第37話 もっともっと恐ろしい言葉は、データが、すっ飛んだ。
こんな造語が、あった。
「電波ジャック」
複雑だ。
「黒板ジャック」
そうした言葉も、あった。
それも、不思議な使い方だった。
造語としては、ご愛嬌か。楽しい派生言葉も、あったものだった。
「ハイジャックは、ダメ?」
「ダメじゃないけれど、連呼するのは、恥ずかしい」
「黒板ジャックは、良いのか?」
「うん。良いんじゃないのか?」
「なぜ?」
「その言い方は、面白いからだ。言葉の多様性が、認められる。きっと我がソサエティでも、すんなりと受け入れられるさ」
「へえ」
「電波ジャックだって、良いじゃないか。電波ジャックで、どこかの駄菓子屋に、閉じ込められちゃったりして」
男の子は、傷付いた。
「何を、言っているんだ。ヒビキ君は、教養がないねえ」
「はあ?」
「ヒビキ君と話していて、面白かったよ」
「何だと?」
「だからさ…。ハイジャックのジャックが男っていう意味なら、電波ジャックじゃ、電波男っていう意味になっちゃうじゃないか。笑っちゃうねえ」
小さな子に知識の無さを追及されてしまって、ヒビキは、腹も立った。
「俺は、間違って、使っていたのか?」
「ふふふ」
「だって、現場をジャックしたぞ!あの建物をジャックしたぞとか、言うじゃないか。フツーに。それって、変だったのか?」
負けまいと、反論していた。
「だからそれ、恥ずかしい間違い」
「へえ」
「我々は、ジャックしたぞ!って言う人がいるよね?」
「それって…」
「我々は、男したぞ!みたいな言い方だ」
「まじか!」
「ハハハ…」
本当に、おかしそうに言っていた。
「じゃあ」
「何だい?」
教室の輪が、広がった。
「駄菓子屋ジャックっていうのは、おかしな言い方か?」
「さあてね。アハハハハ…」
また、笑われた。駄菓子屋教室とは、手厳しいものだったのだ。
「じゃあ、復習しようか」
「ちぇっ」
「ヒビキ君?もう一度、勉強だ」
男の子によれば、ハイジャックのハイは、これなのだった。
「ハーイ!元気してるー?」
その、ハイのこと。
そうすると、ハイジャックは、こういった意味になる。
「ハーイ!そこの男ー!」
…。
そういうことか。
「ハーイ!そこの男ー!そうして、道いく男に気安く声をかけて振り向いて着いてきたところを捕らえて、監禁したり脅迫したりする。その行為のことを、ハイジャックと言ったというのだ。
「空高くジャックするっていう意味じゃ、なかったわけだな?」
「違うよ、ヒビキ君?だっせえなあ」
駄菓子屋教室は、厳しかった。
「ヒビキ君?これから君は、駄菓子屋教室の道を、さらに進んでいくことになる。そのために、基礎的な教養を付けてもらいたかったね。今どき新卒のヒヨコちゃんじゃないんだから、駄菓子屋の心が何たるかをまったく知らず、字の読み書きから教わるのは、勘弁してもらいたいね。そのレベルで入社されたほうは、大迷惑だものね。…優秀なな氷河期世代の人が、かわいそうだ」
男の子は,つらく当たってきた。
「ヒビキ君?駄菓子屋教室の次のステージは、ちょっと遠い。歩きながら、話そうじゃないか」
「俺を、連行するのか?これは、駄菓子屋ジャックだ…」
空気が、重かった。
次なるステージに向かうという道が、闇夜のトンネルのように、何者かを欺こうと伸びていた。
「駄菓子屋ジャック?君は、まだ、間違っている。学習できなくっちゃあ、困る」
「学習ねえ」
「そんなんじゃあ、新卒一括採用世代みたいに、なっちゃうよ?」
「彼らは、学習していたじゃ、ないか」
「そうかい?」
「そうさ」
「何を、学習していたんだ?」
「就職練習」
「…そんなの、自分ではものを考えられないマニュアルじゃないか」
「ふん。就職に受かるための、良きマニュアルだ。ヒヨコちゃんたちも、学習できていたじゃないか」
「ヒビキ君、今どき世代の子たちが、うらやましいだろう?」
「…ああ」
「まわりからちやほやされる生活に、慣れきっていたようだ」
「…」
「ヒビキ君たちは、運が悪かったよね?今どき世代の子たちのようであれば、かわいそう、かわいそうって、同情してもらえたのにね?」
「…」
「しかし、ヒビキ君たち、努力をしてきた就職氷河期世代は、見放された。かわいそうの言葉なんて都合の良い魔法されも、かけてはもらえなかった」
「…」
「この差は、何なのだろうね?」
「…」
「ヒビキ君?かわいそうなのは、何だったんだろうね?」
「かわいそう、かわいそうって同情してもらえることに慣れた子たちを、難なく引き入れた会社。急なジョブチェンジは、危険だって、わかっていなかったんだろうよ」
「でも、この人材不足社会の中で、新卒だなんて、最凶の召還魔法を唱えられたとしたら…?」
「面接官のおじさんたちなんて、瀕死だ。フェニックスの尾をかじって、復活する余裕もないよな」
「言うねえ、ヒビキ君?」
「無慈悲な、パーティアタックさ。そんなことしたって、何の得も、ありゃあしないのにな」
「しかし、ヒビキ君?定年退職世代のおじさんたちは、止まらない。無慈悲なおこないを、何となく、してしまう」
「当然だ。自分自身の力で、ものを、考えられなくなってしまったんだからな。そしてまた、予測ができないんだよな」
「だよね」
「教育の差、なのか?今どき世代の子たちが、ますます、かわいそうだとは思えなくなったぜ」
「そうかもね、ヒビキ君?データが、すっ飛んだ。たとえばそれって、実に、恐ろしい事態だよね」
「泣くと思う」
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