第41話 社会は、かわいそうでちゅねえと言ってもらえるヒヨコちゃんたちのほうを、欲しかった。…なぜか?

 いやいや、本当に、ちょっぴりと、流れていたような気がした。

 「社会は、君たちのような努力世代を切り捨てた」

 「…」

 「社会は、かわいそうでちゅねえと言ってもらえるヒヨコちゃんたちのほうを、欲しかった。…なぜか?優秀な就職氷河期世代の子に入社されてしまえば、定年退職世代のおじさんたちが作り上げた理想郷ピラミッドの穴が、見抜かれてしまうからと、恐れられていたからなんじゃないのかな?」

 「…」

 「かわいそうなのは、そのおじさんたちの奥様もだろうね。これまでは、朝から会社なりに出かけてくれたから、奥様方の心の負担は、軽くなった。しかし、旦那が定年退職をして、朝から家に居座られたら、どうなるんだ?今後はもう、家に、金をもってきてくれるわけではなし。言ってみれば、絶対に当たらない駄菓子のクジをつかまされたようなものだ。泣くよね?」

 「もう…。良いじゃないか」

 「かわいそうな、ことだよ。今どき世代の子たちは、かつての子たちのように、駄菓子屋通いで、理不尽な神とバトルを繰り返した経験をもたない。結果、知らない人とはしゃべれないヒヨコちゃんたちが生まれた。社会に出て、その子たちは、どう生きるんだろうね?会社は、手取り足取り、面倒を見てくれるのかな?…そんな子たちの、どこが、かわいそうだというのかね?こんなことで、会社は、定年退職おじさんたちのシナリオ通りとなっていけるのかな?…無理だと、思うけれどねえ。新卒一括採用っていう悲劇は、いつかは絶対にぼろを出すおまけシステムだ。そのおまけで、採用経費も抑えられる?バカを言うなよな、あの、ソサエティめ」

 「…」

 「ヒビキ君たちは、本当に、無念でならなかったことだろうね」

 「…」

 「ヒビキ君たちは、社会のイス取りゲームに、負けたんだ…」

 「お前…」

 「たとえ仲の良かった兄弟に見えても、駄菓子屋に入れば、なぜか、ケンカを起こしてしまうことがある。もしかしたら、それと似ていたのかもね」

 「…」

 「まあ、良い。君たちなら、階段で進む道を選んでくれるかもしれないと、ほんのちょっぴり、期待していたんだけれどね。君たちは、これまで、苦労させられてきたからねえ…。これからも苦労できると信じて、歩く道を選択してくれる可能性もあると、期待していたのに。買いかぶりだったかな?現実は、予想通りには、いかなかったね?」

 「…」

 男の子の追及で、がっくりきた。

 「この苦労の道の先につながるのは、暗闇でしかないのか?」

 ヒビキは、ただ、迷っていた。

 それでも…。

 「それでも、俺たちは…」

 場の冷たかった空気が、何となくだが、暖かくなってきた。

 「ヒビキ君!今が、チャンスだよ?」

 ワクワクする声が、聞こえてきた。どこまでも不思議な教室、だった。

 「さあ、新たな駄菓子屋教室を、はじめるんだ!」

 「新たな、教室…?」

 「ヒビキ君たちなら、できるさ。君たちには、可能性があるんだ!危機管理のできた君だったからこそ、エスカレーターの様子を確かめることが、できたんじゃないか」

 「あれを確かめさせたのは、危機管理能力だったのか…?」

 「そうだ!君は、エスカレーターを、足蹴りした。故障していないかどうか、他の皆も使えるのかどうか、確かめようとした。それが、危機管理だよ」

 「…そうだったのか」

 「そうだ」

 「…」

 「貧乏くじ、引いた」

 「今は、そう言うなよ」

 小さい子になぐさめられてしまって、みじめだった。

 「貧乏くじ、だろう?俺たちのほうが、苦労してきたのにな…」

 「泣くな!」

 「…わかったよ」

 小さな子に励まされて、ヒビキは、気を取り戻すしかなかった。

 「問題ないさ!」

 「ヒビキ君、本当かい?」

 「ああ。俺たちだって、充分、子どもなんだからな!」

 「はあ?」

 「エスカレーターは、高齢者や子どもに配慮してのものだったんだろう?それなら、やっぱり、俺たちのためのものだったわけだ!俺たちだって、子ども!新卒一括採用のヒヨコちゃんたちにポストを奪われたくらいだったんだから、俺たちのほうこそ、子どもだったじゃないか。大人よりも駄菓子屋にいきやすい、子どもだった!」

 「おい、おい。ヒビキ君は、壊れてきちゃったのかい?ここで何を、言っているんだよ…」

 その通りに、やや混乱していたようだ。ヒビキが言えば言うほど、男の子は、情けなくなっていくのだった。

 「ここで、勉強だ」

 「ここで?」

 「そうさ」

 「ふう」

 「勉強をさせるために、この駄菓子屋教室を開いたんだからね」

 「わかったよ」

 男の子が、右手の拳を握りしめた状態で、天に伸ばした。

 「人は、駄菓子のみにて生きるにあらず。ヒビキ君、がんばれ!」

 「おいおい…」

 ゆるい空気が、過ぎていった。

 「パンのみにて生きるにあらず、じゃあなかったのか?」

 「良いんだよ」

 「良いのか?」

 「さあ!人は、駄菓子のみにて生きるにあらずだ!」

 駄菓子屋教室の教えでは、その言葉のほうが、適切だということだった。

 「ヒビキ君!聖書の一文を、勝手に、変えるな!」

 ぷんぷん顔が、うらやましくも、反射してきた。






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