第45話 これぞ、良い、駄菓子屋教育。カップ麺の、返却方法。子どもの自主性(オンリーワンという意味ではない)について。

 いつしか、芋版も、死語になってしまったのだった。

 今では、こんなやりとりになったことだろう。

 「そこの、小学生!芋版は、もっているかい?」

 「イモばあ?ばばあの、新種か?」

 「イモばあじゃ、ないよ。芋版だ」

 「だから、それって、何なんだよ?」

 「えっと、ほら…スタンプだよ」

 「じゃあ、そう言えば良いじゃん」

 「小学生の分際で、いちいち、うるさいんだよ」

 「うるさいのは、そっちじゃん」

 「おばあちゃんのころは、芋版って言えば通じたんだよ!」

 ちなみに…。

 「判を押すから、芋版を、もってきて!」

 そう、今の学校の先生が言うと、児童生徒は混乱に陥ってしまう。芋版という言葉を、知らないからだ。

 「…ああ。美味かった」

 カップ麺を食べ終えた子は、神に、容器を返却した。なんだか、いけにえでも捧げていた感じだった。

「美味かったかい?」

 「うん。学校給食よりも、美味かった」

 「あんたねえ…。そういうことを言ってるんじゃ、ないよ!給食センターの方々がどんな思いで、あんたらガキに、一生懸命になってくださっているって、いうんだ!」

 「わかったよ」

 「給食センターに、謝りな」

 「…ごめんなさい」

 「他人の気持ちがわからなくなっちゃったら、精神が、死ぬよ!新卒一括採用組のおじさんたちを見ていれば、わかっただろう!」

 「そんなの、わかんないよ」

 「まあ…そうか」

 さんざん小言をいわれた揚げ句、神は、容器を返却しにきた子どもに、10円を返却してくれた。

 これで、ミニカップ麺20円のアンシャン・レジームが、維持されたわけだ。

 「お父さんのビール瓶の、回収みたい」

 「いちいち、うるさいんだよ!」

 すべては、駄菓子屋の工夫だった。

 「まわりに、ゴミを散らかさないように…。そして、自分のしたことの後始末ができる人間になってもらえるように」

 神は、神なりに、考えたのだった。

 圧巻だったのは、神の、教育論だった。

 「カップ麺の、返却方法ねえ…。これはまあ、少し面倒な方法だったのかも知れないけれど、良い駄菓子屋教育に、なったよ。皆がすることで、社会全体が、良くなっていくんだ。あの子たちにも、それがわかってきただろう」

 この駄菓子屋教育には、意味があった。

 神に小言を言われた子どもたちは、社会勉強をすることができた。

 ときに子どもたちは、神、おばあちゃんがごそごそ動く姿を、目撃して学べた。

 「…おばあちゃん?そんなにごそごそ動いて、何をしていたんだい?」

 子どもたちは、不思議になった。

 「あ!おばあちゃんが、店の奥からゴミ箱をもってきたみたいだ」

 友達同士で、うわさになった。

 子どもたちは、その変わった光景を、忘れなかった。

 「もう、おばあちゃんに、うるさく言われたくないしね」

 そんな気持ちで、子どもたちが動いた。店の奥から、ゴミ箱を出してきたのだった。

 「ちょと、あんた!勝手に、店の奥にいくんじゃ、ないよ!」

 おばあちゃんは、強めに言った。

 …が、その目は、満足そうに、細くなっていくのだった。

 「ハッ!」

 ヒビキは、我に返った。

 謎のおばあちゃんは、相変わらず、謎の動きをしていた。

 まともな雰囲気が、感じられなかった。殺されそうな気配を味わった後で、こう、はっきりと、理解した。

 「これが、あの男の子の言っていた、裏の駄菓子屋教室なんじゃないのか?」

 鼓動が、高まった。

 「もしくは、闇の魂!この鼓動は、…暗闇の雲による、波動だ!」

 これで、わかった。

 「あの奇妙な生き物は、きっと、闇ソサエティの駄菓子屋おばあちゃんだったんだ!」

 いや…。

 まだ…、何となくだ。

 その闇の駄菓子屋おばあちゃんを、ヒビキは、見つめてみた。

 「幸いにも、ばれていないな」

 おばあちゃんは、ずっと、同じ何かの行為を、繰り返していた。

 「良いぞ。良いぞ。俺に見られていたなんて、気が付いていないようだ」

 まだ、動いていた。少し離れた場に、立ち上がった。

 「あの、ばばあ…。何かを、探していたのか?」

 おばあちゃんは、しきりに、辺りを見回していた。

 キョロ、キョロ…。

 「あ!何かを、手にとったぞ!」

 目をさらにこらそうとすると、思わずの緊張が、走った。自身の顔に、汗が流れてきたのが、わかった。

 「あれは、何なんだ?」

 何かを手にとったおばあちゃんが、それを顔に取り付けた。

 「魔法のパーツのようなアイテムでも、取り付けたのか?」

 鼓動のスピードが、止まらなかった。

 「あれは…。まさか…!」

 汗が、流れていた。

 「老眼鏡、か!」

 おばあちゃんは、ゆっくりと眼鏡をかけ、不気味にほほ笑んだ。

 「満足しているぞ…?」

 おばあちゃんが、うなずいていた。

 目の前が、良く見えるようになったのだろう。それからおばあちゃんは、大きく、口を開けた。

 そしてそのまま、倒れていた人に、かぶりついた。

 「何を、やっているんだ?」

 神の、ご乱心なのか?

 「おい、おい、何だ?何だよ、あのばばあ…首元を、狙っていたな?まさか、あのおばあちゃん…。血でも吸おうとしていたって、いうのか?」

 頭が、混乱してきた。

 「バンパイヤじゃあ、あるまいし…」

 そう思うや否や、おばあちゃんは、手の平サイズの何か…、メモ帳…、それよりももっと小さくて薄い物を、取り出した。

 「新しい作業が、おこなわれるぞ!」

 神が、老眼鏡をかけ直した!

 「ひひひ」

 かわいそうなくらいに満足をした笑みを、浮かべていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る