、古くなってしまったのだろうか?

 努力をしても、はつらつ便りをられない現実…。

 努力をして、真面目に、ひたすらがんばってしまったことは、気の毒だった。

 この場合は、決して、かわいそうなのではなくて。

 努力は、想像を絶する苦しさを残す。それが、今の社会なのか?努力が実を結ぶと安易に信じれば信じるほどうらやましくなり、自分自身が嫌になっていき、さらに悩み、走っていくしかなくなるのだ。

 夜道を駆けたヒビキの真相に、上手くリンクしていただろう。

 心が、努力が実を結ぶという感覚に支配されると、超絶なリバウンドが発生していく。 

 さきほど、新社会に適応できる自分自身を磨くという言葉が出たはずだ。

 これはもう、大矛盾。

 新社会に適応するために追及するのが、効率化だ。

 努力して努力して、効率化を図る…。が、ここで、リバウンドが発生。

 何だか、ダイエットの話みたいだ。

 努力を積み上げて効率化を図ると、失われてしまうものがあった。

 それは、余裕だ。

 ゆとりと言い換えても、良いのかもしれなかった。

 ここで人は、努力を軽くして、ゆとりを重視するように変わっていく。

 すると、何が起こるのか?

 ここでも、リバウンドが発生する。

 「…小学生よ?良く、きたねえ」

 「ああ!」

 「力強い声じゃあ、ないかね」

 「駄菓子を愛する、当たり前の強さだ!」

 「…ほう。そんなにも強い子には、これを紹介しようかねえ。売ってあげるよ?」

 「何、それ?」

 「ひひひ…。ミスリルのグミと、ピンクのアレを、調合したモノじゃよ」

 「調合?っていうか、いらねえ」

 「…まあ、待ちなよ。小学生?」

 「調合、か…」

 「これらを、オメガの鉄板に上に乗せて、神竜のよだれソースを調合して、じゃな…」

 「うわー。なお、いらねえ」

 「聞け、小学生!」

 「何だよ、ばばあ」

 「最後に、源氏のヘラで、ひっくり返すのじゃ!」

 「うわ!まずそうだ!」

 「こら、小学生!心に、ゆとりをもて!そして、悟れ!じゃが、気を付けろ!ゆとりがありすぎれば、今度は、努力をする意味がわからなくなってしまい、何をすれば良いか、わからなくなってしまうからじゃ」

 「何言ってんだ、ばばあ?」

 ゆとりと悟りは、紙一重の恐怖ということらしかった。

 運の良い生き方は、良い。

 だが、その流れに慣れすぎてしまえば、自力で考え抜きたくもなくなってしまっているから、パニックだ。まるで、ひたすら戦いまくる、バーサーカーのように。

 言われたことは何となくやるけれども、目標値がないわけだから、どこまでやれば結果が出るのかもわからず状態…。

 これは、相当なストレスだ。

 「ストレスが溜まるんだったら、休めば良いんじゃない?」

 が、そうは言われても、簡単に休めない。

 休み方が、わからなくなってしまっていたからだ。

 今度は、努力をさせる。

 すると今度は、慣れない努力で、オーバーヒート。無駄を無くそうと、無駄が生まれるのが怖いと怯えながら、気付けば、必要以上にがんばってしまうことになるからだ。 

 社会は、そういうふうに、できているらしかった。

 この悪循環は、何なのだろうか?

 「ねえ、おばあちゃん?」

 「何だい?」

 「駄菓子屋って、社会勉強になるよね?」

 「ほう。小学生が、一丁前に言って…」

 「…あーあ。社会って、複雑なんだねえ。駄菓子屋で鍛えてもらっていた俺たちとか、お母さんたちの世代が、気の毒だよ」

 「そうだねえ」

 「今どき世代の子は、もう、気の毒を通り越しているよね?」

 「ああ、そうだねえ」

 「待っているどころか、努力をしても、はつらつ便りは、手にできなんだからね」

 畳みかけるチャンス、だった。

 「まったく…小学生めが。こんなにも強い子たちの、一体、どこが…」

 「何だって?」

 「どこが、かわいそうなもんかね」

 「ふーん…?かわいそうじゃなかったとしたら、何なの?」

 「いちいち、うるさい小学生だねえ…」

 「今どき世代って、何かな?」

 「何って…。新型ウイルス社会になって、学校にもいけないくらいに、かわいそうなんじゃないのかね」

 それを聞いて、ヒビキの眼のほうが、ランランに輝いた。

 「…今、言ったよね?」

 「何?」

 「今どき世代の子は、かわいそうなんだよね?今、言ったよね?」

 「あ…」

 「かわいそうって、言ったよね?」

 「う…」

 「あれれー?今どき世代の子は、かわいそうじゃないって言ったのは、誰だっけ?」

 神の顔が、暗がりの中で、赤くなった。

 「あんた…。このあたしを…神を…この神を…、言いくるめたね?」

 そのとき!

 地下フロアの奥の方から、声がした。

 「動くな!」

 …。

 空気が、張り詰めた。

 時空のひずみが、凍り付いていた。

 「バルバリシアよ!裏駄菓子屋ソサエティを、束ねる者よ!地下フロアでの生活に、別れを告げることだ!駄菓子屋裏活動防止法および、その他の容疑で、貴様を逮捕する!」

 あの男の子が言ったのでは、なかった。

 「だ…、誰の声なんだ?」

 ヒビキの追及の眼をよそに、男の子と一緒にいた成人男性が、畳みかけた。

 「バルバリシア!タイムパトロールに、出動を要請した!おとなしく、しろ!」 

 成人男性の口調は、切れ味良すぎに、迫っていた。

 「ここに、いたとはな。…バルバリシア。いや、正確に言えば、ツゲ」

 「何?」

 ヒビキの、あ然とした声。

 「そういうこと、だったのか…」

 男の子のほうは、冷静だった。

 成人男性の声が、勇ましくこだました。

 「バルバリシアとは、仮の名。お前が、行方をくらましていたという、駄菓子屋経済理論の神、ツゲ先生だったとはな。ツゲ…、貴様は、調合に加えて、融合の技術をもっていたっけなあ…。我々は、見落としていたよ。まさか、その技術を、ここで使うとはな。どんな取り引きがされたのかは知らんが、貴様は、バルバリシアとなったんだ。ツゲ先生、貴様は、バルバリシアと、融合を果たしたんだよ!」

 その言葉を耳にしたヒビキは、ドキドキしっ放しだった。

 「…ゆ、融合。融合。えちえちだよ。なんて、えちえちな言葉なんだ。ダメだよ。小学生を抱える駄菓子の国で、そんな言葉…」

 「ヒビキ君。黙っていてくれたまえ!」

 怒られた。





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