第39話 セーブポイントを見つけて、安心してジュースを取りにいって帰ってきたら、ネコが、リセットボタンを踏んづけていたぞ♡

 渋々、かわいそうなほど従順に、歩みを押し殺していた。

 「本当、かい?ヒビキ君?ヒヨコちゃん世代の先生は、無残だ。激務で忙しいのはわかるけれど、その生活の中で、より楽な最短ルートしか理解できない子を生ませていく一方だ。効率を追い求めるっていうのも、わからなくはない。けどねえ…、神は、怒るだろうよ」

 「駄菓子屋教室は、厳しいんだな」

 「当然さ」

 取り巻く空気の全てが、厳しかった。

 「エスカレーター方式の新卒一括採用が進むと、そういうことが起こる。今は、先生の人材難だ。いい加減な先生でも、採用されちゃう。気の毒コース。でも、本当に気の毒なのは、誰だろうね?新卒一括採用に振り回されるまわりの人のほうが、気の毒さ」

 「…」

 「ねえ、ヒビキ君?駄菓子屋のあり方からも、そういう危機を感じちゃうね」

 「…」

 ヒビキは、良くしゃべる男の子に、圧倒された。

 …男の子は、教育評論家だったのか?

 「ただ答えを教えちゃったら、ものを考えるチャンスが、奪われちゃうだけ。まあ、先生がすぐに答えを教えちゃうのには、情けない裏があるとも、言われているけれどね」

 「なんだ、そりゃ?」

 「ヒビキ君?これは、教育法とかにはない話なんだけれどさあ…」

 「すごい話に、なってきたな」

 「今の先生は、無意識下で、児童生徒にものを考えさせたくない心理が出てしまうからなんだそうだ」

 「何でだ?」

 「児童生徒にモノを考えさせると、それをさせた先生が、優秀な子にすぐに追い抜かれてしまうからだ。先生よりも児童生徒のほうがレベルが高いんじゃあ、そりゃあ、まずいよね。良い教育は良いんだけれど、それをやり過ぎると、優秀な児童生徒についていけなくなっちゃうんだよね。それって、不都合だろう?教師のプライドが、丸つぶれだ。それが嫌だというので、今の先生は深層心理上、子どもたちに、ものを考えさせないようにしているんだって。本当かねえ」

 「そりゃあ、ひどいな」

 「笑えないだろう?」

 「ああ。笑えんな」

 「それでさあ…。正しいものだけを先に教えてしまう生活に慣れちゃったら、児童生徒は、どうなっちゃうんだろうね?」

 「…」

 「まず、社会に出て、大ストレスだ」

 「なぜだ?」

 「ヒビキ君?社会には、答えはないんだ。あれ?どこにも、マニュアルなんてないじゃないか!って、職場で、パニックになっちゃうだけだ」

 「病んでいるな…」

 「それが、現実なのさ」

 「…」

 「今のヒヨコちゃん教育は、ものすごい危険をはらんでいる。これからの駄菓子社会にも、インパクトを与えてくれるだろう」

 「インパクト…か?」

謎の道の先が、見えてきた。

 「着いた」

 2人の目の前に、小教室が迫っていた。

 「そこは、第2教室だ」

 「あそこが?」

 ヒビキは、理解の進まないままに、その教室の中に入った。

 「お前は、どうするんだ?」

 だが振り返ると、先ほどまでいたはずの男の子は、いなくなってしまっていた。

 「おい?どこに、いっちゃったんだ?何だよ、あいつ…」

 小教室のほうに、向き直した。

 「ガラガラ…」

 スライド式の扉が、なんだか、泣いていた気がした。

 「ペチャ、ペチャ」

 チョコレートの雨が、降ってきた。

 「次は、何だ?何だ、これは?」

 ヒビキは、チョコレートの来襲から逃れる生徒となってしまった。すぐさま、教室の中に入ることにした。

 「参ったな…。まあ、この建物の中にいれば、この気味の悪い雨からも守れるだろう。チョコレートの雨だなんて、どうかしているよな。駄菓子のコーティングじゃ、あるましし。この教室から外に出ないよう、気を付けなくっちゃな。ここにいれば、安全安全。って、ヒヨコちゃんみたいになっちゃったな。ははは」

 小教室の明かりが、点いたり、消えたりしていた。

 チカチカ…。

 「まるで、町外れの、ひなびた食堂だな。さみしいなあ。それか、セーブポイントを見つけて、安心してジュースを取りにいって帰ってきたら、ネコが、リセットボタンを踏んづけていたさみしさだ」

 小教室を、憐れんで見ていた。

 「しかし、嫌な感じだ。点いたり、消えたり。俺たちも、こんな思いをして、氷河期を味わっちゃんだよなあ」

 教室内を見渡すと、一基のエスカレーターが設置してあるのが、見えた。

 階段、も。

 そのどちらもが、地下へと通じていた。

 その教室には、2階部分がなかった。

 「平屋教室、か」

 エスカレーターは、動いていなかった。その様子を見て、ヒビキは、調子を崩された気になってしまった。

 心を、ぐっと、沈ませていた。

 そのときヒビキの心に、怒りのスイッチが入ってしまった。

 「なぜだ!なぜ、動かないんだ!動いて、くれよ!どうしちゃったんだよ。この、エスカレーターは!」

 ヒビキは、つい、足で、エスカレーターを攻撃していた。

 「つんつん。ブラッドソードで、ずごべしゃあ!なんてな…」

 試し蹴りも、していた。

 確かめるように、エスカレーターに乗ってみた。

 「あれ?」

 それでも、動いてくれることはなかった。

 すると、どこからか、こんな声が聞こえてきた。

 「ヒビキ君?そんなことをしても、無駄だよ?エスカレーターは、動いてくれないよ?良く、考えても見てよ。足蹴りされて、誰が従ってくれるって、いうんだい?」

 「ちぇっ」

 「さっき僕が、どうして、教育の話をしたのか?君には、わからなかったのかい?」

 「何だと?」

 「足蹴りされて殴られて、子どもたちは成長できると思っていたのかい?ははは」

 「…」

 「ねえ?」

 「昔は、そういう教育が、当たり前だったじゃないか?」

 「昔は、当たり前?」

 「そうだ。そういう先生だって、いたじゃないか!優しい先生たちの中にも、そういう先生がいたんだ!教育は、1人、そういう番人のような人を置くことで、現場を、成り立たせることに成功した!学校にそのシステムがあったからこそ、子どもたちは、怒られないように、ルールを守った行動がとれたんじゃないか!」

 「…」

 今度は、男の子のほうが、黙ってしまったようだ。






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