第44話 レベルアップやエウレカへの道に、女性高齢者あり。「こ…こいつ!動くぞ!…こいつは、駄菓子屋のおばあちゃんだ。まさか…、駄菓子屋の鼓動は、愛!」「このばばあを、甘く見るなよ。修正、してやる!」

 レベルアップやエウレカへの道とは、良くいったものだった。

 駄菓子屋教室は、漆黒と深淵を、饒舌に描いていたようだ。

 「うひひ、ひひ…」

 フロアから、怖い声が聞こえていた。

 「何だよ、この声…」

 とりあえず、折り重なっていた人たちの間に入っていった。

 「逃げるべき、身を隠すべき、良い場所」

 その場所を、ヒビキは、人の山の中に見出したのだった。

 しかしそこは、困った隠れ場所だった。

 「うわ…」

 折り重なっていた人の手が、ヒビキの顔に触れた。

 「何だよ。気持ちが悪いじゃあ、ないか」

 優しい手に、頭に、きていた。

 「馴れ馴れしい」

 無礼者にさえ、思われた。

 だがそれらには、捨て去りたくなるほどの臭みは漂っていなかった。むしろ、暖かな鼓動さえ、感じられたものだった。

 「捨てられない、か…」

 手が、重なってきた。

 「簡単に捨てちゃったら、俺たちと、同じだもんな」

 …。

 「我慢してやるか」

 鼓動の聞こえは、空耳では、なかったようだ。危うい気配が、してきた。

 「何だ、何だ?こいつら、死んでいたわけじゃあ、なかったのか?」

 完全なる安心など、できず。

 「同世代の人たちに囲まれて友達意識を分かち合えるような気になってしまったとしても、恐怖は、恐怖」

 どうなるのだ?

 心が、萎えた。

 「いつかは俺も、ああなっちゃうんじゃないのか?」

 心を、つぶされかけていた。

 「負けるな!ヒビキ!」

 自身を、励ました。

 「ヒビキ!子どものころを、思い出せ!あのころは、泥だらけになっても、我慢ができたじゃあ、ないか!」

 頭を、振った。

 「あのころは、どんなに嫌なことがあっても、これから駄菓子屋に寄るから…楽しみな場所が待っているからって、我慢できたじゃないか。ヒビキ、我慢だ!氷河期だって、そうして我慢して、乗り越えられたじゃあ、ないか!負けるな、ヒビキ!」

 胸に、手を当てていた。

 祈っていたのだ。

 「ヒビキ?ここであきらめてしまったら、試合終了なのよ?」

 母親の声が聞こえてきたような気が、していた。

 「…キーン!」

 そのとき、氷河を断ち切る刃のような音が響いてきた。

 目をこらすと、ヒビキの視界の中に、奇妙な物が映り込んだ。

 ゆるりゆるりと、蠢いていた。

 「まさか…人なのか?」

 動くその何かが、ヒビキのほうを向いた。

 「こ…こいつ!動くぞ!」

 女性だった。

 「高齢者…。…こいつは、子どものころに見ていた駄菓子屋のおばあちゃんだ。まさか…、駄菓子屋の鼓動は、愛!」

 懐かしくもあり、ややこしかった。おばあちゃんは、何かを手にしていた。

 「このばばあを、甘く見るなよ。修正、してやる!工夫を、施してやるんじゃよ!」

 よーっく耳を澄ませば、そう、言っていたようだ。

 「何を、やっているんだ?」

 おばあちゃんを、こっそりと見てみた。

 「何だ…?あのおばあちゃんは、何を持っているんだ?」

 おばあちゃんは、手に何かを持ち、妙な動きをしていた。

 「あの頃の、ようだな…」

 駄菓子屋にいっておばあちゃんとおしゃべりした子ども時代を、思い出していた。

 駄菓子屋のおばあちゃんは、偉かった。

 「小学生ども!店の中に、ゴミを散らかすんじゃ、ないよ!」

 おばあちゃんは、怖かった。

 ヒビキは、駄菓子のミニカップ麺が好きで何度も買って、店の中にあったテーブルの上で食べていた。

 そのミニカップ麺は、20円だった。

 それを食べるために、ヒビキは、買った後で、おばあちゃんにカップを渡したものだ。

 「おばあちゃん、これ、食べたい」

 まず、怒られた。

 「そんな言い方じゃあ、わかんないだろ。社会では、通じないよ。僕は、このカップ麺を食べたいんです。どうしたら、良いんですか?お湯を、ください。箸をください、そう言うんだろ!」

 「うるせえばばあ、だなあ…」

 「うるせえ、だって?」

 「やばい!」

 「あんた、聞こえてんだよ!誰に、そんな言い方を、教わったんだい!クソガキ!」

 「そっちだって、汚い言い方、しているじゃないか!」

 「おばあちゃんは、良いんだよ!」

 「何でだよう!」

 「文句言っていると、お湯入れてやんないからね?箸も、やらない」

 「ちぇっ。…わかったよ。悪かったよ」

 「ちゃんと、言え」

 「ごめんなさい」

 「そうだ」

 「僕は、このカップ麺を食べたいんです。カップ麺に、お湯を入れてください。箸も、ください」

 「物わかりが、良いじゃないか」

 「はい…おばあちゃん」

 「良いだろう。取引だ」

 子どもたちは、30円を徴収された。

 そのうち10円が、湯の代金。プラス、箸の代金だ。それに、神を動かせたことによる、人件費だった。

 神は、そうして、カップ麺の容器の下に、芋版で、店のスタンプを押した。

 「おばあちゃん、いつも思うんだけど、何を、もってんの?」

 ヒビキは、疑問だった。

 「芋版だよ」

 「ああ、そう」

すぐに、理解できた。

 が、かつては駄菓子屋で行きかった、芋版という言葉も、今では通じなくなってきたようだ。






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