第40話 「あのとき先生が怒ってくれたから、僕の今があるんですよ!」(←それ、勘違いですよ)

 追加攻撃が、必要だった。

 「それが、社会じゃなかったのか?」

 「何を、言っているんだ。社会は変わったということじゃ、ないか」

 男の子の声が、落ち込みはじめた。

 ヒビキは、自分でも情けなくなるほどに、陽気だった。

 「なあ、そうだろう?再会の味も、そうだ。例えば学校の先生っていうのは、教えた子に、後々になって感謝される。ああ、あのとき先生が怒ってくれたから、僕の今があるんですよ。なんてね」

 「ああ、あるよなあ。そういう光景も、良いものだ」

 「そうかな、ヒビキ君?」

 「何?」

 「…そんなのは、幻想にすぎないよ。偽物駄菓子屋教室の教えに負けず劣らずの、幻想だ。それが、教育なのか?だいたい、学校の先生は、感謝されるほどの存在なのか?だとしたらそれも、勘違いだ」

 「そうか?」

 「今君の言っていた教育なんか、時代錯誤の、駄菓子屋ばばあ神だ。君には、時代の変化も、感じられないのか。怒られることは、悪くない。でも、殴ったりすることには、反対だね。今は、殴られて大きくなれる社会だとは、思えない」

 「…」

 「時代錯誤も、駄菓子屋教室の敵だね」 

 「…」

 「おじさんたちは、殴られても良かったらいけれどね」

 「何だと?」

 ヒビキが怒ると、男の子は、長い説明をはじめてきた。

 「データ上、先生に殴られたから今の僕があるんですって言える人は、ほぼ、おじさん世代に固まっていたようだ。あの人たちは、殴られたってなんだって、何にもしなくても昇進して人の上に立ち、プライドを保った生活が送れた。年功序列っていう、時代錯誤だね。その世代は、そこで、勘違いしちゃうんだろうね。昇進して偉くなれたのは、先生に殴られたからなんですって。今そんなこと言っちゃったら、問題だろうなあ。勘違いだって、いうのにさ。あの世代は、自分の分析もできない。怖いねえ。そこにきて先生も、気付かない。先生たちだって、若い頃は、新卒一括採用のヒヨコちゃんたちだったんだからね。あはははは!」

 「…」

 「社会の変化を、感じて欲しいよね。それができないと、変化していく社会に対応できない、頑固な人になっちゃうよ?社会は、変わっていくのさ。駄菓子屋ソサエティも…」

 「ほう」

 「変わっているのは、あいつらのほうも、同じだろうけれどね」

 「あいつら?」

 新たな謎が増えたようになって、男の子の話に、吸い込まれていた。

 「あいつらって、何だよ?」

 「忘れちゃったのかい?前にどこかで、話したよね…」

 「前に、話を…。じゃあ、裏のソサエティっていうやつ、なのか?」

 問い詰めてしまっていた。

 「あいつらは、僕らの敵。地獄、神曲を司る、闇の魂だ…」

 ヒビキの奇妙さが、増していった。

 何と…。

 駄菓子屋ソサエティのまわりには、神曲をも司る勢力図らしきものが、存在したようなのだった。

 「ヒビキ君?先程の行動は、いただけないね。エスカレーターを足蹴りしちゃって、どうしたかったんだい?昔の家電じゃあ、なかったんだよ?あはははは」

 確実に、バカにされていた。

 「そりゃあ、ヒビキ君たちがエスカレーターに憧れて、それに乗るのを選択しようとするのも、わからなくはない」

 「お、お前!俺を、どこかで見ているんだな?」

 「…」

 声が、止んだ。

 「なあ?どこかで、見ているんだろう?」

「ふん。ヒビキ君は、その程度か」

 点いたり消えたりの声に、駄菓子屋教室の明かりが、重なっていた。

 「あ!今度は、何だ?」

 時空のひずみができたような気が、した。

 「この感覚は、何だったんだ?」

 ヒビキがたじろいでいると、男の子による謎の声が、甦ってきた。

 「ほら。予想通りだったね?君なら、まずエスカレーターを選ぶんじゃないかと、思っていたからね。見事に、当たっちゃったみたいだ」

 「…」

 「かわいそうにねえ。これまでにもエスカレーターを使えば、楽になれたのにねえ。でも、できなかった。努力をする道を、選ばされちゃった。その先には、はつらつとしたエンディングなんてなくて、幻の希望で、氷河だけだったというのにね」

 「…」

 「ヒビキ君は、絶対、楽々生活に、憧れていたはずだ。エスカレーターを選ぶだろうというこちらの予想は、裏切らなかったみたいだね」

 「ずいぶんと、生意気なことを…」

 「しかし…。ちょっと、残念だったよ」

 「残念だと?」

 「本当に、エスカレーターを選んじゃうんだからねえ」

 「…生意気な」

 「いやいや、ヒビキ君?安心したまえ。批判は、しないよ?」

 ヒビキは、いつまででも笑われる雰囲気にはまってしまっていた。

 「だがヒビキ君?安心したまえ」

 しかしその言い方には、腹が立ってきた。

 「なあ、ヒビキ君?」

 「何だ?」

 「君たちは、ずっとずっと、うらやましかったんだろう…?」

 「…」

 またも言い返せないところが、余計に、腹が立った。

 「今の社会は、楽になったよ。努力、そして失敗からの再挑戦なんかしなくても、ただ待っていれば何かが動いて、どこか良いところに、連れていってくれるんだからね?どこが、かわいそうなものか。それはもう、この駄菓子屋教室でも作れないくらいの、鉄壁の終身社会に落ち着くはずだった」

 「…」

 「だがそれは、大きな副産物を生み出してしまった」

 「副産物、だと…?」

 「何も考えずに、ただぽけーっと座っているだけの人を、生み出してしまった」

 「やっぱり…そこなのか」

 「君たちは、ひどい思いをさせられたと思うよ」

 「…」

 「君たちは、我慢をした。…我慢をしなければ、ならなかった。そして、再チャレンジを誓った。今どき世代の子たちとは、大きな差だ。けれども、再チャレンジを誓ったヒビキ君たちの希望は、無残にも破られた。就職協定やらを裏切って、しゃしゃり出てきたヒヨコちゃんたちがいたからねえ。君たちは、生きるポストを奪われた」

 「…」

 かわいそうなくらいに、涙が、出てきそうだった。



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